醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより   1456号   白井一道

2020-07-03 15:41:30 | 随筆・小説


  全世帯型社会保障制度の導入は福祉の削減だ 



高福祉高負担の全世代型社会保障を導入することなしにこれからの日本の高齢者福祉を持続することはできないと野党議員が述べるyou tubeを見た。野党議員氏はこれからの日本の年齢別人口構成を図解したものを見せていた。
 このyou tube を見る気になったのは、小川淳也衆議院議員の話だったからである。彼は北欧諸国を視察し、国民が政府役人や国会議員を心の底から信頼していることに痛く感銘を受けた経験があるようだ。高い消費税を支払うことを嫌がっていない。政府に支払った税金は確実に国民に戻されてくることを信じている。国民が政府を信頼していることに心底驚いた経験があるようだ。日本の国民は政府を信頼していない。税金はできるだけ安くしてもらいたい。これが日本の国民感情だという認識を小川議員は持っていたようだ。国会議員である政治家が国民の信頼を得ることができるなら高福祉高負担の税制が導入できると小川議員は考えているようだ。国民が政治家である国会議員におねだりすることがなくなり、政治家が国民の信頼を裏切るようなことをしないならば、高福祉高負担の税制を導入することが可能となり、持続可能な福祉制度を実現できると考えているようだ。
 確かに中学一年生の時に初めて社会科の授業で年齢別人口構成を習った経験がある。更に高校ではもう少し詳しく人口問題を勉強した経験がある。発展途上国の年齢別人口構成は高齢者になるにしたがってその人口が少なるピラミッド型をしている。それがより先進国になるに従って年齢別人口構成が釣り鐘型になっていく。高齢者の割合が全人口の中で増えていく傾向が出てくるというものだ。最終的には高齢者と低年齢者の割合が少なくなるつぼ型へとなっていくと高校の地理の教科書では説明している。
 この事を小川議員は歴史的なものとして説明していた。確かに産業革命は世界各国で人口爆発を発生させた。人口の増加は自然なものではない。人口の増加は人為的なものである。食料生産量によって人口は制約されている。世界的に見るならば稲作のできる地域の人口は多い。人口密度が高い。南アジアから東南アジア、東アジアのモンスーン地帯では稲作ができる。この地域の人口密度は高く。人口も多い。それに比べてヨーロッパなどの畑作地域にあってはアジアの稲作地域と比べて人口密度は低く、人口も少ない。ヨーロッパは一粒の麦を蒔いて一粒の実しか実らないと西洋史の授業で聞いた言葉がある。食料のカロリー量によって人口は制約されている。ヨーロッパは痩せた食料の地域、それに比べてアジアは食料の豊かな地域だ。人口問題を考える場合には、このような地理的条件も考えるべきであろう。
 世界の歴史を考えてみると産業革命に匹敵する技術革新がある。それは新石器の発明であった。イギリスの考古学者、チャイルドは新石器革命という言葉を使っている。新石器の発明によってはじめて農耕が可能になったと言われている。農耕の始まりによってそれまでの人々の生活を一新し、人口が爆発的に増大した。それは一面、人類の哀しみの始まりでもあった。国家が誕生した。国家が成立することによって一部の人々の生活が豊かになる一方、それまで以上に生活が苦しい奴隷身分の者が出現してきたのだ。新石器、農耕の始まり、国家の誕生は文明の誕生である一方、奴隷身分の者が大量に出現した。それ以来人口の量的拡大は少しずつではあったが、増大したが、爆発的増大は18世紀にイギリスではじまる産業革命まで起きなかった。
 産業革命は一方の人々を豊かにしたが、他方には窮乏化し、奴隷のような状態に留め置かれる人々を生み出した。その中にあって人々は豊かさを求めて貧しい人々は子供を持つことが豊かになることだと子供を作り、働かせることによって豊かな生活を求めた。その結果が産業革命による人口爆発であった。産業革命は世界的規模で貧富の格差を拡大した。労働人口を求める国の人々は外国から食料を輸入した。食料を輸出した国にあっては食料が欠乏する人々が生まれて来た。食料を輸出することによって豊かになる人々がいる一方、たくさん食料が生産されているにもかかわらず輸出されてしまうため、飢える人々が生れた。産業革命まで食料生産の少ない国々が食料を買ってしまうため、飢える人々が生れた。産業革命の恩恵に預かった国々で人口が爆発的に増大した。経済が成長し続ける限り人口は増え続け、年齢別人口構成はピラミッド型であり続けた。がしかし、世界的な貧富の格差が縮小してくるに従って先進資本主義国の成長の限界が見えて来ると年齢別人口構成が釣り鐘型になっていく。国の在り方を変える事なしの全世代型社会保障は弱者切り捨てだ。