ありて廣しと云ふ心をもたでは、句に一重の作は出來まじ
となり。秋の夜の千夜を一夜にの返歌是なり。けしの中に
須彌山を入るゝほどまでの作は、誰もおもひよるなり。
一、家隆卿わかゝりし時、俊成に歌のごと問はれしに、故
實などを問はずして、たゞ歌よむ事ばかりとはれしとなり。
俊成褒美せられしとなり。げにも大才あるとも、作をせず
はかひなかるべし。
一、作より稽古すべし。才覺より稽古すべからず。作にい
たりぬれば、何事の才かくをもよくするなり。才覺よりい
たりぬれば、めづらしき事出來がたし。定家、家隆、俊成、
慈鎮などはうたよみなり。其の餘は歌作りなり。古詞をつ
らねて、三十一字にしたるばかりにて、作も餘情もなけれ
ば、うたも作りたる迄にて我が力なし。