颯(はやて)を楽しむ
侘輔 今日のお酒は夫婦二人で醸したお酒を楽しみたい。
呑助 そんな酒蔵があるんですか。
侘助 小さな小さな酒蔵なんだ。年間生産石数200石だと蔵元は言っていた。
呑助 良い酒を醸す小さな酒蔵があるんですね。どこにある酒蔵なんですか。
侘助 三重県桑名にある酒蔵のようだよ。
呑助 近くに揖斐川が流れているところですね。
侘助 今日楽しむ酒、「颯(はやて)」を醸す後藤酒造さんのところは鈴鹿山脈から流れ出す員弁川(いなべがわ)のほとりにあるようだ。水は中軟水とのことだった。
呑助 米は何なんですか。
侘助 「神の穂」という三重県だけで栽培されている酒造米で醸している。
呑助 米は自家精米ですか。
侘助 夫婦二人で醸しているんだからきっと自家精米なんじゃないかな。
呑助 精米は酒造りの重要な工程なんでしたよね。
侘助 そのようだ。精米歩合が酒質を決める訳だものね。縦型精米機が発明されて初めて米の六〇%を糠にすることができるようになって精米歩合四〇%の大吟醸の酒が醸せるようになっただものね。
呑助 今日楽しむ「颯」の精米歩合はどの位なんですか。
侘助 五五%のようだ。醸造用アルコールの添加がないので純米吟醸酒かな。
呑助 火入れはどうなんですか。
侘助 一回も火入れをしていないようだ。だから少し炭酸の香りが残っていると坂長さんは話していたよ。
呑助 炭はかけているですか。
侘助 無濾過の酒だと言っていた。
呑助 じゃ、絞りたての新酒なんですね。
侘助 そう、絞りたての新酒だよ。絞りたての生、無濾過でしょ。だから季節商品のようだ。今だけ限定の酒だよ。
呑助 まさに春を味わう酒ですね。
侘助 そうなんだ。蔵ではこの絞りたて、生の原酒、水で薄めていない酒、三重県産酒造米「神の穂」で醸した酒を味わってほしいと思って出荷したお酒のようなんだ。夫婦二人で醸したお酒をね。
呑助 なんか涙が出てきそうになってしまいますね。
侘助 昔は杜氏さんが蔵人を連れ、やってきて酒造りをしたようだけれども時代の流れだね。小さな酒蔵は杜氏を雇うにも杜氏がいない。蔵人もいない。社長自ら杜氏となり、奥さんが蔵人になり、賄い、アルバイトを雇い、醸した酒のようだ。
呑助 酒造米「神の穂」はどんな特徴を持った米なんですか。
侘助 酒造米というのは飯米に比べて大粒で柔らかく、でんぷん質が多いという特徴を持っている。有名な兵庫の山田錦や岡山の雄町に比べると「神の穂」の粒はやや小さく、硬いそうだ。だから吸水には時間がかかると話していた。
呑助 硬く、小さな「日本晴」に比べれば柔らかく大きいんでしよう。
侘助 「山田錦」と「五百万石」の中間ぐらいだと言っていた。この米で醸した酒は熟成がいいらしい。熟成した通年酒と季節のお酒とを飲み比べてこの三重県産の酒造米の酒を堪能してもらいたいというのが蔵元の思いのようだよ。