長尾景虎の戯言

読んだり聞いたりして面白かった物語やお噺等についてや感じたこと等を、その折々の気分で口調を変えて語っています。

辻真先著【急行エトロフ殺人事件】

2017-11-29 12:02:02 | 本と雑誌

綾辻行人・有栖川有栖復刊セレクション。
1982年10月5日に刊行されたものを、2007年8月6日に復刊したもので、今をさること35年前の作品である。
昭和19年~20年戦時統制化での話。
しかし、冒頭は昭和50年の作中作のSFで始まる。
これには少し意味があるので要注意。
さて話はこの著者の作品によく登場する探偵役、ポテトこと牧薩次とスーパーこと可能キリコが事件に巻き込まれる。
キリコの兄克郎が同窓会で名古屋へ向かうのに、キリコもついて行った。
可能家の親戚で、少年の頃の辻真先とその両親が登場する。
この同窓会の出席者4人のうち3人が変死を遂げた。
事件の直前失踪した町谷修の不可思議な手紙…「ぼくは急行エトロフに乗る。ごきげんよう」
生き残った可能克郎は、妹のキリコ、その友人牧薩次とともに事件の手掛りを求めてエトロフ島へ向かう。
読んでいるうちに、おやっと思う箇所が、何か所も出てくる。
昭和16年12月8日に、米英と開戦したはずなのに、話し合いで回避していたり、実際に開戦したのが昭和20年8月15日になっていたりで、史実とは違う箇所があり、その他にも事実と異なる箇所が多々存在している。
実はそれには意味がある、それは最後で分かる…。
東南海地震については事実であるが、当時の国民には知らされなかった皮肉も登場。
この本はなかなかの値打ち本になっているそうで、読むのも面白いかもしれないが、希少価値としての値打ちもあるかも…。

宮部みゆき著【孤宿の人上・下】

2017-11-25 19:44:03 | 本と雑誌

四国は讃岐国の小藩丸海藩に船井加賀守守利(ふないかがのかみもりとし)が流されてくる。
元幕府勘定奉行で妻子を毒殺し部下を斬り殺した、乱心者である。
加賀殿はもう人でなく、何か忌まわしく、恐ろしく、汚らわしいモノへと変じてしまった。
迂闊に命を絶てば、もっと悪いモノになって、将軍家に災いをもたらすかもしれぬ。
これはもう、遠ざけて封じるしかない。
時の将軍家斉公は、そうした事柄を非常に気にするので、なおさら処置が難しくなった。
そんな事情で加賀殿は丸海藩に流刑になったのである。
丸海藩としては、これは難儀な仕儀となったわけである。
もし加賀殿に何かあれば、御家取り潰しになってしまう。
幕府はそれも計算の上であるのだろう。
加賀殿をわけありの涸滝の屋敷に幽閉することになった。
丸海の民は加賀殿を悪鬼のごとく恐れた…。
海うさぎが飛ぶ夏の嵐の日、加賀殿の所業をなぞるかのように不可解な毒死や怪異が小藩を襲う・・・。
一方『ほう』は江戸市中、内神田の建具商「萬屋」の女中部屋で生まれた。
ほうのおっかさんが萬屋の若旦那と通じてこしらえた子供だ。
ほうのおっかさんはほうを生んで間もなくして死んだ。
ほうは育たずに死ぬことを望まれた赤子であった。
おっかさんが死んでしまったからなおさらだ。
だが、ほうは生き延びた。
阿呆のほうと名付けられた…。
哀しいことに、ほうは少し頭が弱かった、だが皆に小突かれ、大声で怒鳴なれしながらも、その心根は純真無垢であった…。
ほうは躾らしい躾は受けず、牛馬のごとくあつかわれた。
あげく、萬屋の旦那と若旦那が相次いで病みついてしまい、修験者に見てもらったら「不遇で死んだ奉公人の魂が、萬屋を恨んでいる」とのこと。
ほうのおっかさんのことである。
ほうを寺社へ送って拝ませればよいとのこと。
頑是ないほうは、江戸より何百里も離れた見知らぬ遠い土地にある、金毘羅大権現に参ることになった。
ひとりではやれぬので、しかたなく女中をひとりつけたが、この女中が性悪で、有り金持ってほうを置き去りにした。
それが丸海の地であった。
そして井上家にほうは引き取られた。
井上家は藩医で「匙」の身分であった。
この井上の家の息女、ほうに優しく接してくれた琴絵が毒殺された…。
ほうの波乱万丈はまだまだ続く…。
ほうはこともあろうに、悪鬼と恐れられる加賀殿が幽閉される、枯滝の牢屋敷に奉公することになった…。
多彩な登場人物、しかしながら、その登場人物が次から次へと殺されていく、この作者は何人殺せば気がすむのかと、その残虐性を疑うほどでもあった…。
殊に、ほうに優しく接する者は、ことごとく殺していった。
最後は、ほう「おあさん」と慕う娘宇佐を殺してしまったのは、如何なものかと痛感した。
その反対に、ほうにきつくあたった者は、のうのうと生きている。
ほうを置いてきぼりした女中にしかり、萬屋にしかりである…。
本当はほうを苛め抜いて、ぼろ雑巾のように殺したかったのかも知れないが、体中に擦り傷や打ち身をこさえながら、純真無垢に自らのできる仕事に専念する、ほうに対して恐れをなして殺せなかったのだろうと読み進むうちに看破できる。
読者の反応が怖いからであろう!
乃南アサのような猟奇的な、誰がこれを読んで喜ぶのか不可解な小説を書きたかったのかも知れないが…。
総てが平穏に戻り、ほうは井上家に戻ったが、いずれどこかに追いやられることであろう。
頑是ないこの娘には安息の場所は、この作者は与えないであろう、自らは優雅な生活を送っていてもである…。
それほど、この作者は自ら創った『ほう』というキャラクターを憎んでいるのがよくわかるのである…。
何故憎むのか、それは作者自身が純真無垢なほうの心根に嫉妬したからであろう!
まずもって、著者は純真無垢な心を否定する人種なのであろう…。
頑是ない可哀想なほうに本当の救いは、果たして訪れるのであろうか…?
ほうは、小突かれたり、大声で怒鳴られたした時、いつも思う、自分が阿呆だからだと、哀しいことだ…。




芦辺拓著【異次元の館の殺人】

2017-11-10 22:47:54 | 本と雑誌

冒頭に「シュレーディンガーの猫」の思考実験の話が登場する。
箱の中に猫がおり、それといっしょに放射性物質、および致死毒の発生装置とつながった検知器が収められている。
放射性物質が崩壊する確率はわかっているが、いつそれが起きるかはわからない。
このとき猫の生死は雲のようにあいまいで、互いにいりまじった状態にあり、箱のふたを開いた瞬間、初めてそれが確定するーーーという世にも不思議なパラドックス。
古典力学の立場からは、全てが宇宙の始まりから決定づけられているとの考えからは、ふたを開けようが開けまいが、結果はラプラスの悪魔のお見通し。
しかし量子力学的な観測からは、そうはならないのである。
箱の中で原子核崩壊が起きるかどうかは波動関数の方程式にゆだねられ、純粋に確率分布の問題であり、となると原子核が崩壊していないがしている、検知器は作動していないが作動しているし、毒は放出されていないが、同時に放出されてもいる。
したがって猫の生死もまたーーーこれら二つの可能性はまるで雲のように重なり合っていて、どちらでもなく、どちらでもありうることになる。
しかしてこれは更に論理を進めるならば、箱を開けた刹那、両方の可能性がともに実現されて、毒がまかれないまま猫が生きていている世界と、死んでしまった世界に分岐することになる…。
話はどんどんややっこしいことになるのである。
猫好きの私としては、そんな残酷な実験に猫を使うなよって思うが、これはあくまでも思考実験で理論的な検証である。
実際に実験を実行したのではない…と思う…。
しかしこの話は、本著本編に重要な意味をなげかける!!
さて、反骨の検事・名城政人が殺人容疑で逮捕された。
検察内部の不正を告発しようとしていた彼の罪状には、冤罪の疑いが色濃い。
後輩検事の菊園綾子は、宿敵で弁護士の森江春策に協力を仰ぎ、証拠品の放射光による鑑定と、関係者が集った洋館ホテル“悠聖館”での事情聴取に乗り出す。
しかし、放射光鑑定をするはずの研究機関で暴走事故が起こり、“悠聖館”では新たな殺人事件が発生する。
それは、菊園検事を謎と推理の迷宮へといざなう招待状だった―パラレルワールドと化した事件現場。
真相を見抜かないと、元の世界にはもどれない。
知恵と推理と正義感を武器に、迷い込んだ異次元で、孤独な闘いがはじまる…。
ハイゼルベルグが提唱した、不確定理論によれば、素粒子の速度を図ろうとしたら、その位置が特定できない、位置を特定しようとすれば、その動く速度は、分からない。
だから概ねこの位置いて、概ねこの速度で移動しているってなる。
だがこの理論に、激として反論したのが、アインシュタインである。
そんな不完全な科学理論は理論として成立しない、もっと完結した理論でないと…。
しかしながら、この量子力学は、宇宙という膨大な、その発生の基礎を担う。
いきなり、ビックバンで宇宙が生まれたでは、科学理論で不十分なのは分かり切っている。
真空の状態とは、我々には何もない世界って安定していると思うが、科学者にとって、こんな不安定な空間はないそうだ、いつも素粒子が現れたり消えたりを繰り返す。
そしで現れる刹那、他の素粒子とぶつかった時、E=MC2が生きて来る。
素粒子といえども、物体のエネルギーはその質量の光速の二乗倍に匹敵する。
その通り、人間の眼から見て、一瞬にエネルギーの塊が、テニスボール大になってこれが、凄まじい速度で膨張し、その間に、幾種の物質を生み出していって、やがて自重に耐え兼ね、大爆発を起こす、これこそはビックバンであるというのが、今日の見解だろうと思う。
つまり、広大な宇宙の根源は、量子的ミクロの世界から始まったってことでハイゼルベルグもシュレーディンガーも、世界的に評価されている。
一方のアインシュタインは、皮肉にもブラウン運動=水の原子がコップの中で動き回っていることを証明して、量子学に貢献したことでノーベル賞を授与された。
もっと皮肉なのは、科学理論は完結的でないといった彼の相対性理論は自己完結して、その後進まれない状態になった。無限大に対して、どうしたって計算できない。
重力無限大のブラックホールの解明には、役立たずだった。
しかし、量子の世界では、ブラックホールもやがて消滅する運命にあると、スチーブンWホーキングが証明した。

綾辻行人著【人間じゃない】

2017-11-01 19:53:04 | 本と雑誌

著者の未収録の短中編の作品集。
未収録といっても、雑誌や新聞には掲載されており、単行、文庫に収録されていないということ。
『赤いマント』
「館」シリーズの第四作「人形館の殺人」の後日譚に当たる物語。
人形館…は嘗て読んだことはあるが、もう忘れてしまっている。
確か朧げな記憶によると、この人形館だけは、中村青司の設計作ではなかったと思うし、鹿谷門実こと島田潔の登場もなかったと思う。
架場久茂と道沢希早子のコンビで謎を解く、女子高生の間で広まる都市伝説「赤いマント」にまつわるミステリ。
『崩壊の前日』
「眼球綺譚」所収の短編「バースデー・プレゼント」の姉妹編、のつもりで書いたそうな。
「眼球綺譚」も読んだはずだが、もう内容は忘れてしまっている。
「バースデープレゼント」と同様、ホラー小説というよりも幻想小説的な色が濃い作品だそうである。
読んでみて、何のことかよくわからないような作品だった…。
『洗礼』
「どんどん橋、落ちた」にまとめた「僕=綾辻行人」を語り手とする本格ミステリ(の変化球)の連作は、第五話の「意外な犯人」をもって打ち止め、のつもりだった。
その誓いを破って書いた・書かざるをえなかったのが、この中編である。
そうなってしまった背景には、作中で語られているとおりの、”現実”があった…とのこと。
「どんどん橋、落ちた」は読んでいるが、これもまた内容は忘れてしまっている…。
この作品は、作中作になっているので、なかなかややこしいところである。
『蒼白い女』
「よみうり読書 芦屋サロン」に寄稿した四百字詰め九枚の掌編怪談。
登場する「A氏」としていたのだが、これを本署では「秋守氏」に変更している。
そうするとこの作品、実は「私=綾辻行人」を語り手とする「深泥丘(みどろがおか)」連作の番外編なのだと分かる。
時系列的には「深泥丘奇談・続々」所収の「減らない謎」の前に、本作のエピソードが位置することになる…とのこと。
「深泥丘」は読んでいないので、そう言われても分からない…。
まぁ短い怪談話である。
『人間じゃないーーーB〇四号室の患者』
そもそもはオリジナルの漫画原作として考案したプロットだった。
児嶋都さんによって「人間じゃない」のタイトルで漫画化され、「綾辻行人 ミステリ作家徹底解剖」というムックに収録されたのだが、いずれ小説化したいなと考えつづけていた。
けれどもこの原作の「漫画だからこそ成り立つ仕掛け」を小説でどのように処理するか、という難題があって、ずっと手をつけあぐねていたのである。
昨年(2016)になってようやく書く踏ん切りがついたのだが、結果としてこの作品、「フリークス」にまとめた「患者」シリーズの番外編という形を取ることになった…とのこと。
漫画も「患者」シリーズも読んでいないので、単にホラー小説として読んだ、かなり怖ーい作品。
以上、面白そうだと思った方は、一冊税抜き1,550円ですので、著者に成り代わりご購読をお願いしますってか♪