1149 儀同三司母
忘れじの行末まではかたければ今日をかぎりの命ともがな
1150 謙徳公
限なく結びおきつる草まくらいつこのたびをおもひ忘れむ
1151 在原業平朝臣
思ふには忍ぶる事ぞまけにける逢ふにしかへばさもあらばあれ
1152 廉義公 ○
昨日まで逢ふにしかへばと思ひしを今日は命の惜しくもあるかな
1153 式子内親王
逢ふことを今日まつが枝の手向草いく世しをるる袖とかは知る
1154 源正清朝臣 ○
恋しさにけふぞたづぬるおく山の日かげの露に袖は濡れつつ
1155 西行法師
逢ふまでの命もがなと思ひしはくやしかりけるわが心かな
1156 三条院女蔵人左近 ○
ひとごころうす花染の狩衣さてだにあらで色やかはらむ
1157 藤原興風 ○
逢ひ見てもかひなかりけりうば玉のはかなき夢におとる現は
1158 藤原実方朝臣
中々に物思ひ初めてねぬる夜ははかなき夢もえやは見えける
1159 伊勢
夢とても人に語るな知るといへば手枕ならぬ枕だにせず
1160 和泉式部 ○
枕だに知らねばいはじ見しままに君かたるなよ春の夜の夢
1161 馬内侍
忘れても人に語るなうたたねの夢見てのちもながからぬよを
1162 藤原範永朝臣 ○
つらかりし多くの年は忘られて一夜の夢をあはれとぞ見し
1163 高倉院御歌
今朝よりはいとどおもひをたきましてなげきこりつむ逢ふ坂の山
1164 源俊頼朝臣
葦の屋のしずはた帯のかた結び心やすくもうち解くるかな
1165 よみ人知らず
かりそめにふしみの野辺の草まくら露かかりきと人に語るな
1166 相模
いかにせむ葛のうら吹く秋風に下葉の露のかくれなき身を
1167 藤原実方朝臣 ○
あけがたきふた見の浦に寄る浪の袖のみ濡れておきつしま人
1168 伊勢 ○
逢ふことの明けぬ夜ながら明けぬればわれこそ帰れ心やは行く
1169 大宰帥敦道親王 ○
秋の夜の有明の月の入るまでにやすらひかねて帰りにしかな
1170 藤原道信朝臣 ○
心にもあらぬわが身の行きかへり道の空にて消えぬべきかな
1171 延喜御歌
はかなくも明けにけるかな朝露のおきての後ぞ消えまさりける
1172 更衣源周子
あさ露のおきつる空もおもほえず消えかへりつる心まどひに
1173 円融院御歌 ○
置き添ふる露やいかなる露ならむ今は消えねと思ふわが身を
1174 謙徳公 ○
思ひ出でて今は消ぬべし夜もすがらおきうかりつる菊のうへの露
1175 清慎公 ○
うばたまの夜の衣をたちながらかへるものとは今ぞ知りぬる
1176 藤原清正
みじか夜ののこりすくなく更け行けばかねてもの憂き有明の空
1177 大納言清蔭 ○
明くといへばしづ心なき春の夜の夢とや君を夜のみは見む
1178 和泉式部
今朝はしも歎きもすらむいたづらに春の夜ひと夜夢をだに見で
1179 赤染衛門
心からしばしとつつむものからに鴫のはねがきつらき今朝かな
1180 九条入道右大臣 ○
わびつつも君が心にかなふとて今朝も袂をほしぞわづらふ
1181 亭子院御歌
手枕にかせる袂の露けさは明けぬと告ぐるなみだなりけり
1182 藤原惟成
しばし待てまだ夜は深し長月の有明の月は人まどふなり
1183 藤原実方朝臣
起きて見ば袖のみ濡れていとどしく草葉の玉の数やまさらむ
1184 二条院讃岐
明けぬれどまだ後朝になりやらで人の袖をも濡らしつるかな
1185 西行法師
おもかげの忘らるまじきわかれかななごりを人の月にとどめて
1186 摂政太政大臣
又も来む秋をたのむの雁だにもなきてぞ帰る春のあけぼの
1187 賀茂成助 ○
誰行きて君に告げまし道芝の露もろともに消えなましかば
1188 左大将朝光 ○
消えかへり有るか無きかのわが身かなうらみて帰る道芝の露
1189 花山院御歌
朝ぼらけ置きつる霜の消えかへり暮待つほどの袖を見せばや
1190 藤原道経 ○
庭に生ふるゆふかげ草のした露や暮を待つ間の涙なるらむ
1191 小侍従
待つ宵に更けゆく鐘の声聞けばあかぬわかれの鳥はものかは
1192 藤原知家 ○
これもまた長きわかれになりやせむ暮を待つべき命ならねば
1193 西行法師
有明はおもひ出あれや横雲のただよはれつるしののめの空
1194 清原元輔
大井川ゐせきの水のわくらばに今日とたのめし暮にやはあらぬ
1195 よみ人知らず
夕暮に命かけたるかげろふのありやあらずや問ふもはかなし
1196 藤原定家朝臣 ○
あぢきなくつらき嵐の声も憂しなど夕暮に待ちならひけむ
1197 太上天皇 ○
たのめずは人を待乳の山なりと寝なましものをいさよひの月
1198 摂政太政大臣 ○
何故と思ひも入れぬ夕べだに待ち出でしものを山の端の月
1199 宮内卿
聞くやいかにうはの空なる風だにもまつに音する習ありとは
1200 西行法師 ○
人は来で風のけしきもふけぬるにあはれに雁の音づれて行く
1201 八条院高倉 ○
いかが吹く身にしむ色のかはるかなたのむる暮の松風の声
1202 鴨長明 ○
たのめ置く人もながらの山にだにさ夜ふけぬればまつ風の声
1203 藤原秀能 ○
今来むとたのめしことを忘れずはこの夕暮の月や待つらむ
1204 式子内親王 ○
君待つと閨へも入らぬまきの戸にいたくな更けそ山の端の月
1205 西行法師
たのめぬに君来やと待つ宵の間の更け行かでただ明けなましかば
1206 藤原定家朝臣 ○
帰るさのものとや人のながむらむ待つ夜ながらの有明の月
1207 よみ人知らず
君来むといひし夜毎に過ぎぬれば頼まぬ物の恋ひつつぞ経る
1208 柿本人麿
衣手に山おろし吹きて寒き夜を君来まさずは独かも寝む
1209 馬内侍
逢ふことはこれや限のたびならむ草のまくらも霜枯れにけり
1210 女御徽子女王
馴れゆくはうき世なればや須磨の蜑の塩焼衣まどほなるらむ
1211 坂上是則 ○
霧深き秋の野中のわすれ水たえまがちなる頃にもあるかな
1212 安法法師女
世の常の秋風ならば荻の葉にそよとばかりの音はしてまし
1213 中納言家持
足引の山のかげ草結び置きて恋ひや渡らむ逢ふよしをなみ
1214 延喜御歌 ○
東路に刈るてふ萱のみだれつつ束の間もなく恋ひや渡らむ
1215 権中納言敦忠
結び置きし袂だに見ぬ花薄かるともかれじ君しとはずは
1216 源重之 ○
霜の上に今朝ふる雪の寒ければ重ねて人をつらしとぞ思ふ
1217 安法法師女 ○
ひとり臥す荒れたる宿のとこの上にあはれ幾夜の寝覚しつらむ
1218 源重之 ○
山城の淀のわか菰かりに来て袖の濡れぬとはかこたざらなむ
1219 紀貫之 ○
かけて思ふ人もなけれど夕されば面影絶えぬ玉かづらかな
1220 平定文
偽をただすのもりのゆふだすきかけつつ誓へわれを思はば
1221 鳥羽院御歌 ○
いかばかり嬉しからまし諸共に恋ひらるる身も苦しかりせば
1222 入道前関白太政大臣 ○
わればかりつらきを忍ぶ人やあると今世にあらば思ひあはせよ
1223 前大僧正慈円
ただ頼めたとへば人のいつはりを重ねてこそは又も恨みめ
1224 左衛門督家通 ○
つらしとは思ふものからふし柴のしばしもこりぬ心なりけり
1225 よみ人知らず
たのめこし言の葉ばかり留め置きて浅茅が露と消えなましかば
1226 久我内大臣
あはれにも誰かは露を思はまし消え残るべきわが身ならねば
1227 小侍従
つらきをも恨みぬわれに習ふなようき身を知らぬ人もこそあれ
1228 殷富門院大輔 ○
何か厭ふよも長らへじさのみやは憂きに堪へたる命なるべき
1229 刑部卿頼輔 ○
恋ひ死なむ命は猶も惜しきかな同じ世にあるかひはなけれど
1230 西行法師
あはれとて人の心のなさけあれな数ならぬにはよらぬ歎を
1231 西行法師
身を知れば人の咎とも思はぬにうらみ顏にも濡るる袖かな
1232 皇太后宮大夫俊成
よしさらば後の世とだにたのめ置け辛さに堪へぬ身ともこそなれ
1233 藤原定家朝臣母
頼め置かむたださばかりを契にてうき世の中の夢になしてよ
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