本格推理小説の大御所(第一人者)であった著者が、最初に発表した長編ミステリーであり、初の時刻表トリック。
そして鬼貫(おにつら)警部が初登場する。
場所はまだ戦争の始まる前の満州辺り。
巨額の財産を狙った殺人か?
旧満州、大連近郊でロシア人富豪イワン・ペトロフが撃ち殺される事件が起きた。
容疑者は三人の甥、アントン、ニコライ、アレクサンドルとその恋人たち。
しかし、彼らには一人残らず堅牢なアリバイがあった!
鬼貫警部は得意のロシア語をあやつり、粘り強く捜査する。
…はたして満鉄の時刻表は何を語るのか?
ということなのだが、最終的に鬼貫警部によって、予想外の犯人が炙り出される…。
私は時刻表トリックは、あまり好みではないのだが、この小説は時刻表がなくとも実に分かりやすかった。
この作品については、紆余曲折があって、刊行が遅れたらしい。
従ってこの著者の、作家デビューが遅れたらしい…。
なかなかレトロな本格推理小説で、いささかノスタルジックにもなる。
今は亡き著者自身が綴った回顧録も掲載されていて、なかなか本編読後も楽しめた。
その回顧録の中に、「ペトロフ事件」はまだまだ稚拙なところがある、というような意味の言葉が述べられているが、確かにそんな部分もあるのだが、私はそれもひとつの風味となっていて、よいのではないかと思う。
なんせ、鮎川哲也がいなければ、本格推理小説はこの日本から消えていたといっても、まったく過言ではないと思うのである。
それだけではなく、後進の多くの作家たちに、多大な影響を与えているのであった…。