長尾景虎の戯言

読んだり聞いたりして面白かった物語やお噺等についてや感じたこと等を、その折々の気分で口調を変えて語っています。

東直己著【残光】

2018-02-21 17:27:47 | 本と雑誌

2003年8月18日 第一刷発行
凄腕の始末屋として恐れられた榊原健三は、今では人目を避けて山奥で暮らしていた。
ある日、山を下りた彼の目に飛び込んできたのは、テレビに映ったかつての恋人・多恵子の姿だった…。
事件に巻き込まれた多恵子の息子を救うべく、健三は単身札幌へと向かう。
だが、彼女の息子が巻き込まれたのは、単なる人質事件ではなかった…。
スピーディーでスリリングな展開のハードボイルド長編作品であり、最後まで息は抜けない、きわどい狭間で物語は推移してゆく!!
暗躍する、道警のやくざな青柳班が、執拗に行動を起こす!
北栄会花岡組本家の若頭の中でも最も羽振りのいい、桜庭組組長の桜庭忠敬の配下が素早く動く!
最後絶体絶命の状態に追いやられ、そこから脱出することができるのか…?
第54回日本推理作家協会賞受賞作品。
それでも、軽妙なタッチは忘れていなかった。
それもそのはず、共演者として、「探偵はバーにいる」の主要登場人物総出演。
〈俺〉はそのままではややこしいので、お馴染みの組長桐原に持谷良比古という名前を、行きがかり上つけられるが、もっぱら便利屋で通っている。
桐原の片腕(若頭)相田は難病で身動きできなくなっていたが、その分小林が動いている。
北海道日報のホモの松尾も登場する。
〈俺〉の相棒高田はショットバー経営とFM放送のディスクジョッキーをやっている。
もう〈俺〉も高田も中年のおっさんになっている。
〈俺〉はすっかり太ってデブ扱いされている…。
始末屋と弱小やくざの組と便利屋が幼い男の子・高見沢恵太を、無謀にも大組織(その中に道警も含まれる)の魔の手から守ろうとする!
持谷となった〈俺〉は呟く「・・・もしかすると、俺、今回、死ぬかもしれねぇな」と。
それに対して桐原も「俺もだ」と呟く…。


綾辻行人著【深泥丘奇談】

2018-02-08 16:49:00 | 本と雑誌

2008年2月29日 初版第一刷発行
体調に不安を覚えて検査入院した語り手の奇怪な目撃談『顔』、散策の途中で遭遇したローカル線の妖しい記憶をめぐる『丘の向こう』、いにしえの水都の幻影が立ち顕われる『長びく雨』、水の悪霊と霊能力者の闘いが殺人事件を招来する『悪霊憑き』、歯科治療をめぐり作者一流の生理的恐怖描写が冴える『サムザムシ』、どこかクトゥルー神話を彷彿させて心弾ませる『開けるな』、京都名物・五山の送り火がシュルレアリスム絵画さながらの幻想の光景へ一変する集中第一の傑作『六山の夜』、秋祭りの夜に病院で開催される奇術ショーの驚くべき顛末を描く『深泥丘魔術団』、語り手の自宅周辺に謎の生き物が出没する『声』…・
自宅と病院を楕円の両極とする語り手の散策=夢幻彷徨が、驚異と幻想の地誌学とでも称すべき光景を開示し、謎めいた世界観の全貌が、精妙な手つきで明らかにされてゆく。
本連作に秘められた奇計は、未だその片鱗を覗かせたにすぎない。…ような気がする。
「幽」編集長/文芸評論家東雅夫 今回は見解が一致しましたので、東氏の書評を引用致しました。
奇才綾辻行人の新境地!
作家が住まう”奇妙な京都”を舞台に…せめぎあう日常と超常、くりかえす怪異と忘却…読む者にも奇妙な眩暈感をもたらさずにおかない、たぐい稀なる怪談絵巻。
「この世にはね、不思議なことがあるものなのです」
ぐらぁぁっ、と世界が揺れる。

柴田よしき著【象牙色の眠り】

2018-02-06 11:39:54 | 本と雑誌

平成12年2月15日初版
工藤瑞恵は夫が借金の保証人になって、その借金を全部背負ってしまった為、優雅な専業主婦だった身分から、一転家政婦になってしまった。
新築のマンションのささやかな城は、たった三年住んだだけで手放すことになった。
家賃六万五千円。部屋数三。風呂は入居時新しくしてもらったが、トイレは和式で、簡易洋式で使っている。
今はそんなアパートに住んでいる。
家政婦に通っている先は、原家で家主原愛美(まなみ)は未亡人で、後妻。
長男の裕次も長女のかおりも前妻の子なので愛美とは他人だ。
次男の祥は愛美の息子だったが、愛美が十八歳の時に生んだ私生児で、やはり裕次やかおりとは血の繋がりがない。
裕次は浪人生。
祥は十六歳だが、高校には通っていない。母である愛美は何故かそのことに触れない。
とても怠惰な人々だった。
そして皮肉にも、原家の顧問弁護士として、瑞恵のかつての恋人だった男、商社マンとして海外赴任していたはずの、椚(くぬぎ)沢幸彦が雇われていた。
洛東エレクトロニクスの原元永会長が愛美の亡夫であり、裕次とかおりの父親だった。
先代から受け継いだ小さな京都の精密機械メーカーだった、洛東エレクトロニクスを巨大企業に育てあげた実力者で、二代目社長として長年腕をふるっていたのだが、まだ六十代だったのに、社内の権力争いに敗れて強制的に会長職に引退させられ、失意の内に脳内出血で他界した。
だが、財産だけはたっぷりと残してくれたようで、愛美も裕次、かおりそれぞれも、取り合えず普通の生活をしていれば生涯働かなくても困ることはないようだ。
養子として遺留分の財産しか手に入らなかった祥でさえ、十六歳にしてすでに、小さな会社を起こすのに充分なくらいの財産は持っていると、もうひとりの家政婦、鈴木玉江から聞いたことがある。
そんな他人家族であるが、いさかいもなく平穏に過ごしているようだった。
二週間ほど前のある晩、悲劇は起きた。
その朝は、かおりは車で出勤しなかった。
夜に仕事仲間が婚約した祝いの会があるので、酒を飲むことがわかっていたらしい。
そして真夜中の午前一時を過ぎた頃、かおりは家からほんの十数メートルというところで車にはねられ、意識不明の重体になってしまったのだ。
ひき逃げだった。車の車種は特定されているが、犯人はまだ捕まっていない。
かおりは昏睡状態のまま、二週間、ベッドで眠り続けている。
かおりがいなくなってから、原家の人々の間に不協和音のようなものが漂い、みなイライラしているように感じられた。
かおりは原家の中で、ただひとり、健全な人間だったのだ。
そしてそのかおりの持つ健全さのおかげで、半ば腐りかている他の者達の心も、何とか健やかさを保とうとしていたのだろう。
だが、かおりが眠れる森の姫君のように、長い長い眠りの中に消えてしまって、彼等は健やかさを失ってしまったのだ。
そんな折、裕次が灯油をかぶって焼死した、自殺か…?
ところで原家とは別の話なのだが、瑞恵の夫・明には愛人がいた。君島直子という…。
その君島直子が自宅で刺殺された、犯人は瑞恵の夫だと警察はどうやら考えているようだ。
工藤明は行方不明になっていた…。
猜疑・憎悪・復讐。
富豪・原家を舞台に次々と起こる不幸な殺人事件。
危うい家族の絆。
疑惑の涯に追い詰められた家政婦・工藤瑞恵。
原家の十六歳の次男・祥と家政婦だけが知る衝撃の真実とは…。
要注意、この物語は最後まで息をつかせない!!