ひはり 鳴 中の 拍子や 雉子の聲 芭蕉
芭蕉庵のふるきを訪
菫草 小 鍋 あらひし 跡や これ 曲水
江戸
木瓜 莇 旅して見たく 野はなりぬ 山店
畫讃
山 吹 や 宇治の 焙炉の匂ふ 時 芭蕉
白玉 の 露に きはつく 椿 かな 車来
わか身かよわくやまひかちなりけれは
髪けつらんも物むつかしと此春さまをかへて
䈂 もくし も むかしや ちり 椿 羽紅
津国山本
蝸 牛 打ちかふせたる 椿 か な 坂上氏
鴬 の 笠おとし たる 椿 か な 芭蕉
伊賀
はつさくらまた 追々 にさけはこそ 利雪
東叡山にあそふ
小坊 主や 松にかくれて 山さくら 其角
一枝 は をらぬもわろし 山さくら 尚白
鶏 の 聲も きこゆる や ま 桜 凡兆
真 先に 見し枝ならん ち る 桜 丈草
有 明の はつ/\ に咲 遅さくら 史邦
常 斉に はつれてけふは 花 の鳥 千邦
葛城のふもとを過る
猶 見 たし 花にあけ行 神 の顔 芭蕉
いかの國花垣の庄はそのかみ南良の
八重桜の料に附られけるといひ傳へ
侍れは
一里は みな 花守の 子孫 か や 仝
亡父の墓東武谷中に有しに三歳にて
別れ廿年の後かの地にくたりぬ墓の
前に桜植置侍るよしかね/\母の物
かたりつたへてその桜をたつね詫けるに他の
墓猶桜咲みたれ侍れは
まかはしや 花吸ふ 蜂 の 往還り 園風
知人に あはし/\ と 花 見 哉 去来
ある僧の 嫌ひし 花 の 都 かな 凡兆
浪人のやとにて
鼠 共 春の 夜 あれ そ 花 靭 半残
ひばりなくなかのひやうしやきじのこゑ 芭蕉(雲雀:春)
すみれぐさこなべあらひしあとやこれ 曲水(菫草:春)
ぼけあざみたびしてみたくのはなりぬ 山店(木瓜・薊:春)
やまぶきやうぢのほいろのにほふとき 芭蕉(山吹:春)
※画讃 「おそらく山吹の画か茶器を見ての吟であろう」(加藤楸邨)
※焙炉 ほいろ。茶葉・薬草・海苔などを下から弱く加熱して乾燥させる道具。
しらたまのつゆにきはつくつばきかな 車来(椿:春)
※露 秋の季語だが、椿についているので季語とみなさない。
かうがうもくしもむかしやちりつばき 羽紅(椿:春)
※䈂 こうがい 髪を掻き上げて髷を形作る装飾的な結髪用具
かたつぶりうちかぶせたるつばきかな 坂上氏(落椿:春)
うぐひすのかさおとしたるつばきかな 芭蕉(椿:春)
※うぐいすの笠
古今集 鴬の笠に縫ふてふ梅の花折りてかざさん老かくるやと
古今集 青柳をかた糸によりて鴬の縫ふてふ笠は梅の花笠
※元禄三年二月六日、伊賀百歳亭興行歌仙の発句
はつざくらまだおひおひにさけばこそ 利雪(初桜:春)
こぼうずやまつにかくれてやまざくら 其角(山桜:春)
ひとえだはをらぬもわろしやまざくら 尚白(山桜:春)
※古今集 見てのみや人に語らむ桜花手ごとに折りて家づとにせむ を踏まえる。
にわとりのこゑもきこゆるやまざくら 凡兆(山桜:春)
※鶏の聲 陶淵明の桃花源記「鶏犬相聞」より。
まつさきにみしえだならんちるさくら 丈草(散桜:春)
ありあけのはつはつにさくおそざくら 史邦(遅桜:春)
じやうときにはづれてけふははなのとり 千邦(花:春)
※常斉 斉は斎の誤字で、常斎。在家が僧に特定の時に出す食事。千邦は堅田本福寺の住職。
なほみたしはなにあけゆくかみのかほ 芭蕉(花:春)
※神の顔 葛城一言主神は、顔が醜いと言う伝説を踏まえ、拾遺集の小大君
岩橋の夜の契りも絶えぬべし明くる佗しき葛木の神 を踏まえる。
ひとさとはみなはなもりのしそんかな 芭蕉(花守:春)
※花垣の里 三重県伊賀市与野。花垣神社と八重桜公園がある。一条天皇の御代に、この桜を守るため、花守が派遣されたという伝承があり、この句碑が立っている。
まがはしやはなすふはちのゆきかへり 園風(花:春)
しるひとにあはじあはじとはなみかな 去来(花見:春)
あるそうのきらひしはなのみやこかな 凡兆(花:春)
ねずみどもはるのよあれそはなうつぼ 半残(花:)
※花靭 靭は靫の誤字で、矢を入れる箱型の道具。壺胡簶(つぼやなぐい)の事。ゆきとも言う。