醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  310号  白井一道

2017-02-01 11:11:20 | 随筆・小説

 奈良、御所の酒、百楽門を楽しむ

侘輔 今日は去年、二月に楽しんだ奈良のお酒、御所の「百楽門」を楽しもうと思っているんだ。
呑助 以前、楽しんだことのあるお酒ですね。
侘助 そうなんだ。前回楽しんだお酒は、酒造米が「露葉風」という奈良県でのみ栽培されている酒米で醸されたものだったんだ。今回は「備前雄町」で醸した純米大吟醸のお酒なんだ。「備前雄町」という酒米は「山田錦」の上をいく酒造米では最高のもののようだ。
呑助 備前というと岡山県ですかね。
侘助 岡山県で栽培されていた酒造米が「雄町」だ。「山田錦」より熟成がいいと言われている。
呑助 熟成とは何ですか?
侘助 人間も若いときは尖っているけれども、歳とともに丸くなっていくでしょ。角がとれて味わい深い人柄になっていくでしょ。それと同じでお酒も若い酒は尖っているんだ。だから喉に触るものがあるが、熟成するとまろやかになり、のど越しが良いんだ。
呑助 平たくいうと美味しくなるということですかね。
侘助 そうだよ。美味しくなるんだ。
呑助 最高級の酒造米「備前雄町」で醸したお酒なんですか。
侘助 そうなんだ。精米歩合は50%、原酒、生詰のお酒のようだ。
呑助 原酒というのは何でしたっけ。加水していない酒でしたね。
侘助 そうそう。水で薄めていない酒なんだ。だからしっかりした味がのったお酒だと思うよ。さらに無濾過の酒だからね。
呑助 無濾過というのは、何でしたっけ。
侘助 槽(ふね)から絞ったままのお酒の場合、少し濁りがあるから、活性炭を入れ、濾過するんだ。濾過すると酒は綺麗にはなるが、また一方では旨み成分も濾過されてしまう。だから無濾過の酒には酒本来の味があるんだ。
呑助 無濾過の酒には酒本来の味があるんですね。
侘助 本物の酒ということかな。
呑助 純米酒だからアルコールの添加がない。原酒だから加水がない。無濾過の酒だから、絞ったまんまの酒。火入れはしているんですか。
侘助 絞った後、一回火入れをして半年熟成させて出荷した酒のようだ。このような酒を生詰と言っているようだ。
呑助 半年熟成させた酒を何と言うんでしたっけ。
侘助 「ひやおろし」または「秋あがり」なんて言われているかな。
呑助 そうそう、「ひやおろし」でしたね。
侘助 「ひやおろし」というのは熟成した飲み頃のお酒ということかな。秋の酒は美味しいと昔から言われてきた。歌人の若山牧水は詠っている。「白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒は静かに飲むべかりけり」とね。
呑助 「白玉」とは何ですかね。
侘助 「白玉」というのは酒の異称なんだ。静かに酒を味わうのが秋の酒なのかもしれないなぁー。「それほどにうまきかとひとの問ひたらば何と答へむこの酒の味」。こんな歌も牧水は詠んでいる。お酒なんて、どこが美味しいの、なんていう女房たちがいるが、何と答えようか。答えようもない。この酒の旨さををね。お酒は飲まなくちゃ、お酒の旨さは分からない。