新古今和歌集の部屋

明月記 建永元年七月二十六日  卿相侍臣歌合切入

明月記 建永元年

七月
二十六日。天晴る。ー略ー。
歌を見る、昨日の如し。大府候す。前夜の歌、注し進むべき由、仰せ有り。撰み出し、注して之を進む。清範帰り出づ。宜しき歌、新古今に入るべきの由仰す(予の月の歌、此の内に在り。存外)。昏に臨みて退下す。

卿相侍臣歌合
   慈円
和歌所の歌合に海邊月といふことを
和歌の浦に月の出しほのさすままによる啼く鶴の聲ぞかなしき
   家隆
和哥所哥合に海邊月を
秋の夜の月やをじまのあまのはら明けがたちかき沖の釣舟
   通光
和歌所歌合に朝草花といふことを
明けぬとて野辺より山に入る鹿のあと吹きおくる萩の下風
   定家
和歌所の歌合に海邊月といふことを
藻汐くむ袖の月影おのづからよそにあかさぬ須磨のうらびと
   俊成女
和歌所歌合に羈中暮といふことを
ふるさとも秋は夕べをかたみとて風のみおくる小野の篠原
   雅経
和歌所歌合に羈中暮といふことを
いたづらに立つや浅間の夕けぶり里とひかぬるをちこちの山
   宜秋門院丹後
和歌所歌合に羈中暮といふことを
都をば天つ空とも聞かざりき何ながむらむ雲のはたてを
   秀能
和歌所歌合に羈中暮といふことを
草まくらゆふべの空を人とはばなきても告げよ初かりの声
和歌所の歌合に海邊月といふことを
明石がた色なき人の袖を見よすずろに月もやどるものかは

卿相侍臣当座歌合
   家隆
和歌所歌合に深山戀と言うことを
さてもなほ問はれぬ秋のゆふは山雲吹く風も峰に見ゆらむ
   秀能
和歌所歌合に深山戀と言うことを
思ひいる深き心のたよりまで見しはそれともなき山路かな

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