新古今和歌集の部屋

絵入源氏物語 花宴 更に君を待たまし 蔵書


「寝殿に女一の宮、女三の宮のおはします、東の戸口におはして、寄りゐ給へり。藤は、こなたのつまに辺りてあれば、御格子共、上げ渡して、人々出でゐたり。袖口など、踏歌の折り覚えて、ことさらめきもて出でたるを、相応しからず。先づ、藤壺わたりをおぼし出でらる。『悩ましきに、いといたう強ゐられて、わびにて侍り。畏けれど、この御前にこそは、陰にも隠させ給はめ』とて、妻戸の御簾を引き着給へば、」

 

 

のやうにてなにこともいまめかしうもてなし給へり。

げんじの君にも一日内にて、御たいめんのつゐてに、

きこえ給しかど、おはせねばくちおしう、ものゝはへな

しとおほして御このせうしやうをたてまつり給
 右大臣
  わがやとの花しなべてのいろならはなにかはさ
         源
らに君をまたまし。うちにおはするほどにて
        御門詞
うへにそうし給。したりがほなりやとわらわせ給

て、わざとあめるを、はやうものせよかし。女みこたち

などもおひ出る所なれば、なべてのさまには思ふまし
         源
きをなどの給はす。御よそひなどひきつくろひ給

ていたうくるゝほどに、またれてぞわたり給。さくら

のからのきの御なをし、えびぞめのしたがさね、しり

いとながくひきて、みな人はうへのきぬなるに、あざれ

たりおほきみすかたのなまめきたるにて、いつか

れいり給へる御さま、げにいとことなり。花のにほひ

もけをされて、中々ことざましになん。あそびな

どいとおもしろうし給ひて、夜すこしふけゆくほ

とに、げんじのきみいたうゑひなやめるさまにもて

なし給て、まぎれたち給ぬ。しんでんに女一の宮、

女三の宮のおはします、ひんがしのとぐちにおはし

てよりゐ給へり。ふぢはこなたのつまにあたりてあれ
  み
ば、御かうしどもあげわたして、人々゛いでゐたり。袖

くちなど、たうかのおりおぼえて、ことさらめきも

て出たるを、ふさはしからず。まづふぢつぼわたりをお
      源詞
ぼし出らる。なやましきに、いといたうしゐられて、

わびにて侍り。かしこけれど、此御まへにこそはかげ

にもかくさせ給はめとて、つまどのみすをひきゝ
    女詞
給へば、あなわづらはし。よからぬ人こそやんごとな

きゆかりはかこち侍りなれといふけしきをみ

給におも/\しうはあらねど、をしなべてのわかう

どどもにはあらず。あてにおかしきけはひしる

し。そらだき物いとけふたうくゆりて、きぬの

をとなひ、いとはなやかにうちふるまひなして、

 


のやうにて、何事も今めかしうもてなし給へり。源氏の君にも一日、内に

て、御対面(たいめん)のつゐでに、聞こえ給しかど、おはせねば、口惜

しう、物の映へなしとおほして、御子の少将を奉り給ふ。

  我が宿の花しなべての色ならば何かはさらに君を待たまし

内裏(うち)におはする程にて上に奏し給ふ。「したり顔なりや」と笑わ

せ給ひて、「わざとあめるを、早うものせよかし。女御子達なども生ひ出

づる所なれば、なべての樣には思ふまじきを」など宣はす。御装(よそ)

ひなど引き繕ひ給て、いたう暮るる程に、待たれてぞ渡り給ふ。

桜の唐の綺の御直衣、葡萄(えび)染の下襲、裾(しり)いと長く引きて、

皆人はうへの衣(きぬ)なるに、あざれたりおほ君姿の、なまめきたるに

て、いつかれ入り給へる御樣、げにいと異なり。花の匂ひも、けをされて、

中々ことざましになん。遊びなどいと面白うし給ひて、夜少し更け行く程

に、源氏の君、いたう酔ひ悩める樣にもてなし給ひて、紛れ立ち給ひぬ。

寝殿に女一の宮、女三の宮のおはします、東の戸口におはして、寄りゐ給

へり。藤は、こなたのつまに辺りてあれば、御格子共、上げ渡して、人々

出でゐたり。袖口など、踏歌の折り覚えて、ことさらめきもて出でたるを、

相応しからず。先づ、藤壺わたりおぼし出でらる。「悩ましきに、いと

いたう強ゐられて、わびにて侍り。畏けれど、この御前にこそは、陰にも

隠させ給はめ」とて、妻戸の御簾を引き着給へば、「あな、わづらはし。

よからぬ人こそ、止む事無きゆかりは、かこち侍りなれ」といふ気色を見

給ふに、重々しうはあらねど、をしなべての若人共にはあらず。あてにお

かしき気配しるし。空薫物、いと煙たう燻りて、衣の音なひ、いと華やか

打ち振舞ひなして、


和歌
右大臣
我が宿の花しなべての色ならば何かはさらに君を待たまし
意味:私の家に咲いている藤の花の美しさが並であったなら、どうして更に君のお出でを待ちましょうか。源氏の君をお迎えするに相応しい美しさです。

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