けふりたち乃ほりてゆくさきもなミたに可くれふた
かりいつれ可山河ともわ可れす八しま乃さとにま可
りたりし可はそ乃可ミ見しなおしなと乃
やうにおほえてゆミやのな可にさゝけもちたる物
なし。さてこゝも可なふましとて八しまを
いてゝゆくゑもしらぬうミにう可みておきふし
はなミたにしつミ侍しほとにふねにをそろ志
きも乃とも乃りうちり侍し可は今上おハ人乃
いたきたてまつりて海にいりたまひき。人々或は
神璽をさゝけあるハほうけんおもちてうミに
う可ミてか乃御ともにいりぬとな乃りしこゑハ
かりしてうせにき。乃これるものともめのまへに
い乃ちをうしなひあるハな者にてさま/\にしたゝ
免いましむ。すこしもなさけお乃こす事なし
いま者とてうミにいりなんとせしときハやきいし
すゝりなとふところにいれてしつめにして
煙立ち昇りて、行く先も涙に隠れ塞がり、何れか山河とも分かれず。
八島の里に罷りたりしかば、そのかみ、見し直衣などの様に覚えで、弓矢の中に捧げ持ちたる物無し。
さて、ここも適ふまじとて、八島を出でゝ、行方も知らぬ海に浮かみて、起き伏しは、涙に沈み侍し程に、船に恐ろしき者共乗り移り侍しかば、今上祖母人の抱き奉りて、海に入り給ひき。
人々、或は神璽を捧げ、或は寶剣を持ちて、海に浮かみて、彼の御供に入りぬと名告りし声ばかりして、失せにき。
残れる者共、目の前に命を失ひ、或は縄にて樣々にしたため、いましむ。
少しも情お残す事無し。
今はとて、海に入りなんとせし時は、焼石、硯等懐に入れて鎮にして、