円華という若い女性のボディーガードを依頼された元警官の武尾は、行動を共にするにつれて彼女には不思議な《力》が備わっているのではと、疑いはじめる。
しかし、雇い入れる条件で彼女に関して、一切興味を持たない、質問もしない事といわれていた。
同じ頃、遠く離れた二つの温泉地(赤熊温泉・苫手温泉)で硫化水素による死亡事故が起きていた。
検証に赴いた地球化学の研究者・青江は、双方の現場で謎の娘・円華を目撃する…。
実は円華は『独立行政法人 数理研究所』という所で、ほぼ軟禁状態であった。
本人が希望し出かけるときは、正体不明の女性桐宮玲が運転し、武尾が助手席に座り、後部座席に円華が座るという行動になる。
完全に監視下におかれていた。
しかしある日、円華は自分の能力を使い、まんまと二人を振り切って逃亡したのである。
円華の目的は、どうやら甘粕謙人を探し出す事のようだった。
謙人は、数年前、姉萌絵の硫化水素自殺に巻き込まれ、植物人間状態となっていたのを、円華の父、開明大学病院脳神経外科の羽原全太朗博士の執刀によって、健常者とほぼ同じ、いやそれ以上の、特殊な能力を身に着けて再生したのだった。
その謙人が数理研究所に寝泊まりしていたが、失踪した。
一方、麻布北警察署の中岡刑事は、赤熊温泉でガス事故で急死した、水城義郎の死に疑念を抱く。
三月ほど前に、義郎の母親水城ミヨから手紙が届いていたのだ。
息子は財産目当てに後妻に入った女に殺されると書いてあった。
そしてあって話を聞いている。
そして更に苫手温泉の事故が発生。
死亡した二人は、ともに映像に関わる人物だった、一方は大物プロデューサー、そして一方は売れない役者。
この二人共通するのは、甘粕才生、謙人の父親で天才鬼才と呼ばれた映画監督…。
成田係長との密談により、密かに中岡は内偵を進めるのだった…。
ラプラスとは仏国の数学者、ピエール・シモン・ラプラス。
「もし、この世に存在するすべての原子の現在位置と運動量とを把握する知性が存在
するならば、その存在は、物理学を用いることでこれらの原子の時間的変化は計算で
きるから、未来の状態がどうなるか完全に予知できる」
これこそがラプラスの悪魔である。
これにより「ナビエ・ストークス方程式」。流体力学に関する、未だ解かれぬ難問を
謙人が解く可能性が大であるってなことで。
難しいことはともかく。
これは是非読んでもらいたい、今までの著者の筆致とは違った、別の意味で迫力のある作品である。