45 北山尼君 生ひ立たむ有りかも知らぬ若草を後らす露ぞ消えむそらなき
おひたたむありかもしらぬわかくさをおくらすつゆそきえむそらなき
46 北山女房 初草の生ひ行く末も知らぬ間にいかでか露の消えむとすらむ
はつくさのおひゆくすゑもしらぬまにいかてかつゆのきえむとすらむ
47 源氏 初草の若葉の上を見つるより旅寝の袖も露ぞ乾かぬ
はつくさのわかはのうへをみつるよりたひねのそてもつゆそかわかぬ
48 北山尼君 枕結ふ今宵ばかりの露けさを深山の苔に比べざらなむ
まくらゆふこよひはかりのつゆけさをみやまのこけにくらへさらなむ
49 源氏 吹き迷ふ深山颪に夢覚めて涙催す瀧の音かな
ふきまよふみやまおろしにゆめさめてなみたもよほすたきのおとかな
50 北山僧都 さしくみに袖濡らしける山水にすめる心は騒ぎやはする
さしくみにそてぬらしけるやまみつにすめるこころはさわきやはする
51 源氏 宮人に行きて語らむ山桜風より先に来ても見るべく
みやひとにゆきてかたらむやまさくらかせよりさきにきてもみるへく
52 北山僧都 優曇華の花持ち得たる心地して深山桜に目こそ映らね
うとむけのはなまちえたるここちしてみやまさくらにめこそうつらね
53 北山聖 奥山の松の枢を希に開けて又見ぬ花の顔を見るかな
おくやまのまつのとほそをまれにあけてまたみぬはなのかほをみるかな
54 源氏 夕まぐれ仄かに花の色を見て今朝は霞の立ちぞ煩ふ
ゆふまくれほのかにはなのいろをこてけさはかすみのたちそわつらふ
55 北山尼君 誠にや花の辺りは立ち憂きと霞むる空の気色をも見む
まことにやはなのあたりはたちうきとかすむるそらのけしきをもみむ
56 源氏 面影は身をも離れず山桜心の限りとめて来しかど
おもかけはみをもはなれすやまさくらこころのかきりとめてきしかと
57 北山尼君 嵐吹く尾の上の桜散らぬ間を心とめける程の儚さ
あらしふくをのへのさくらちらぬまをこころとめけるほとのはかなさ
58 源氏 浅香山浅くも人を思わぬになど山の井のかけ離るらむ
あさかやまあさくもひとをおもはぬになとやまのゐのかけはなるらむ
59 北山尼君 汲み染めて悔しと聞きし山の井の浅きながらや影を見るべき
くみそめてくやしとききしやまのゐのあさきなからやかけをみるへき
60 源氏 見ても又逢ふ夜希なる夢の内にやがて紛るる我が身ともかな
みてもまたあふよまれなるゆめのうちにやかてまきるるわかみともかな
61 藤壺宮 世語りに人や伝へむたぐひなく憂き身を覚めぬ夢になしても
よかたりにひとやつたへむたくひなくうきみをさめぬゆめになしても
62 源氏 いはけなき鶴の一声聞きしより蘆間に泥む舟ぞえならむ
いはけなきつるのひとこゑききしよりあしまになつむふねそえならぬ
63 源氏 手に摘みていつしかも見む紫の根に通ひける野辺の若草
てにつみていつしかもみむむらさきのねにかよひけるのへのわかくさ
64 源氏 蘆和歌の浦に海松藻は難くともこは立ちながら返る波かな
あしわかのうらにみるめはかたくともこはたちなからかへるなみかな
65 少納言 寄る波の心も知らで和歌の浦に玉藻靡かむ程ぞ浮きたる
よるなみのこころもしらてわかのうらにたまもなひかむほとそうきたる
66 源氏 朝ぼらけ霧立つ空の迷ひにも行き過ぎ難き妹が門かな
あさほらけきりたつそらのまよひにもゆきすきかたきいもかかとかな
67 女 立ち止まり霧の籬の過ぎ憂くは草の戸ざしに障りしもせじ
たちとまりきりのまかきのすきうくはくさのとさしにさはりしもせし
68 源氏 根は見ねど哀れとぞ思ふ武蔵野の露分け詫ぶる草の縁を
ねはみねとあはれとそおもふむさしののつゆわけわふるくさのゆかりを
69紫上 託つべき故を知らねばおぼつかな如何なる草の縁なるらむ
かこつへきゆゑをしらねはおほつかないかなるくさのゆかりなるらむ
末摘花
70 頭中将 諸共に大内山は出でつれど入る方見せぬ十六夜の月
もろともにおほうちやまはいてつれといるかたみせぬいさよひのつき
71 源氏 里分かぬ影をば見れど行く月の入るさの山を誰か訪ぬる
さとわかぬかけをはみれとゆくつきのいるさのやまをたれかたつぬる
72 源氏 幾そ度君がししまに負けぬらむ物名言ひそと言はぬ頼みに
いくそたひきみかししまにまけぬらむものないひそといはぬたのみに
73 末摘花侍従 鐘撞きて閉じめむ事は流石にて答えまうきそかつはあやなき
かねつきてとちめむことはさすかにてこたへまうきそかつはあやなき
74 源氏 言はぬをも言ふに勝ると知りながらおしこめたるは苦しかりけり
いはぬをもいふにまさるとしりなからおしこめたるはくるしかりけり
75 源氏 夕霧の晴るる気色も未だ見ぬにいぶせさそ降る宵の雨かな
ゆふきりのはるるけしきもまたみぬにいふせさそふるよひのあめかな
76 末摘花 晴れぬ夜の月待つ里を思ひやれ同じ心に眺めせずとも
はれぬよのつきまつさとをおもひやれおなしこころになかめせすとも
77 源氏 朝日射す軒の垂氷は解けながらなどか氷柱の結ぼほるらむ
あさひさすのきのたるひはとけなからなとかつららのむすほほるらむ
78 源氏 降りにける頭の雪を見る人も劣らず濡らす朝の袖かな
ふりにけるかしらのゆきをみるひともおとらすぬらすあさのそてかな
79 末摘花 唐衣君が心の辛ければ袂はかくぞそぼちつつのみ
からころもきみかこころのつらけれはたもとはかくそそほちつつのみ
80 源氏 懐かしき色ともなしに何にこの末摘花を袖に触れけむ
なつかしきいろともなしになににこのすゑつむはなをそてにふれけむ
81 末摘花命婦 紅のひとはな衣薄くとも只管くたす名をし立てずは
くれなゐのひとはなころもうすくともひたすらくたすなをしたてすは
82 源氏 逢はぬ夜を隔つる中の衣手に重ねていとど見もし見よとや
あはぬよをへたつるなかのころもてにかさねていととみもしみよとや
83 源氏 紅の花ぞ文なく疎まるる梅の立枝は懐かしけれど
くれなゐのはなそあやなくうとまるるうめのたちえはなつかしけれと
最新の画像もっと見る
最近の「源氏物語和歌」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事