春の日
逢坂の夜は笠みゆるなどに
明て
馬かへておくれたりけり夏の月 聴雪
老聃曰知足之足常足
夕かほに雜水あつき藁屋哉 越人
箒木の微雨こほれて鳴蚊哉 柳雨
はゝき木はなかむる中に昏にけり 塵交
萱草は随分暑き花の色 荷兮
蓮池のふかさわするゝ浮葉かな 仝
暁の夏陰茶屋の遅きかな 昌圭
夏川の音に宿かる木曽路哉 重五
譬喩品ノ三界無安猶如火宅
といへる心を
六月の汗ぬくひ居る䑓かな 越人
逢坂の夜は笠みゆるなどに明て
うまかへておくれたりけりなつのつき 聴雪(夏の月:夏)
老聃曰知足之足常足
ゆふがほにざふすいあつきわらやかな 越人(夕顔:夏)
ははきぎのこさめこぼれてなくかかな 柳雨(蚊:夏)
ははきぎはなかむるなかにくれにけり 塵交(箒木:夏)
くわんぞうはずいぶんあつきはなのいろ 荷兮(萱草:夏)
はすいけのふかさわするるうきばかな 荷兮(蓮池:夏)
あかつきのなつかげちややのおそきかな 昌圭(夏陰:夏)
なつかはのおとにやどかるきそじかな 重五(夏川:夏)
譬喩品ノ三界無安猶如火宅といへる心を
ろくぐわつのあせぬぐひゐるうてなかな 越人(六月:夏)
※老聃曰 老子第四十六章「故に足るを知るの足るは、常に足る(故知足之足常足矣)」による。聃は、老子の字又は諡。
※箒木 新古今和歌集巻第十一 戀歌一
平定文家歌合に 坂上是則
その原やふせやに生ふる帚木のありとは見えて逢はぬ君かな
による。
※萱草 忘草、忘憂草
※夏陰 万葉集巻第七 柿本人麻呂家集による
夏陰の妻屋の下に衣裁つ我妹うら設けて我がため裁たばやや大に裁て
※譬喩品 妙法蓮華経 譬喩品 「三界安きこと無し、猶火宅の如し(三界無安猶如火宅)」