資本主義経済はいかに生まれて来たのか 8
古くて新しい問題・機械破壊運動
1733年毛織の布地を織る横糸を通す機器「飛び杼」が発明されると手織りの職人がケイの発明で職を失うことを恐れ、国王にジョン・ケイが発明した機器を毛織物生産事業に利用しないよう請願したという。
しかし毛織物を織る手間が一人分減らすことができ、作業能率を4倍に上げることが実現した。ジョン・ケイは飛び杼を発明しても大きな富を得ることなく、生涯を終えた。飛び杼の発明によって被害を受ける人々からの妨害があったからであろう。ジョン・ケイの生涯は不遇なものではあったが、産業革命の始まりを告げる「飛び杼」の発明は世界史的な出来事として全世界の人々の記憶に残る出来事であった。
産業革命の始まりは同時に機械破壊運動(ラッダイト運動)の始まりでもあった。この問題は極めて現代社会の問題でもある。AIの普及が職を奪う。このような問題がある。
AIは人間の仕事を奪うのか? 朝岡 崇史
「1990年代以降、IT技術の導入がもたらす技術的失業を懸念し、テクノロジーの発達と普及に対して反対を唱える「ネオ・ラッダイト運動」が起き、ノーベル経済学賞の受賞者でもあるデール・モーテンセンとクリストファー・ピサリデスのような主流派の著名経済学者によって研究されるようになった。
「ネオ・ラッダイト運動」自体は「銀行にATMが導入されると窓口係が職を失う」「Amazonが普及すると街中の書店は廃業に追い込まれる」といった近視眼的なものだが、「シンギュラリティ」への道筋が明確になっていくに連れて、今後、似たような形で技術的失業に対するノイズが上がっていく可能性がないとは言えないだろう。
デジタル化の急速な進展により、新聞や雑誌などのアナログのマスメディアが衰退する一方、インターネット関連のメディア(ウエブマガジン、企業のオウンドメディア、SNS、ネット通販サイトなど)が誕生し、ウエブマガジンの記者、ITエンジニア、ウエブデザイナー、ウエブ解析士など次々に新しい雇用を創出している。
この変化は今後の企業経営者の取るべき戦略、つまり「ヒト・モノ・カネ」のリソース配分をどう考えるかという点で、具体的な方向性を示唆していると言えるだろう。
それは、とりもなおさず、お客さまの気持ちの変化に寄り添う形で、コンピュータと人間との役割分担を考えることである。
AIの導入で余剰になった人材リソースや資金をそこに重点投入して、お客さまとの接点で機能させて行くことが必要だ。
銀行の窓口係、保険の営業職員や代理店の事務職員、携帯電話のショップの店員などはAIに仕事を奪われるのではなく、AIの導入によりその立ち位置がよりお客さまに近い場所へと変わり、AIができない「人間ならではの発想や価値の提案」をお客さま主語で専門的に担うことが求められるはずだ。
『白い巨塔』で描かれるアナログな医療の現場
「さすがに君だ、たった2枚のフィルムで、こんな早期の癌を発見できるとは、君の読影力の高さには頭が下がるよ」
素直に感服すると、財前の顔に得意げな笑いがうかんだ。
「うん、まあ、これが僕の誇るに足るところだ、噴門癌の微妙な陰影の読影は、いうなれば科学ではなく、一種の芸術なんだよ、どこがどうだとか、どういう陰影はどう読影するかなどという定義は、あってないようなもので、何回も自分の目で見ているうちに会得し、解って来るものだよ、但し、それにはもちろん、非常に優れた勘と鋭い洞察力が必要だがね」 (『白い巨塔』 新潮社 山崎豊子)
『白い巨塔』で描かれる財前教授と里見助教授のこのやり取りには、最先端の大学病院で勤務する医師にとってさえ、レントゲン写真の読影が科学ではなく芸術の領域のスキルであることを如実に語っている。」
資本主義経済は産業革命によって成立する。なぜなら産業資本が成立することによって資本主義経済は確立するからである。重商主義経済は新しい産業を生み出すことがなかった。アジアやアメリカからヨーロッパでは決して手にすることのできない特産物を持ち帰り、ヨーロッパで売りさばき、富を得ただけのことである。だからポルトガルもスペイン・オランダも一時期、日の沈むことのない帝国を築くことはできたが、継続して繁栄することはできなかった。イギリスのみが大英帝国を築いた。