源家長日記
これをうけ給つめて侍おりしも、したしき女房のもとにまきものゝ侍をとりてみれば、女の手にて歌をかきたり。これをたづぬれば、七條院に候女房越前と申人なりときゝて、このうたをとりて持て參りたれば、あしからずやおぼしめしけん、行衞たづねよとおほせらるれば、まかりいでてたづぬるに、大中臣公親が女なり。さるは重代の人なりときゝて此よしを申す。範光朝臣うけ給て、くるまむかへにつかはす。いまは候めり。その歌のおくに侍し
さぞなげに是もよしなきすさみ哉
だれかあはれをかけてしのばん
これを御覽じいてゝごとに御めとゞめさせ給う。この歌の心を題にておの/\歌よめとおほせられて、おまへにさぶらふ人々よみあへり。いづれをさしてしるすべうもなかりしかば、かきとゞめず。この女房を心みんとおぼしめして、めしいだして秋のをはりの事にて侍しに、此比のうたよめとおほせられたりけるに、あらしをわくるさほしかのこゑなど聞えしはそのおりのとぞ。
宮内卿殿もうちつゞき參られ侍き。師光入道のむすめなり。家かぜたえずことにすぐれたるよし聞へ侍。そのゝち三位入道のむすめ歌たてまつりなどせらる。ふたい(ば)よりよのまじらひもむもれてすぎ給ひけんに、つねに歌めされなどし給を、わかきひたるさまをあはつけしと思給らんかし。されどうちあるべきことならねば、かきけちてやまんことをあたらしとおぼしめいたることばかりなり。又八條院に高倉殿と申人をはすなり。その人の歌とぞある人のかたり申ける。
くもれかしながむるからに悲しきは
月におぼゆる人のおもかげ
此歌きこしめして、それも歌たてまつりなどつねに侍。又七條院にこ大納言と申女房おはす。中納言宗綱卿むすめなり。しなたかき女房ははゞかりおもはるらん。されどちうだいの人はくるしからずとて、たづねいでさせ給う。中にも母はみかはの内侍なり。かた/"\の家の風いかでかむなしからん。おとこにも女はうにも、かくわかき歌よみおほくつどひて、ひるのほどは職事辨官參りこみて、萬きのまつり事共なめれば、よるぞ御うたあはせ和歌會よごとにはべる。こゝかしこのかくれにうちうめきつゝ、おのがじゝあんあへり。
※くもれかし
巻第十四 恋歌四
題しらず 八條院高倉
曇れかしながむるからに悲しきは月におぼゆる人のおもかげ
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