源氏物語
浮舟
いとはかなげなるものと、明け暮れ見出だす小さき舟に乗りたまひて、さし渡りたまふほど、遥かならむ岸にしも漕ぎ離れたらむやうに心細くおぼえて、つとつきて抱かれたるも、 いとらうたしと思す。
有明の月澄み昇りて、水の面も曇りなきに、
「 これなむ、橘の小島 」と申して、御舟しばしさしとどめたるを見たまへば、大きやかなる岩のさまして、 されたる常磐木の蔭茂れり。
「 かれ見たまへ。いとはかなけれど、千年も経べき緑の深さを。」とのたまひて、
年経とも変はらむものか橘の小島の崎に契る心は
女も、めづらしからむ道のやうにおぼえて、
橘の小島の色は変はらじをこの浮舟ぞ行方知られぬ
折から、 人のさまに、をかしくのみ何事も思しなす。
かの岸にさし着きて降りたまふに、人に抱かせたまはむは、いと心苦しければ、抱きたまひて、助けられつつ入りたまふを、いと見苦しく、
「 何人を、かくもて騷ぎたまふらむ」と 見たてまつる。 時方が叔父の因幡守なるが領ずる荘に、はかなう造りたる家なりけり。
平成29年5月22日 參點伍
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