長尾景虎の戯言

読んだり聞いたりして面白かった物語やお噺等についてや感じたこと等を、その折々の気分で口調を変えて語っています。

東野圭吾著【ラプラスの魔女】

2017-07-28 14:39:09 | 本と雑誌

円華という若い女性のボディーガードを依頼された元警官の武尾は、行動を共にするにつれて彼女には不思議な《力》が備わっているのではと、疑いはじめる。
しかし、雇い入れる条件で彼女に関して、一切興味を持たない、質問もしない事といわれていた。
同じ頃、遠く離れた二つの温泉地(赤熊温泉・苫手温泉)で硫化水素による死亡事故が起きていた。
検証に赴いた地球化学の研究者・青江は、双方の現場で謎の娘・円華を目撃する…。
実は円華は『独立行政法人 数理研究所』という所で、ほぼ軟禁状態であった。
本人が希望し出かけるときは、正体不明の女性桐宮玲が運転し、武尾が助手席に座り、後部座席に円華が座るという行動になる。
完全に監視下におかれていた。
しかしある日、円華は自分の能力を使い、まんまと二人を振り切って逃亡したのである。
円華の目的は、どうやら甘粕謙人を探し出す事のようだった。
謙人は、数年前、姉萌絵の硫化水素自殺に巻き込まれ、植物人間状態となっていたのを、円華の父、開明大学病院脳神経外科の羽原全太朗博士の執刀によって、健常者とほぼ同じ、いやそれ以上の、特殊な能力を身に着けて再生したのだった。
その謙人が数理研究所に寝泊まりしていたが、失踪した。
一方、麻布北警察署の中岡刑事は、赤熊温泉でガス事故で急死した、水城義郎の死に疑念を抱く。
三月ほど前に、義郎の母親水城ミヨから手紙が届いていたのだ。
息子は財産目当てに後妻に入った女に殺されると書いてあった。
そしてあって話を聞いている。
そして更に苫手温泉の事故が発生。
死亡した二人は、ともに映像に関わる人物だった、一方は大物プロデューサー、そして一方は売れない役者。
この二人共通するのは、甘粕才生、謙人の父親で天才鬼才と呼ばれた映画監督…。
成田係長との密談により、密かに中岡は内偵を進めるのだった…。
ラプラスとは仏国の数学者、ピエール・シモン・ラプラス。
「もし、この世に存在するすべての原子の現在位置と運動量とを把握する知性が存在
するならば、その存在は、物理学を用いることでこれらの原子の時間的変化は計算で
きるから、未来の状態がどうなるか完全に予知できる」
これこそがラプラスの悪魔である。
これにより「ナビエ・ストークス方程式」。流体力学に関する、未だ解かれぬ難問を
謙人が解く可能性が大であるってなことで。
難しいことはともかく。
これは是非読んでもらいたい、今までの著者の筆致とは違った、別の意味で迫力のある作品である。




柴田よしき著【さまよえる古道具屋の物語】

2017-07-24 11:03:32 | 本と雑誌

いつからそこにあるのか?忽然と現れ、忽然と消える古道具屋。
最近オープンしたにしては、古び過ぎている、でも前からあったかと考えると、まったくそんな記憶がない。
店主は異様な人物で、目がやたら大きくて白目が多く、丸い鼻はあるかないかのごとく小さい、口角が吊り上がってみえる大きな口。
笑っているのか?その顔は貼りついたように変わらない。小柄でそれでいて、男性か女性か判断できない。
そう、忍者ハットリ君に似ているのだ、妙な京都弁でしゃべる。
そこに入ると、自分の意思とは関係なく、なんらかの品物を売りつけられる。
しかも値段は、自分が今持っている有り金全部とぴったりである。
その品物はどれも不可思議な物ばかりで、しかも使い方を間違えると…。
時間は登場人物には流れていくのだが、何故かこの古道具屋は止まったままである。
つまり登場人物は年を取り、それぞれ経験をつんで行って変貌するのだが、この古道具屋と店主はまったく変わらない。
しかし、二度目からは訪れる者に対して、店主の態度ががらりと変わり、横柄になる、口角もへの字になる。
移動しながら唐突に現れては、また忽然と消えることを繰り返す古道具屋…。
第一話「さかさまの物語」第二話「金色の豚」第三話「底のないポケット」第四話「持てないバケツ」
第五話「集合」第六話「幸福への旅立ち」そして何故か?最後がプロローグである。
よくできた物語である。




浅田次郎著【天子蒙塵第一巻・二巻】

2017-07-17 18:30:49 | 本と雑誌
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「蒼穹の昴上・下」「珍妃の井戸」「中原の虹・全4巻」「マンチュリアン・リポート」に続く、第5部作である。
史上最も高貴な離婚劇。
自由をめざして女は戦い、男はさまよう。
ラストエンペラー・溥儀(プーイー)と二人の女。
時代の波に吞み込まれた男女の悲劇と壮大な歴史の転換点を描く…。
家族とは何か。自由とは何か。
清朝最後の皇帝、溥儀は、紫禁城(ヅチンチョヨン)を追われながらも、王朝復興を夢見ていた。
イギリス亡命を望む正妃と、史上初めて中華皇帝との離婚に挑んだ側妃とともに、溥儀は日本の庇護下におかれ、北京から天津へ。
そして、父・張作霖(チャンヅオリン)の力を継いだ張学良(チャンシュエリャン)は失意のままヨーロッパへ。
東北軍閥であった張学良将軍が熱河における敗戦の責任をとって下野し、阿片に溺れてしまったのである。
二人の天子は塵をかぶって逃げ惑う。
北村修治は朝日新聞の特派員である。
上海支局に二年余り勤務したあと、昨昭和七年三月に建国された満州国への勤務を希望したのだが、回された場所は北京だった。
その北村が北京の街中で恩師梁文秀(リャンウエンシウ)を尋ね歩いていたところ、同じ発音の「文繡(ウエンシウ)」の消息を耳にした。
皇妃文繡は傅玉芳という漢人の名で、小学校の教員をしていた。
北村は校門で待ち伏せして、話を聞こうとしたが、文繡に一喝され、あえなく失敗。
そこで「万朝報」の北京特派員として、三十何年も北京を見続けてきた岡圭之介を頼った。
岡はこともなげに、「任せておけ」といった。
北村と文繡の家へ同行したのは、なんと前の大総官太監(ダアツオンクワンタイチェン)李春雲(リイチュンユン)老爺(ラオイエ)であった。
ここで世紀の離婚劇の顛末を聞くことが許されたのである。
それにしても宣統帝愛新覚羅溥儀(シュアントンディー・アイシンギヨロプーイー)は、自分で何かをするということを、まったく知らずに大人になった、なんとも哀れな人間であった…。
関東軍の罪は、張作霖を誅殺して、自作自演の満州事変を起こし、東北の地をわが物にしたこと。
満州事変は特務機関長の土肥原大佐が謀略の絵図を描き、板垣高級参謀と作戦主任参謀の石原中佐が実行した。
彼らが越権と下剋上によって支配する関東軍は、もはや満州の野に放たれた猛獣である。
中央政権をも無視し、ひいては天皇をもないがしろにした、少数の参謀たちの、「私」の戦いであった。
その時、永田鉄山は動いた。
板垣を残し、他は日本国内勤務として異動させた。
そして、できてしまった満州国をの収拾を任されたのが、老練な武藤信義大将であった。
謀略渦巻く満州の底知れぬ闇。
父・張作霖を爆殺された張学良に代わって、関東軍にひとり抗い続けた馬占山(マーチャンシャン)。
1931年、彼は同じく張作霖側近だった張景恵(チャンチンホイ)から説得を受け、一度は日本にまつろうが…。
一方、満州国建国を急ぐ日本と、大陸の動静を注視する国際連盟の狭間で、溥儀は深い孤独に沈み込んでいた。
果たして、満州国は溥儀を宣統帝(シュアントンデイー)として復辟し、大清帝国の再興の礎となるか…?
北の曠野で一人抗う男は叫び続けた。
「我に山河を返せ」
ついに日本の軍部も知るところとなった具体。
「龍玉」(ロンユイ)は今、誰の手に…。
第3巻に続く…
私は、前の「中原の虹」を読みすっかり張作霖のファンになっていた。
「天切り松・闇がたり」と同じく、ピカレスクロマンである。
悪党も膨大な配下を従えれば、英雄になれると知った。
こんな英雄が、あの中国の混乱期にいたとは知らなかった。
白虎張(パイフーチャン)は、悪党も生きる値打ちもない者も、「あばよ!」といって、モーゼルが火を噴かす!!!
これは物語であって史実と異なることもある、知れ切った満州国の末路には、何の興味もない。
すべて歴史が示す通りであろう…。


東野圭吾著【学生街の殺人】

2017-07-06 09:16:25 | 本と雑誌

学生街のビリヤード場で働く津村光平の知人で、脱サラした松木が何者かに殺された。
「俺はこの街が嫌いなんだ」と数日前に不思議なメッセージを残して…。
第二の殺人は密室状態で起こり、その被害者は光平の恋人広美だった…。
密室も謎だが、何故広美は殺されたのかも、光平は理解できなかった。
そして、広美の事を光平は、よく知らない事に気付くのだった…。
恐るべき事件は思いがけない方向に展開してゆく。
奇怪な連続殺人と密室トリックの陰に潜む人間心理の真実!
事件は一度解決したかに見えたが、しかしそれは真相ではなかった…。
この作品は、著者のごく初期のもので、後のベストセラー作家の原点ともいえる。