「徒然草第十二段」を読む 『同じ心ならん人としめやかに物語して』
「同じ心ならん人としめやかに物語して、をかしき事も、世のはかなき事も、うらなく言ひ慰まんこそうれしかるべきに、さる人あるまじければ、つゆ違はざらんと向ひゐたらんは、たゞひとりある心地やせん」。
同じ気持ちの人と静かに話していると面白いことも世の中のつまらないことも心の隔てなく話しあい、心やすまることほど嬉しいことはないが、そのような人がいるわけもないので、相手と少しも違うことのないよう気を使って話しているのは自分一人でいるような気持ちだ。
「たがひに言はんほどの事をば、『げに』と聞くかひあるものから、いさゝか違ふ所もあらん人こそ、『我はさやは思ふ』など争ひ憎み、『さるから、さぞ』ともうち語らはば、つれづれ慰まめと思へど、げには、少し、かこつ方も我と等しからざらん人は、大方のよしなし事言はんほどこそあらめ、まめやかの心の友には、はるかに隔たる所のありぬべきぞ、わびしきや」。
互いに言いたいことを言い合い、「ほんとにそうだ」と言い合える関係もあるが僅かに意見の異なる人とは「私はそう思う」などと言い争い、憎しみをもつことがある。「そうだから、そうだ」と語り合えるなら幾分かは心休まる思いだ。実際、私と気持ちが同じでない方と、大方どうでもいいようなことを話している分にはいいが、本当の心の友とは、大きく隔たっているのはやりきれない。
言葉は通じるのか。ごはん論争と命名された国会での質問と答弁である。
長妻衆議院議員と加藤厚労大臣とのやりとり。2018年2月26日衆議院厚生労働省委員会における問答である。
Q「朝ごはんは食べなかったんですか?」
A「ご飯は食べませんでした」
Q「何も食べなかったんですね?」
A「何も、と聞かれましても、どこまでを食事の範囲に入れるかは、必ずしも明確ではありませんので・・」
Q「では、何か食べたんですか?」
A「お尋ねの趣旨が必ずしもわかりませんが、一般論で申し上げますと、朝食を摂る、というのは健康のために大切であります」
Q「いや、一般論を伺っているんじゃないんです。あなたが昨日、朝ごはんを食べたかどうかが、問題なんですよ」
A「ですから・・」
Q「じゃあ、聞き方を変えましょう。ご飯、白米ですね、それは食べましたか」
A「そのように一つ一つのお尋ねにこたえていくことになりますと、私の食生活をすべて開示しなければならないことになりますので、それはさすがに、そこまでお答えすることは、大臣とし
ての業務に支障をきたしますので」
言葉は通じるようで通じない。発言者の意図をすべて言葉で表現することはできない。質問者に対し
て答弁者が質問者の意図を理解しない限り、言葉は相手に伝わらない。
話し合いが成立するためには互いが相手を理解しようという気持ちがなければ成立しない。良好な人
間関係があるところでなければ言葉は通じない。国と国との関係においても同じことが言えるのではな
いか。
日本政府は韓国の大法院の徴用工判決を認めない。韓国政府は自国の大法院の判決を受け入れる。話し合いによって解決できないものなのか、疑問である。