新古今和歌集の部屋

百人一首改観抄 伊勢

百人一首改観抄
     契沖






○伊勢
 三代實録第四十九に仁和二年に従五位上藤


 原朝臣継蔭為伊勢守、継蔭此時をもて女に名
 づけたるなるべし。
難波がたみじかき蘆のふしのまもあはで此よをすくしてよとや
 新古今集恋一題しらずと有。家集にも題なし。難波
 がたは芦をいはんため芦はふしのまをいひ、此よをい
 はんためなり。ふしのまといへば、すなはちみじかき
 心あれどもわざとみじかき蘆のとよめるはそ
 のみじかきが中のみじかきをいはんとてなり。
 人丸の哥に 夏のゆくおじかのつのゝつかのまもと
 よまれたるに同じ。又万葉集家持の長哥にも

※夏野ゆく
第十五 戀歌五 題しらず
              柿本人麿
夏野行くをじかの角のつかのまもわすれず思へ妹がこころを
万葉集巻第四-502 相聞
夏野去 小壮鹿之角乃 束間毛 妹之心乎 忘而念哉



 なびく玉藻のふしのまもとよめり。すこしばかりの
 對面はやすかるべきものをひとへにいとひてしばし 
 ばかりのあふ事もなくて此世を過しはてよと 
 やの心かと恨む心ふかし。新古今集雑下につの国に
 おはしてみぎはの芦を見給ふて花山院御哥
  つの国のながらふべくもあらぬかな短き芦の世にこそ有けれ
 今の伊勢が哥をおもはせ給ひけるにや。狭衣にも
  そよさらに頼むにもあらぬ小さゝさへ末葉の雪の消はてぬよに
 みじかき芦のふしのまもなど書すさみて此哥
 を引てけり。

※つの国の
巻第十八 雑歌下
 津の国おはしてみぎはの葦を見たまひて
             花山院御歌
津の国の長らふべくもあらぬかな短き葦のよにこそありけれ

※そよさらに
狭衣物語巻二 狭衣
御硯の筆を取りてありつる御文の端に手習し給ふやうにて
そよさらに頼むにもあらぬ小笹さへ末葉の雪の消えも果てぬよ
短き芦の節の間もなど書きすさみて見給ふにも




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