日本語考--グローバル化は中世化--(1)
侘助 今日は言葉の問題について考えてみないかい。
呑助 言葉についてですか。俗語を正した芭蕉の話ですか。それはもうしましたよ。
侘助 「葱白く洗いたてたる寒さかな」芭蕉の句だよ。上手いね。三百年前の日本語だよ。ちっとも古びない日本語だね。磨かれた日本語だね。三百年後の我々日本人にも瑞々しい日本語だよ。
呑助 当時の日常語、俗語が美しい日本語に創りかえられていますね
侘助 こういう日本語、芭蕉が磨いた日本語より英語を勉強しろと子供たちに強制しようとする財界人や自民党議員、文科省の役人たちがいるんだ。
呑助 本当ですか。保守主義者というのは日本の伝統文化を大事にする人々なんじゃないんですか。
侘助 そうだよね。その人々は本来だったら、日本人や日本語、日本文化を大事にする民族主義者であるべきはずなのに、小学校から英語の授業をさせようとしているんだ。
呑助 大学でも講義は英語でしろと言っているらしいですよ。
侘助 英語を公用語とする特区を設けようともしているらしい。
呑助 でも、英語でコミュニケーションできる国民が増えていくことはいいんじゃないですか。
侘助 一見、よさそうに見えるけれども、安易に考えると大きなしっぺ返しがくるんじゃないかな。
呑助 どんな問題があるんですか。
侘助 「グローバリ化は中世化だ」という議論を最近聞いたよ。
呑助 国際化することがなぜ中世化なんですか。
侘助 ヨーロッパ中世は国際社会だったからね。
呑助 中世ヨーロッバ社会は国際社会だったんですか。
侘助 そうなんだ。国というものが無かったんだ。大土地所有者の領主という統治者はいたんだけれどもね。
呑助 それがどうして国際社会なんですか。
侘助 ローマカトリック教会の信者としてつながっていたんだ。それらの人々はみなラテン語をしゃべっていた。カトリック教会の僧侶たちや貴族の領主たちも皆ラテン語を話していた。ラテン語を共通語として領主や僧侶たちは結びついていた。
呑助 分かりました。今、グローバルに活躍する企業経営者たちは皆、英語を話すということなんですね。
侘助 英語を話す人々が世界を支配する。これが「グローバル化は中世化だ」という事なんじゃないかと思う。
呑助 ヨーロッパ中世に生きた農民たちもラテン語を話していたんですか。
侘助 農民たちは皆、その土地の言葉を話していたんだ。英語とか、フランス語、ドイツ語、イタリア語をね、話していたんだ。支配される人々は、皆、ラテン語など聞いたこともなければ、話すことのできるものはいなかった。だからね、グローバル社会にあって、英語でのコミュニケーション能力のないものは一生、貧しい生活をおくらざるを得ない境遇になってしまうかもしれない。
呑助 これからの若者は厳しいですね。
侘助 厳しいね。グローバルに活躍する親に育てられた子供たちは支配する側の人間になっていくだろうがね。