石田
「当時の市井の人々の多くは、お金があればあるだけ使ってしまって、後は
食うや食わずみたいな生活を繰り返していました。そういうのを目にしなが
ら、じっとしておられないような心境になって、45歳にして講座を開いたの
でしょうね。ものがなければ不幸だ、というふうに物欲に走りがちな人々に
対して、そうではないと。質素、倹約、勤勉をベースにした生き方になんと
か目覚めてもらわなくては、という切実な思いがあったのでしょう。

渡部
「また、当時の商人には、ごまかし得というような考えも一部に蔓延してい
たようです。それはいかんということで、正直、倹約は重視して説いていま
したね。
石田
「そうですね。例えば反物を仕入れる時に色が悪かったといって、絹織物を
値切り、尺足らずといって絹織物、帯などを値切るのに、売る時は普通の価
格をつけて二重の利を得る。また二升使いといって米麦を仕入れる時は大き
な升を使い、売る時は小さい升をつかう。そういう風潮があったのを、きち
っちり指摘したりもしていますからね。
ですからやっぱり正直、倹約、質素、勤勉。そこらが梅岩先生が説いた心学
における心の持ち方の中核を成すものであって、人々にいかに定着させていく
かということに腐心したのです。