長尾景虎の戯言

読んだり聞いたりして面白かった物語やお噺等についてや感じたこと等を、その折々の気分で口調を変えて語っています。

柴田よしき著【竜の涙(ばんざい屋の夜)】

2011-04-06 14:23:03 | 日記・エッセイ・コラム

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【ふたたびの虹】の続編

東京丸の内のはずれ、戦後まもなくして焼け跡の中に建てられた、趣のあるビルに小さな店「ばんざい屋」がある。
少し寂しげな影を漂わす、美しい女将がひとりできりまわしている。
京の庶民のおばんざいを、女将のアレンジで出す店。
だが時代の流れに逆らいようがない、ビルは建て替えられる。
立て替えられたビルにそのまま入れば、当然高い家賃となる。
高級料亭が出すような、高い料金を取る料理は出してはいない。
新たな場所を探すか・・・。

『竜の涙』
川上有美は中堅どころの広告代理店に入社して十年、主任という曖昧なポストにいる。
自分に限界を感じ始めて、焦りを感じてきた。
高校の同級生金岡麻由とは大学は違うが、就職先が同じになった。
だが、有美は一浪して大学に入り、一年留年しているので、会社では二年後輩になる。
麻由は最年少役員の芽もありそうだという噂。
バルコニー以外全社禁煙になって三ヶ月、ヘビースモーカー達がバルコニーから次々に姿を消す中、有美は頑として吸い続けている。
麻由もついに禁煙するとのことで、ニコチンガムを口に放り込む。
進藤淳史とは有美は学生時代からのつきあいだが、互いに男女を意識していない。
時折淳史が誘って、一緒に食事するだけの仲であった。
淳史はグルメである。
淳史が有美を「ばんざい屋」へ誘い、そこでアメリカの製薬会社に移ることを告げた。
麻由は禁煙するし、淳史はアメリカへ行くしで、有美は言い知れぬ寂しさを感じる・・・。

『霧のおりてゆくところ』
資料室の草間洋子は定年まで三、四年。
役職は係長で部下はいない。
洋子の趣味はハーブティー作りである。
資料室は女子社員の息抜きの場ともなっている。
金岡麻由にとっては部下になるのだが、母親のような年齢の洋子の前では、新入社員のようになってしまう。
この資料室の魔女の過去は、前社長の愛人であった。
洋子は会社に復讐するために残り、資料室にこもった。
資料室のデーターをデジタル化して総て残す。
内幕も総てである・・・。

『気の弱い脅迫者』
竹下の周辺で、無言電話・ジャケットの盗難と出現・挙動不審の女出現が起こった。
先輩の藤田はストーカーだと言う。
留守番電話に三、四回無言電話があった。
バッティングセンターで、カゴに入れていたジャケットが、店の外の街路樹にひっかけられていた。
竹下の住むマンションの彼の郵便受けの投入口に、女が手を入れようとしていたので、声を掛けたら逃げるように駆け出した。
藤田は女将に自分の女ストーカー説の同意を求めるが、当の竹下には心当たりはないと言う・・・。

『届かなかったもの』
淳史は、帰国したら有美と「何か美味いもん食いに行く」約束だけは、忘れずにスケジュールに入れてくれていた。
ある夜本物のTボーンステーキを食べさせた。
淳史は「この肉の味が自分に染み込み始めていると気づいて、ようやく、アメリカって場所で生きていくことに、迷いがなくなったんだ」
と言った・・・。

『氷雨と大根』
常連の山岡が大根に柚子味噌をかけた一椀に喜んだ。
山岡はその夜はいつもより店に長くいた。
女将も少しビールを飲んでいた。
山岡は帰路、ノックアウト強盗に遭遇して、大怪我を負った。
妻は亡くし、一人娘はアメリカで暮らしている。
その山岡の娘が夫を連れて、「ばんざい屋」にやって来た・・・。

『お願いクッキー』
有美は検査の結果、乳癌であることがわかった。
初期なので、早く手術すれば治る可能性が高い。
が、予断は許されぬ、若い乳癌は転移が早い。
一方「ばんざい屋」の女将は、店を閉めることを決意した・・・。

ストーリーはなかなか渋いし、登場する料理は、すごく美味そうだ。