二月は光の輝きに気づく季節
句郎 「二月来る郵便受の隙間より」辻田克己氏の句を名句だと宇田喜代子氏が何年か前のNHK俳句誌で述べていた。
華女 こんな句が名句なの。どこがいいのか全然分からないわ。
句郎 僕も初めそう思ったんだ。二・三回読んでいるうちに分かって着たことがあるんだ。
華女 どこがいいの?
句郎 郵便受には幸せの便りが届くところでしょ。
華女 不幸せの便りや脅しの便りが来るところでもあるわ。最近はダイレクトメールのようなものばかりだわ。
句郎 確かにそうだけれどもね。
華女 二月の便りが郵便受けに来るのかしらね。
句郎 「二月来る」と言えば、何の便りかな。
華女 強いて言えば、春の便りじゃないの。
句郎 、そうなんだ。春の便りが郵便受けに来るんだ。待ちに待った春が来るんだ。その春の兆しが郵便受に来るんだ。
華女 そんなもの想像上の話よね。実際にはありゃしないわ。
句郎 実はそうじゃないんだ。実際に春の便りが郵便受にくるんだ。
華女 それは何なの?
句郎 郵便受の隙間に来るんだ。冬の日差と比べて春の日差は強いでしょ。この強い春の日差を郵便受の隙間に来たんだ。
華女 細い一本の光の線ね。
句郎 そうなんだ。その強い光の線に春があると感じた言うことなんじゃないかな。
華女 あぁー、そういうことなの。なるほどね。
句郎 郵便受の隙間から入る光の線に春があることを発見したんじゃないかな。
華女 くっきりした光の線ね。
句郎 「二月来る郵便受の隙間より」。寒い寒い二月が来る。その寒さは春が近いことを教えてくれる。二月とは春を発見する季節でもある。
華女 その句は二月という季節感を表現していると言いたいのね。
句郎 そうなんだ。二月とはそういう季節なんじゃないのかな。「毎年よ彼岸の入りの寒いのは」という正岡子規の句があるでしょ。
華女 お母さんの口癖がそのまま句になったものね。
句郎 お母さん、彼岸だというのに寒いなと、言うと母がそうよ、「毎年よ、彼岸の入りが寒いのは」と言った。そう、二月は寒い。寒いけれどももう、春は来ている。そこここに。こういう季節が二月なんだよ。
華女 「春きぬと目にはさやかに見えねども光の色に驚かれぬる」ということのようね。
句郎 うまいことを言うね。
華女 そうよ。上手でしょ。
句郎 藤原敏行は風の音に秋を発見した。その歌を詠んだ。「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」とね。
華女 古今集にある有名な歌ね。
句郎 辻田さんは郵便受の隙間から入り込む光線に春を発見し、詠んだ句が「二月来る郵便受の隙間より」の句だったんじゃいかと思うんだ。宇田喜代子氏はこの句を読み、良い句だと感じたのじゃないのかな。これは名句だと推奨した。
華女 俳句とはこういうものなのね。俳句が少し分かったような気がするわ。一つは季節感を表現することなのね。