降る雪や明治は遠くなりにけり 中村草田男
しんしんと降る雪の中を歩いて母校の小学校に向かう。雪に降り込められて小学校の中は暗かった。この俳句は昭和十一年に発表されたものです。昭和十一年二月二十六日大雪が降った。この日、日本陸軍青年将校が首相官邸を襲い、クーデターを起こす。この事件に触発されて草田男は光り輝いていた明治が遠くになっていくと感じた。これから雪におおわれた冬の時代がやってくる。このような気持ちを俳句に詠んだ。
明治を代表する人物に乃木(のぎ)希(まれ)典(すけ)という日本陸軍の軍人がいます。日露戦争を勝利に導いた軍人として日本国民から尊敬を集めた。乃木は旅(りょ)順(じゅん)要塞(ようさい)陥落後(かんらくご)ロシア軍将軍ステッセルと清国海軍の兵舎・水師営(すいしえい)で会見する。その時、乃木はステッセル将軍を捕虜としてではなく、軍人として遇した。ここに武士道がある。全力を尽くして戦った敗軍の将を讃(たた)える。ここに礼の美しさがあると小学生の頃、教えられた。この世には強い者と弱い者がいる。弱い者は強い者を崇めるのは誰もがする。強い者が弱い者を崇め、讃えることは難しい。強い者が弱い者を敬うことが礼儀本来のあり方なんだと父に教えられたような気がする。そのような礼儀をわきまえた武士道の精神を体現しているのが乃木(のき)希(まれ)典(すけ)将軍だと教えられた。この乃木将軍は明治天皇が亡くなると奥さん共々殉死(じゅんし)した。乃木の殉死とともに明治は終わったといろいろな人が言っているのを聞いた。その後、乃木神社の神様としても奉られるようになる。乃木は神様になった。
この乃木希典の精神が現代の若者に継承されている。それは昭和五十年代、大衆居酒屋チェーン店が普及していくとともに大学に入学した新入生を迎えるコンパで「一気」「一気」というビールの飲み方が広がった。その結果、急性アルコール中毒になる学生が救急車で運ばれる事態が増えた。中には死者まで出た。中には東大生もいて社会問題にもなった。それ以来、大学では四月当初、酒の飲み方を教える講座が設けられるようにもなった。このビールの一気飲みを普及させたのが乃木希典だった。陸軍将校を集め、ぶっ倒れるまでビールの一気飲みを強制したのが乃木陸軍司令官だった。
鉄血政治を掲げたプロシアの宰相ビスマルクの薫陶をうけたプロシア陸軍の精神を体現した乃木希典は二〇三高地攻撃戦では、猛爆撃される中、兵士たちに進軍を命じて、多数の兵士を殺した。将軍は兵士や部下の命など木の葉のようなものだと考えていたのだ。その精神がビールの一気飲みに現れているように思うのだ。またビールという飲み物は一気飲みが美味しいお酒のようにも感じる。
ヨーロッパを侵略したノルマン人は勝利の宴にビールで乾杯した。ジョッキは被征服民の骸骨だったという。その乾杯の言葉・スコールは骸骨を意味する。骸骨をジョッキにして飲む酒がビールだった。