美濃家裏序
おきにたつしら波を見てだに、
花にもがなと、家づとには、願
ひし人もありける海の、清きなぎ
さに、我しもかヽるたからをひろひ
得て、かひありなどは、世の常の
事をこそいはめ。うらやしくもと、
旅衣かへる袂を、見ぬ人もなかり
ける此悦びを、つたなきおのれ獨やは
とて、故郷人にもしめしけるに、
故郷人も、かゝるめでたきおきつ
しら玉、光つみて、此里にのみは
とて、世の中にひろめむ事
をなむ。せちにそゝのかし
あへりけるままに、梓の
木にうつしゑりて、終に又その
板をさへ、長きたからと、重門が
家のくらのおくに、とりおさめつ。
美濃國大垣人大矢重門