三月
十九日。天晴る。沐浴。午の時許り、召し有るの由、清範示す。未の時、病を扶けて参上す。御製三首を給はり、拝見す。此の事、新古今の序、集中の歌の心を以て其の部に載せられるか。件の歌、皆以て上古作者の歌を用ふ。其の中、夏はつまごひする神なび山の郭公(とあり)。件の歌、赤人の歌にて、後撰に入るの由、去ぬる秋宮内卿見出す。作者の替るに依りて、覚悟せざるなり。此の事、下官告げて奏聞せしむ。其の時議定し、序を改むべきか。又序を載すと雖も、此の歌を出すべきか。去年、事切れず。此の春、予申す。序に於ては、更に一字も改めらるべからず。又序に載せらるる歌、夏の部許り之れ無くば、尤も不審を遺すべし。撰集の時、撰者或は古歌を引き直し、少々又自詠を読人知らずと称し、之を入るる定例なり。此の事を案ずるに、神なびのつまごひの郭公の歌を新しく御詠ありて、御製を入れらる、第一の儀なりと。此の事、勅許あり。去ぬる比、予、家隆又詠進すべき由、仰せ事有り。御製にあらざれば然るべからず由、重ねて申す。必ず用ふべからず。只、御覧じ合はするための由、仰せらる。仍て、各各異様の三首を詠進す。今日、下さる御製、殊勝々々。其の内の一首、猶殊に宜しき由、清範を以て奏聞す。仰せに云ふ、然らば早く切り入るべしと。即ち、経師を召して之を切り継ぐ。本歌を出して、新しき御製を入る(読み人知らずと書く)。此の次でに、又仰せに依り少々御製を出し了んぬ。出でおはしますの後は此の事等沙汰し了りて退出す。ー略ー
仮名序
春霞立田山に、初花を忍ぶより、夏は妻戀する神なびの時鳥、秋は風に散るかづらきの紅葉、冬は白たへの富士の高嶺に雪つもる年の暮までに、みな折りにふれたるなさけなるべし。
夏歌
題しらず よみ人知らず(後鳥羽院)
おのがつま戀ひつつ鳴くや五月やみ神なび山の山ほととぎす
(山辺赤人 後選集よみ人知らず)
旅にして妻恋すらし郭公神南備山に小夜更けて鳴く
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