憲法とは何--たまには政治の話でも--(5)
呑助 自民党の改正草案というのはどのようなものなんですか。
侘助 自民党がネットに公表しているんだ。だから誰でもダウンロードして読むことができるんだ。
呑助 こういうことは自由民主主義の実行ですね。
侘助 そうだな。この憲法草案を東京大学名誉教授の樋口陽一氏が「慶安御触書」のようなものだと言っている。
呑助 「慶安の御触書」とは何ですか。
侘助 「慶安の御触書」とは元禄10年(1697年)に出されたものなんだ。その内容は百姓に対し贅沢を戒め、農業など家業に精を出すよう求めた内容で、32ヶ条からなるものなんだ。
呑助 憲法とはなにか違うと、いう感じがしますね。江戸時代の倹約令みたいなものですか。
侘助 そうなんだ。現代の日本国民を江戸時代の農民のように扱っているんだ。国民主権を認めていない憲法草案なんだ。
呑助 主権者である国民が政府に命令したものが憲法なんですよね。
侘助 国民を統治の対象者にしているのが自民党の憲法草案の特徴なんだ。だからじゃないかと思うんだ。樋口陽一さんといったら日本を代表する憲法学の権威者のようだよ。その人が自民党の日本国憲法改正草案に対して「慶安の御触書」のようなものだと、言っているんだ。自民党の憲法改正草案は憲法ではないと言っている。
呑助 戦前の明治憲法のようなものという話を聞いたことがあるように感じていたんですが、そうじゃないんですか。
侘助 樋口先生は明治憲法は立派な立憲主義に基づいた憲法であったと言っている。それに比べて自民党の憲法草案は江戸時代の権力者が統治者の農民に対して派手な着物を着てはいけないとか、夫婦相和せとか、兄弟は仲良くしろとか、いう御触書みたいなものだと言っているんだ。
呑助 具体的には、どんなことが自民党の憲法草案には書いてあるんですか。
侘助 改正草案第三条の一項には「国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする」。第三条二項「日本国民は、国旗及び国家を尊重しなければならない」と書いてある。このように国民の義務を規定しているんだ。憲法とは国民の権利を書いたものなのが義務を強制するものになっているんだ。
呑助 憲法とは国民の権利を保証するものなんですよね。それでいいんですよね。
侘助 権利とは義務を求めるものなんだ。権利と義務とは一枚の紙の裏と表の関係になっているんだ。現憲法では第十三条で「すべて国民は、個人として尊重される」と書いてある。国民は個人として尊重される権利があるということは国は個人を尊重する義務があるということになる。
呑助 なるほどね。自民党の憲法草案は国と国民との権利・義務の関係を逆転しているということなんですか。
侘助 そうだと思う。自民党参議院議員の片山さつき氏は「国に何かをしてもらうことを願うのではなく、国に何ができるかを考えてもらうような憲法を書いた」とツイッターで書いていた。
呑助 なかなか上手いことを言うものんですね。ダマサレソウ。