【ふたたびの虹】の続編
東京丸の内のはずれ、戦後まもなくして焼け跡の中に建てられた、趣のあるビルに小さな店「ばんざい屋」がある。
少し寂しげな影を漂わす、美しい女将がひとりできりまわしている。
京の庶民のおばんざいを、女将のアレンジで出す店。
だが時代の流れに逆らいようがない、ビルは建て替えられる。
立て替えられたビルにそのまま入れば、当然高い家賃となる。
高級料亭が出すような、高い料金を取る料理は出してはいない。
新たな場所を探すか・・・。
『竜の涙』
川上有美は中堅どころの広告代理店に入社して十年、主任という曖昧なポストにいる。
自分に限界を感じ始めて、焦りを感じてきた。
高校の同級生金岡麻由とは大学は違うが、就職先が同じになった。
だが、有美は一浪して大学に入り、一年留年しているので、会社では二年後輩になる。
麻由は最年少役員の芽もありそうだという噂。
バルコニー以外全社禁煙になって三ヶ月、ヘビースモーカー達がバルコニーから次々に姿を消す中、有美は頑として吸い続けている。
麻由もついに禁煙するとのことで、ニコチンガムを口に放り込む。
進藤淳史とは有美は学生時代からのつきあいだが、互いに男女を意識していない。
時折淳史が誘って、一緒に食事するだけの仲であった。
淳史はグルメである。
淳史が有美を「ばんざい屋」へ誘い、そこでアメリカの製薬会社に移ることを告げた。
麻由は禁煙するし、淳史はアメリカへ行くしで、有美は言い知れぬ寂しさを感じる・・・。
『霧のおりてゆくところ』
資料室の草間洋子は定年まで三、四年。
役職は係長で部下はいない。
洋子の趣味はハーブティー作りである。
資料室は女子社員の息抜きの場ともなっている。
金岡麻由にとっては部下になるのだが、母親のような年齢の洋子の前では、新入社員のようになってしまう。
この資料室の魔女の過去は、前社長の愛人であった。
洋子は会社に復讐するために残り、資料室にこもった。
資料室のデーターをデジタル化して総て残す。
内幕も総てである・・・。
『気の弱い脅迫者』
竹下の周辺で、無言電話・ジャケットの盗難と出現・挙動不審の女出現が起こった。
先輩の藤田はストーカーだと言う。
留守番電話に三、四回無言電話があった。
バッティングセンターで、カゴに入れていたジャケットが、店の外の街路樹にひっかけられていた。
竹下の住むマンションの彼の郵便受けの投入口に、女が手を入れようとしていたので、声を掛けたら逃げるように駆け出した。
藤田は女将に自分の女ストーカー説の同意を求めるが、当の竹下には心当たりはないと言う・・・。
『届かなかったもの』
淳史は、帰国したら有美と「何か美味いもん食いに行く」約束だけは、忘れずにスケジュールに入れてくれていた。
ある夜本物のTボーンステーキを食べさせた。
淳史は「この肉の味が自分に染み込み始めていると気づいて、ようやく、アメリカって場所で生きていくことに、迷いがなくなったんだ」
と言った・・・。
『氷雨と大根』
常連の山岡が大根に柚子味噌をかけた一椀に喜んだ。
山岡はその夜はいつもより店に長くいた。
女将も少しビールを飲んでいた。
山岡は帰路、ノックアウト強盗に遭遇して、大怪我を負った。
妻は亡くし、一人娘はアメリカで暮らしている。
その山岡の娘が夫を連れて、「ばんざい屋」にやって来た・・・。
『お願いクッキー』
有美は検査の結果、乳癌であることがわかった。
初期なので、早く手術すれば治る可能性が高い。
が、予断は許されぬ、若い乳癌は転移が早い。
一方「ばんざい屋」の女将は、店を閉めることを決意した・・・。
ストーリーはなかなか渋いし、登場する料理は、すごく美味そうだ。