白栲の袖のわかれに露おちて身にしむいろの秋かぜぞ吹く
1337 藤原家隆朝臣
おもひいる身はふかくさの秋の露たのめしすゑや木枯の風
1338 前大僧正慈円
野辺の露は色もなくてやこぼれつる袖より過ぐる荻の上風
1339 左近中将公衡
恋ひわびて野辺の露とは消えぬとも誰か草葉を哀とは見む
1340 右衛門督通具
問へかしな尾花がもとの思草しをるる野辺の露はいかにと
1341 権中納言俊忠 ○
夜の間にも消えゆべきものを露霜のいかに忍べとたのめ置くらむ
1342 藤原道信朝臣
あだなりと思ひしかども君よりはもの忘れせぬ袖のうは露
1343 藤原元真 ○
同じくはわが身も露と消えななむ消えなばつらき言の葉も見じ
1344 和泉式部
今来むといふ言の葉もかれゆくに夜な夜な露の何に置くらむ
1345 藤原長能 ○
あだごとの葉に置く露の消えにしをある物とてや人の問ふらむ
1346 よみ人知らず
打ちはへていやは寝らるる宮城野の小萩が下葉色に出でしより
1347 藤原惟成
萩の葉や露の気色もうちつけにもとよりかはる心あるものを
1348 花山院御歌 ○
よもすがら消え返りつるわが身かな涙の露にむすぼほれつつ
1349 光孝天皇御歌
君がせぬわが手まくらは草なれや涙の露の夜な夜なぞ置く
1350 よみ人知らず
露ばかり置くらむ袖のたのまれず涙の川の滝つせなれば
1351a 源重之 ○
思ひやるよその村雲しぐれつつあだちの原に紅葉しぬらむ
1351b 六条右大臣室 ○
身に近く来にけるものを色かはる秋をばよそに思ひしかども
1352 相模
色かはる萩の下葉を見てもまづ人のこころの秋ぞ知らるる
1353 相模
稲妻は照さぬ宵もなかりけりいづらほのかに見えしかげろふ
1354 謙徳公
人知れぬ寝覚の涙ふり満ちてさもしぐれつる夜半の空かな
1355 光孝天皇御歌 ○
涙のみうき出づる蜑の釣竿の長き夜すがら恋ひつつぞぬる
1356 坂上是則 ○
枕のみ浮くと思ひしなみだ川いまはわが身の沈むなりけり
1357 よみ人知らず
おもほえず袖に湊の騒ぐかなもろこし舟の寄りしばかりに
1358 よみ人知らず
妹が袖わかれし日より白たへのころもかたしき恋ひつつぞ寝る
1359 よみ人知らず ○
逢ふことのなみの下草みがくれてしづ心なくねこそなかるれ
1360 よみ人知らず ○
浦にたく藻塩のけぶり靡かめや四方のかたより風は吹くとも
1361 よみ人知らず
忘るらむとおもふこころの疑にありしよりけにものぞ悲しき
1362 よみ人知らず
憂きながら人をばえしも忘れねばかつ恨みつつなほぞ恋しき
1363 よみ人知らず
命をばあだなる物と聞きしかどつらきがためは長くもあるかな
1364 よみ人知らず ○
いづ方に行き隠れなむ世の中に身のあればこそ人もつらけれ
1365 よみ人知らず
今までに忘れぬ人は世にもあらじおのがさまざま年の経ぬれば
1366 よみ人知らず
玉水を手にむすびても試みむぬるくば石のなかもたのまじ
1367 よみ人知らず
山城の井手の玉水手に汲みてたのみしかひもなき世なりけり
1368 よみ人知らず
君があたり見つつを居らむ伊駒山雲なかくしそ雨は降るとも
1369 よみ人知らず
中空に立ちゐぬ雲の跡もなく身のはかなくもなりぬべきかな
1370 よみ人知らず ○
雲のゐる遠山鳥のよそにてもありとし聞けば詫びつつぞぬる
1371 よみ人知らず
昼は来て夜はわかるる山鳥のかげ見るときぞ音は泣かれける
1372 よみ人知らず
われもしかなきてぞ人に恋ひられし今こそよそに声をのみ聞け
1373 柿本人麿
夏野行くをじかの角のつかのまもわすれず思へ妹がこころを
1374 柿本人麿
夏草の露わけごろも着もせぬになどわが袖のかわくときなき
1375 八代女王
みそぎするならの小川の川風に祈りぞわたる下に絶えじと
1376 清原深養父
うらみつつ寝る夜の袖の乾かぬは枕のしたに潮や満つらむ
1377 山口女王
あしべより満ち来る汐のいやましに思ふか君が忘れかねつる
1378 山口女王
塩釜のまへに浮きたる浮島のうきておもひのある世なりけり
1379 赤染衛門 ○
いかに寝て見えしなるらむ転寝の夢より後はものをこそ思へ
1380 参議篁 ○
うち解けて寝ぬもの故に夢を見て物思ひまさる頃にもあるかな
1381 伊勢
春の夜の夢にありつと見えつれば思ひ絶えにし人ぞ待たるる
1382 盛明親王
春の夜の夢のしるしはつらくとも見しばかりだにあらば頼まむ
1383 女御徽子女王
ぬる夢にうつつの憂さも忘られて思ひ慰むほどぞはかなき
1384 大中臣能宣朝臣 ○
かくばかり寝で明しつる春の夜をいかに見えつる夢にかありけむ
1385 寂蓮法師
涙川身も浮きぬべき寝覚かなはかなき夢のなごりばかりに
1386 藤原家隆朝臣 ○
逢ふと見てことぞともなく明けぬなりはかなの夢の忘れ形見や
1387 藤原基俊
床近しあなかま夜半のきりぎりす夢にも人の見えもこそすれ
1388 皇太后宮大夫俊成 ○
あはれなりうたたねにのみ見し夢の長き思にむすぼほれなむ
1389 藤原定家朝臣 ○
かきやりしその黒髪のすぢごとにうち臥すほどは面影ぞたつ
1390 皇太后宮大夫俊成女
夢ぞとよ見し面影も契りしも忘れずながらうつつならねば
1391 式子内親王
はかなくぞ知らぬ命を歎きこしわがかね言のかかりける世に
1392 弁 ○
過ぎにける世々の契も忘られで厭ふ憂き身の果ぞはかなき
1393 皇太后宮大夫俊成 ○
思ひわび見し面影はさておきて恋せざりけむをりぞこひしき
1394 相模 ○
流れ出でむうき名にしばし淀むかな求めぬ袖の淵はあれども
1395 馬内侍 ○
つらからば恋しきことは忘れなでそへてはなどかしづ心なき
1396 馬内侍 ○
君しまれ道のゆききを定むらむ過ぎにし人をかつ忘れつつ
1397 藤原仲文
花咲かぬ朽木の杣の杣人のいかなるくれにおもひいづらむ
1398 大納言経信母 ○
おのづからさこそはあれと思ふまに誠に人のとはずなりぬる
1399 前中納言教盛母
習わねば人の問はぬもつらからで悔しきにこそ袖は濡れけれ
1400 皇嘉門院尾張
歎かじな思へば人につらかりしこの世ながらの報なりけり
1401 和泉式部
いかにしていかにこの世にありへばか暫しも物を思はざるべき
1402 清原深養父
嬉しくば忘るることもありなましつらきぞ長き形見なりける
1403 素性法師
逢ふことの形見をだにもみてしがな人は絶ゆとも見つつ忍ばむ
1404 小野小町
我身こそあらぬかとのみたどらるれ問ふべき人に忘られしより
1405 大中臣能宣朝臣 ○
葛城やくめ路にわたす岩橋の絶えにし中となりやはてなむ
1406 祭主輔親 ○
今はとも思ひなたえそ野中なる水のながれは行きてたずねむ
1407 伊勢 ○
思ひ出づやみののを山のひとつ松契りしことはいつも忘れず
1408 在原業平朝臣
出でていにし跡だにいまだ変らぬに誰が通路と今はなるらむ
1409 在原業平朝臣
梅の花香をのみ袖にとどめ置きてわが思ふ人は音づれもせぬ
1410 天暦御歌
天の原そことも知らぬ大空におぼつかなさを歎きつるかな
1411 女御徽子女王
なげくらむ心を空に見てしがな立つ朝霧に身をやなさまし
1412 光孝天皇御歌 ○
逢はずしてふる頃ほひの数多あれば遥けき空にながめをぞする
1413 兵部卿致平親王 ○
思ひやる心も空にしら雲の出で立つかたを知らせやはせぬ
1414 凡河内躬恒
雲居より遠山鳥の鳴き行くこゑほのかなる恋もするかな
1415 延喜御歌
雲居なる雁だに鳴きて来る秋になどかは人の音づれもせぬ
1416 天暦御歌
春行きて秋までとやは思ひけむかりにはあらず契りしものを
1417 西宮前左大臣 ○
初雁のはつかに聞きしことづても雲路に絶えてわぶる頃かな
1418 藤原惟成
小忌衣去年ばかりこそならざらめ今日の日影のかけてだに問へ
1419 藤原元真
すみよしの恋忘草たね絶えてなき世に逢へるわれぞ悲しき
1420 天暦御歌
水の上のはかなき数もおもほえず深き心しそこにとまれば
1421 謙徳公
長き世の尽きぬ歎の絶えざらばなににいのちをかへて忘れむ
1422 権中納言敦忠 ○
心にもまかせざりける命もてたのめも置かじ常ならむ世を
1423 藤原元真
世の憂きも人の辛きもしのぶるに恋しきにこそ思ひわびぬれ
1424 参議篁
数ならばかからましやは世の中にいと悲しきは賤のをだまき
1425 藤原惟成 ○
人ならば思ふ心をいひてましよしやさこそは賤のをだまき
1426 よみ人知らず
わがよはひ衰へゆけば白たへの袖の馴れにし君をしぞおもふ
1427 よみ人知らず
今よりは逢はじとすれや白たへのわがころも手の乾く時なき
1428 よみ人知らず
玉くしげあけまく惜しきあたら世を衣手かれて独かも寝む
1429 よみ人知らず ○
逢ふ事をおぼつかなくてすぐすかな草葉の露の置きかはるまで
1430 よみ人知らず
秋の田の穂むけの風のかたよりにわれは物思ふつれなきものを
1431 よみ人知らず
はし鷹の野守の鏡えてしがなおもひおもはずよそながら見む
1432 よみ人知らず
大淀の松はつらくもあらなくにうらみてのみもかへる波かな
1433 よみ人知らず
白波は立ち騒ぐともこりずまの浦のみるめは刈らむとぞ思ふ
1434 よみ人知らず
さして行くかたはみなとの浪高みうらみてかへる海人の釣舟
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