まず初めに、宮部氏の小説は昨今、実に話が長くなっているのが顕著に表れている。
私のような速読のできない者としては、こつこつじっくりと読むため、読了に非常に時間を要する。
この「おまえさん」にしても上下とも五百頁を超え、計千頁を超えるので、まる二週間読了に時間を費やした(ずっと本を読んでいるわけではないが)。
この作品は、「ぼんくら」「日暮し」に続く、”ぼんくら”同心・井筒平四郎のシリーズ第3弾である。
三日前の朝まだき、転がっていた亡骸から染み出した血と脂が、未だ消えずに残っている。
消しても消しても消えないでいたのである。
それをお徳が手下のおさんとおもとを引き連れ、消しにかかる場面から始まる。
さてそれはさておき、痒み止め薬「王疹膏」を売り出し中の瓶屋の主人、新兵衛が斬り殺された。
本所深川の”ぼんくら”同心・井筒平四郎は、将来を期待される同心・間島信之輔(残念ながら醜男)と調べに乗り出す。
その斬り口は、お徳らが人像を消そうとしていた、身元不明の亡骸と同じだった。
それを見抜いたのは、信之輔の大叔父にあたる本宮源右衛門であった。
源右衛門は「遺恨じゃな」と断言した。
両者をつなぐ、隠され続けた二十年前の罪。さらなる亡骸…。
瓶屋に遺された美しすぎる母娘は事件の鍵を握るのか。
二十年前から続く因縁は、思わぬかたちで今に繋がり、人を誤らせていく。
男は男の嘘をつき、女は女の道をゆく。
こんがらがった人間関係を”ぼんくら”同心・井筒平四郎の甥っ子、美少年の弓之助は解き明かせるのか。
真犯人が判明した後、さらに深く切ない謎が待つ。
男は男で、女は女で、それでも男女で生きていく。
事件の真相が語られた後に「残り柿」「転び神」「磯の鮑」「犬おどし」の四つの短編で明かされる、さらに深く切ない男女の真実。
断ち切らない因縁が、さらなる悲劇を呼び寄せる。
謎解きは終わっても、恋心は終わらない。
愉快な仲間たちを存分に使い、前代未聞の構成で著者は挑む。
出会えてよかった?知らなきゃよかった?
何が正しいかとか、何が正しくないかは、誰も語れない…。