俊惠物語の次に問て云、
遍昭僧正歌に
たらちねはかゝれとてしもむば玉の我黒髪はなでずや有けん
この歌の中にいづれの詞かことにすぐれたる。ぞとおぼえんままにのたまへ。
といふ。予云、
かゝれとてしもといひてむば玉のとやすめたる程にこそはことにめでたく侍れ。
といふ。
かくなり/\。はやく歌はさかひにいられにけり。歌讀はかやうの事にあると。それにとりて月といはむとて久かたとをき山いはむとてあし引といふ事つねの事也。されどはじめの五文字にてさせる興なし。こしの句によくつゞけて詞のやすめにをきたるはいみじう歌のしなも出きてふるまへるけずらひともなる也。古人是をば半臂の句とぞいひ侍ける。はんぴはさすが用なき物なれど装束の中かざりとなる物なり。歌の卅一字のいく程もなきうちに思ふことを云きはめむにはむなしき詞をば一もじ成ともまずべくもあらねどもこのはんぴの句は必しなと成て姿をかざる物なり。すがたに花麗きはまりぬれば又をのづから餘情となる。これを心得るをさかひに入といふべし。よく/\此歌を案じ見たまへ。半臂の句もせんは次の事ぞ。まなこはたゞとてしもといふ四文字也。かくいはずは半臂のせむなからましとこそ見えたれ。
となむ侍し。
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