おきあかす秋のわかれの袖の露霜こそむすべ冬や来ぬらむ
552 藤原高光
神無月風にもみぢの散る時はそこはかとなくものぞ悲しき
553 源重之 ○
名取川やなせの浪ぞ騒ぐなる紅葉やいとどよりてせくらむ
554 藤原資宗朝臣
いかだ士よ待てこと問はむ水上はいかばかり吹く山の嵐ぞ
555 大納言経信
散りかかる紅葉流れぬ大井河いづれゐぜきの水のしがらみ
556 藤原家経朝臣
高瀬舟しぶくばかりにもみぢ葉の流れてくだる大井河かな
557 源俊頼朝臣日暮るれば逢ふ人もなしまさき散る峰の嵐の音ばかりして
558 藤原清輔朝臣
おのづから音するものは庭の面に木の葉吹きまく谷の夕風
559 前大僧正慈円 ○
木の葉散る宿にかたしく袖の色をありとも知らでゆく嵐かな
560 右衛門督通具
木の葉散るしぐれやまがふわが袖にもろき涙の色と見るまで
561 藤原雅経
移りゆく雲にあらしの声すなり散るかまさ木のかづらきの山
562 七条院大納言
初時雨しのぶの山のもみぢ葉を嵐吹けとは染めずやありけむ
563 信濃 ○
しぐれつつ袖もほしあへずあしびきの山の木の葉に嵐吹くころ
564 藤原秀能
山里の風すさまじきゆふぐれに木の葉みだれてものぞ悲しき
565 祝部成茂
冬の来て山もあらはに木の葉降りのこる松さへ峰にさびしき
566 宮内卿
からにしき秋のかたみやたつた山散りあへぬ枝に嵐吹くなり
567 藤原資隆朝臣
時雨かと聞けば木の葉の降るものをそれにも濡るるわが袂かな
568 法眼慶算
時しもあれ冬は葉守の神無月まばらになりぬもりの柏木
569 津守国基
いつのまに空のけしきの変るらむはげしき今朝の木枯の風
570 西行法師
月を待つたかねの雲は晴れにけりこころあるべき初時雨かな
571 前大僧正覚忠
神無月木々の木の葉は散りはてて庭にぞ風のおとは聞ゆる
572 藤原清輔朝臣 ○
柴の戸に入日の影はさしながらいかにしぐるる山辺なるらむ
573 藤原隆信朝臣 ○
雲晴れてのちもしぐるる柴の戸や山風はらふ松のしたつゆ
574 よみ人知らず
神無月しぐれ降るらし佐保山のまさきのかづら色まさりゆく
575 中務卿具平親王
こがらしの音に時雨を聞きわかで紅葉にぬるる袂とぞ見る
576 中納言兼輔
時雨降る音はすれども呉竹のなどよとともに色もかはらぬ
577 能因法師
時雨の雨染めかねてけり山城のときはの杜のまきの下葉は
578 清原元輔 ○
冬を浅みまだき時雨とおもひしを堪へざりけりな老の涙も
579 後白河院御歌
まばらなる柴のいほりに旅寝して時雨に濡るるさ夜衣かな
580 前大僧正慈円
やよ時雨もの思ふ袖のなかりせば木の葉の後に何を染めまし
581 太上天皇
深緑あらそひかねていかならむ間なくしぐれのふるの神杉
582 柿本人麿
時雨の雨まなくし降ればまきの葉も争ひかねて色づきにけり
583 和泉式部 ○
世の中に猶もふるかなしぐれつつ雲間の月のいでやと思へど
584 二条院讃岐
折こそあれながめにかかる浮雲の袖も一つにうちしぐれつつ
585 西行法師
秋篠やとやまの里やしぐるらむ生駒のたけに雲のかかれる
586 道因法師
晴れ曇り時雨は定めなき物をふりはてぬるはわが身なりけり
587 源具親 ○
今はまた散らでもながふ時雨かなひとりふりゆく庭の松風
588 俊恵法師 ○
み吉野の山かき曇り雪ふればふもとの里はうちしぐれつつ
589 入道左大臣 ○
まきの屋に時雨の音のかはるかな紅葉や深く散り積るらむ
590 二条院讃岐 ○
世にふるは苦しきものをまきの屋にやすくも過ぐる初時雨かな
591 源信明朝臣
ほのぼのと有明の月の月影に紅葉吹きおろす山おろしの風
592 中務卿具平親王 ○
もみぢ葉をなに惜しみけむ木の間より漏りくる月は今宵こそ見れ
593 宜秋門院丹後 ○
吹きはらふ嵐の後の高峰より木の葉くもらで月や出づらむ
594 右衛門督通具
霜こほる袖にもかげは残りけり露より馴れしありあけの月
595 藤原家隆朝臣 ○
ながめつついくたび袖にくもるらむ時雨にふくる有明の月
596 源泰光
さだめなくしぐるる空の叢雲にいくたび同じ月を待つらむ
597 源具親
今よりは木の葉がくれもなけれども時雨に残るむら雲の月
598 源具親 ○
晴れ曇る影をみやこにさきだててしぐると告ぐる山の端の月
599 寂蓮法師 ○
たえだえに里わく月のひかりかな時雨をおくる夜半のむら雲
600 良暹法師
今はとて寝なましものをしぐれつる空とも見えず澄める月かな
601 曾禰好忠
露霜の夜半におきゐて冬の月見るほどに袖はこほりぬ
602 前大僧正慈円
もみぢ葉はおのが染めたる色ぞかしよそげに置ける今朝の霜かな
603 西行法師
をぐら山ふもとの里に木の葉散れば梢に晴るる月を見るかな
604 藤原雅経 ○
秋の色をはらひはててやひさかたの月の桂に木からしの風
605 式子内親王 ○
風さむみ木の葉晴ゆく夜な夜なにのこる隈なき庭の月かげ
606 殷富門院大輔
我が門の刈田のおもにふす鴫の床あらはなる冬の夜のつき
607 藤原清輔朝臣
冬枯の森の朽葉の霜のうへに落ちたる月のかげのさむけさ
608 皇太后宮大夫俊成女 ○
冴えわびてさむる枕に影見れば霜ふかき夜のありあけの月
609 右衛門督通具 ○
霜むすぶ袖のかたしきうちとけて寝ぬ夜の月の影ぞ寒けき
610 藤原雅経 ○
影とめし露のやどりを思ひ出でて霜にあととふ浅茅生の月
611 法印幸清 ○
かたしきの袖をや霜にかさぬらむ月に夜がるる宇治の橋姫
612 源重之
夏刈の荻の古枝は枯れにけり群れ居し鳥は空にやあるらむ
613 藤原道信朝臣
さ夜ふけて声さへ寒きあしたづは幾重の霜か置きまさるらむ
614 太上天皇 ○
冬の夜の長きを送る袖ぬれぬあかつきがたの四方のあらしに
615 摂政太政大臣 ○
笹の葉はみ山もさやにうちそよぎ氷れる霜を吹くあらしかな
616 藤原清輔朝臣 ○
君来ずは一人や寝なむささの葉のみ山もそよにさやぐ霜夜を
617 皇太后宮大夫俊成女
霜がれはそことも見えぬ草の原たれに問はまし秋のなごりを
618 前大僧正慈円
霜さゆる山田のくろのむら薄刈る人なしにのこるころかな
619 曾禰好忠
草のうへにここら玉ゐし白露を下葉の霜とむすぶ冬かな
620 中納言家持
鵲のわたせる橋に置く霜のしろきを見れば夜ぞ更けにける
621 延喜御歌
しぐれつつ枯れゆく野辺の花なれど霜のまがきに匂ふ色かな
622 中納言兼輔
菊の花手折りては見じ初霜の置きながらこそ色まさりけれ
623 坂上是則
影さへに今はと菊のうつろふは波のそこにも霜や置くらむ
624 和泉式部
野べ見れば尾花がもとの思草かれゆく冬になりぞしにける
625 西行法師
津の国の難波の春は夢なれや蘆のかれ葉に風わたるなり
626 大納言成通 ○
冬深くなりにけらしな難波江の青葉まじらぬ蘆のむらだち
627 西行法師
寂しさに堪へたる人のまたもあれな庵ならべむ冬の山里
628 康資王母 ○
あづま路の道の冬草繁りあひて跡だに見えぬわすれ水かな
629 守覚法親王 ○
むかし思ふさ夜の寝覚の床さえて涙もこほるそでのうへかな
630 守覚法親王
立ちぬるる山のしづくも音絶えてまきの下葉に垂氷しにけり
631 皇太后宮大夫俊成
かつ氷りかつはくだくる山河の岩間にむせぶあかつきの声
632 摂政太政大臣
消えかへり岩間にまよふ水の泡のしばし宿かる薄氷かな
633 摂政太政大臣 ○
枕にも袖にも涙つららゐてむすばぬ夢をとふあらしかな
634 摂政太政大臣 ○
水上やたえだえこほる岩間よりきよたき川にのこるしら波
635 摂政太政大臣 ○
かたしきの袖の氷もむすぼほれとけて寝ぬ夜の夢ぞみじかき
636 太上天皇
橋姫のかたしき衣さむしろに待つ夜むなしき宇治のあけぼの
637 前大僧正慈円 ○
網代木にいさよふ波の音ふけてひとりや寝ぬる宇治のはし姫
638 式子内親王
見るままに冬は来にけり鴨のゐる入江のみぎは薄氷りつつ
639 藤原家隆朝臣
志賀の浦や遠ざかりゆく波間より氷りて出づるありあけの月
640 皇太后宮大夫俊成
ひとり見る池の氷に澄む月のやがて袖にもうつりぬるかな
641 山部赤人
うばたまの夜のふけ行けば楸おふる清き川原に千鳥鳴くなり
642 伊勢大輔 ○
行く先はさ夜更けぬれど千鳥鳴く佐保の河原は過ぎうかりけり
643 能因法師
夕されば汐風越してみちのくの野田の玉川ちどり鳴くなり
644 源重之 ○
白浪にはねうちかはし浜千鳥かなしきものはよるおひと声
645 後徳大寺左大臣 ○
夕なぎにとわたる千鳥波間より見ゆるこじまの雲に消えぬる
646 祐子内親王家紀伊
浦風に吹上のはまのはま千鳥波立ち来らし夜半に鳴くなり
647 摂政太政大臣 ○
月ぞ澄む誰かはここにきの国や吹上の千鳥ひとり鳴くなり
648 正三位季能 ○
さ夜千鳥声こそ近くなるみ潟かたぶく月に汐や満つらむ
649 藤原秀能
風吹けばよそになるみのかたおもひ思はぬ浪に鳴く千鳥かな
650 左衛門督通光
浦人のひもゆふぐれになるみ潟かへる袖より千鳥鳴くなり
651 正三位季経 ○
風さゆるとしまが磯のむらちどり立居は波の心なりけり
652 藤原雅経 ○
はかなしやさても幾夜か行く水に数かきわぶる鴛のひとり寝
653 河内
水鳥のかもの浮寝のうきながら浪のまくらにいく夜経ぬらむ
654 湯原王
吉野なるなつみの川の川淀に鴨ぞ鳴くなる山かげにして
655 能因法師 ○
閨のうへに片枝さしおほひ外面なる葉広柏に霰降るなり
656 法性寺入道前関白太政大臣
さざなみや志賀のから崎風さえて比良の高嶺に霰降るなり
657 柿本人麿
矢田の野に浅茅色づくあらち山嶺のあわ雪寒くぞあるらし
658 瞻西上人
常よりも篠屋の軒ぞうづもるる今日はみやこに初雪や降る
659 藤原基俊
降る雪にまことに篠屋いかならむ今日は都にあとだにもなし
660 権中納言長方
初雪のふるの神杉うづもれてしめゆふ野辺は冬ごもりせり
661 紫式部 ○
ふればかくうさのみまさる世を知らで荒れたる庭に積る初雪
662 式子内親王 ○
さむしろの夜半のころも手さえさえて初雪しろし岡のべの松
663 寂蓮法師
降り初むる今朝だに人の待たれつるみ山の里の雪の夕暮
664 皇太后宮大夫俊成
今日はもし君もや訪ふとながむれどまだ跡もなき庭の雪かな
665 後徳大寺左大臣
今ぞ聞くこころは跡もなかりけり雪かきわけて思ひやれども
666 前大納言公任 ○
白山にとしふる雪やつもるらむ夜半にかたしく袂さゆなり
667 刑部卿範兼
明けやらぬねざめの床に聞ゆなりまがきの竹の雪の下をれ
668 高倉院御歌 ○
音羽山さやかにみする白雪を明けぬとつぐる鳥のこゑかな
669 藤原家経朝臣 ○
山里は道もや見えずなりぬらむ紅葉とともに雪の降るらむ
670 藤原国房 ○
寂しさをいかにせよとて岡べなる楢の葉しだり雪の降るらむ
671 藤原定家朝臣
駒とめて袖うち払ふかげもなし佐野のわたりの雪のゆふぐれ
672 藤原定家朝臣 ○
待つ人のふもとの道は絶えぬらむ軒端の杉に雪おもるなり
673 藤原有家朝臣
夢かよふ道さへ絶えぬくれたけの伏見の里の雪のしたをれ
674 入道前関白太政大臣 ○
降る雪にたく藻の煙かき絶えてさびしくもあるか塩がまの浦
675 山部赤人
田子の浦にうち出でて見れば白たへの富士の高嶺に雪は降りつつ
676 紀貫之 ○
雪のみやふりぬとは思ふ山里にわれも多くの年ぞつもれる
677 皇太后宮大夫俊成 ○
雪降れば峰のまさかきうづもれて月にみがける天の香具山
678 小侍従
かき曇りあまぎる雪のふる里を積らぬさきに訪ふ人もがな
679 前大僧正慈円
庭の雪にわが跡つけて出でつるを訪はれにけりと人は見るらむ
680 前大僧正慈円 ○
ながむればわが山の端に雪しろし都の人よあわれとも見よ
681 曾禰好忠
冬草のかれにし人のいまさらに雪ふみわけて見えむものかは
682 寂然法師
尋ね来て道わけわぶる人もあらじ幾重もつもれ庭のしら雪
683 太上天皇
このごろは花も紅葉も枝になししばしな消えそ松のしら雪
684 右衛門督通具 ○
草も木も降りまがへたる雪もよに春待つ梅の花の香ぞする
685 崇徳院御歌 ○
御狩する交野のみ野に降る霰あなかままだき鳥もこそ立て
686 法性寺入道前関白太政大臣 ○
御狩すと鳥だちの原をあさりつつ交野の野辺に今日も暮しつ
687 前中納言匡房 ○
御狩野はかつ降る雪にうづもれて鳥立も見えず草がくれつつ
688 左近中将公衡
狩りくらし交野の真柴折りしきて川瀬の月を見るかな
689 権僧正永縁
中々に消えは消えなで埋火のいきてかひなき世にもあるかな
690 式子内親王 ○
日数ふる雪げにまさる炭竈のけぶりもさびしおほはらの里
691 西行法師
おのづからいはぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに歳の暮れぬる
692 上西門院兵衛
かへりては身に添ふものと知りながら暮れ行く年を何慕ふらむ
693 皇太后宮大夫俊成女 ○
へだてゆく世々の面影かきくらし雪とふりぬる年の暮かな
694 大納言隆季
あたらしき年やわが身をとめくらむ隙行く駒に道を任せて
695 俊恵法師 ○
歎きつつ今年も暮れぬ露の命いけるばかりを思出にして
696 小侍従
思ひやれ八十ぢの年の暮なればいかばかりかはものは悲しき
697 西行法師
昔おもふ庭にうき木を積み置きて見し世にも似ぬ年の暮かな
698 摂政太政大臣 ○
いそのかみ布留野のをざさ霜を経て一よばかりに残る年かな
699 前大僧正慈円
年の明けてうき世の夢の醒むべくは暮るとも今日は厭はざらまし
700 権津師隆聖
朝毎のあか井の水に年暮れてわが世のほどのくれぬるかな
701 入道左大臣
いそがれぬ年の暮こそあはれなれ昔はよそに聞きし春かは
702 和泉式部
かぞふれば年の残りもなかりけり老いぬるばかり悲しきはなし
703 後徳大寺左大臣
いしばしる初瀬の川のなみ枕はやくも年の暮れにけるかな
704 藤原有家朝臣
行く年ををじまの海士のぬれごろもかさねて袖に波やかくらむ
705 寂蓮法師
老の波越えける身こそあはれなれことしも今はすゑの松山
706 皇太后宮大夫俊成
今日ごとに今日や限と惜しめども又も今年に逢ひにけるかな
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