美濃の家づとの序
世中の人のあらまほしきは實心になむ
ありける。そは萬の道を學ぶにこれかれの
人のおなじ師につきていそしむ年月
おなじほどなるにうまく其道を得ると
えざるのとのけぢめこよなきは大かた心の
まめなるとさしもあらぬとによりて也
けり。さるは師も其人のまめ心を見得て
なむ。心得がてなるふしをもねもころに
ときさとすものには有りける。こヽに我友
美濃國大垣の大矢重門はおなじわが
鈴屋大人の御許にとし比まゐり通ひて
哥の道まなぶに此まめ心の人よりは
まさりてなむ有ける。一とせかのみもとに
さもらひて月久にいそしみまなびける
ひとつ心のまめなるを此 大人深くめで
給ひて新古今集の中に其比の人々のこヽろ
深き歌どもをえり出てあるは一もじふた
もじの心しらひのいとこまやかなるくま
/"\までときあらはしてこたみの家づと
にもせよかしとさづけ給へりしをおのれ
ひとりつヽみもたらむよりはおなじ道
しぬぶ世中の人どもにもあまねく見
せむとてこの比木にゑらせたるはいよヽ
まめ心のいたれるになむありける。かれ
磯足等も此めでたきつとものを得つる
よろこびにえたへざるまヽにいさヽか其
まめ心をたヽへてかくなむ。
尾張人藤原磯足