この作品は実は、前述の「夢の迷い路」の前作で、基礎になったものです。
私は読み方(順番)をミスったようです、この作品から先に読めばよかったのです。
さて、本好き美少女とジャンク映画フリーク男子が、置き去りにされた謎に挑みます。
古い本とドーナッツ、エスプレッソの香りに包まれて。
今はもういない、大切な人たちの記憶に触れながら…。
長身で大食い、エキゾチックな顔立ちの本好き美少女エミールこと日柳永美(ひさなぎえみ)と、華奢な体格で普段は控え目だけど、ジャンク映画フリークで年上女性好き?男子のユキサキこと柚木崎溪(ゆきさきけい)。
珍しくてなつかしい本に囲まれた喫茶店“BOOK STEERING”では、今日も甘いドーナッツとすっきり濃いエスプレッソ、そして解かれないままになっていた謎、仕掛けられたままのトリックを用意して、二人とともに、迫扇学園のずっと先輩である店主梶本達樹(かじもとたつる)がご来店をお待ちしています。
表題作を含め四篇の短編連作です。
『恋文』
エミールは母方の祖母である比田井道子(ひだいみちこ)の家に、夏休み入り浸りなのである。
お目当ては、書庫にある本を読むことと、祖母の作るなんちゃって料理。
そのエミールが、祖母の本からヒッチコックに出そうした手紙が入っていたのを見つける。
差出人の名前は、旧姓の戸祭道子(とまつりみちこ)になっている。
工富多津子(くとみたづこ)さんとルームシェアしていた、アパート翠々荘(すいすいそう)の住所になっていた。
筆跡は道子の筆跡でもなく、エミールが封を強引に開けてみたら、剣呑な謎の文章が出てきた…。
エミールは俄然謎解きにかかるのだが、道子は彼女の繰り出す推理に、大変な事実に気づく…。
『男は関係なさすぎる』
今日も〈ブック・ステアリング〉に入り浸っている、柚木崎溪だった。
マスターの梶本さんと話すのが大好きで、勿論看板メニューのチョコレート・ドーナッツとエスプレッソもお気に入りなのだ。
その梶本さんが、今度伯扇学園の校長に就任する、女性初の与芝満津恵(よしばみつえ)先生とのまつわる話をした。
与芝先生は実は心臓に病気を抱えていた、ある日梶本さんは、その先生が心臓発作で倒れて苦しんでいる所に出くわすが、そのとき、彼女が息も絶えだえに発したひとことが、「男は関係ないでしょ、まして中二の男の子が」だった。
この意味がよく分からず、現在にいたっているのだが、まるでハリイ・ケメルマンが書いた本格推理小説の「九マイル」の、机上の空論を重ねていく内に、本当に事件にいきつくのに似た感覚の言葉であると梶本さんは語る。
「九マイル」に興味を持った柚木崎君は、梶本さんはここにはないが自宅にあるので、今度持ってくると言ったが、果たしていつの日になるか…。
2学期が始まって、柚木崎君はいつも昼休みには、本を読みふけっているエミールがなんと「九マイル」を手にしているのを目ざとく見つけ、彼女に初めて声をかけた。
そのとき、エミールの顔を真正面からまともに見て「かっ可愛いい…」と恋が芽生えるのだった。
それまでは、長身でいかつい印象で、男子と間違えられそうなどと、まったく興味を持ってもいないエミールに。
そのとき〈ブック・ステアリング〉のマスターが話していたので興味持ったなどと話すと、エミールは食いついてきた。
その店を探していたが、全然辿り着けないでいたので、教えて欲しいと。
その日、エミールを柚木崎君は、〈ブック・ステアリング〉へ案内することになる。
そして、マスター梶本さんが呈した、例の謎の言葉の解明に、いつしか二人で挑むことになった…。
『パズル韜晦(とうかい)』
柚木崎君は友人の恵鶴(えづる)君に頼まれて、彼の祖父が書いて残した小説、「殺人の連鎖」の原稿で、未完なのか?判らないが、解決篇がないので、それを読んで解決篇を考えて欲しいとのことなので、土曜日の午後私立迫扇学園の高等部1年Aホームの教室に居残って、それを一生懸命に読んでいたが、そこへエミールがやってきて声をかけてきた。
恵鶴君の下の名前は、未来博と書いて「みきひろ」と読む。彼は同じ1年でCホームである。
Aホームの吹原(ふきはら)朝子という可愛いい系女子の、中等部から学年公認の彼女がいる。
エミールもその小説が面白そうなので、一緒に読みだした…。
そのとき、柚木崎君が何故ユッキーと呼ばれるようになったかが、明らかにされる。
小学校5年~6年にかけて、恵鶴君と同じクラスだったので、サッカー少年で明るくて人気者の恵鶴君に対して、今でこそ柚木崎君は根暗なオタク少年だが、当時は結構剽軽で、二人でコンビになり、ミッキー・アンド・ユッキーで漫才をやっていたそうだ。
エミールはその話を聞き、大爆笑する!
そんなことより、ユッキー・アンド・エミールは、二人仲良く並んで座り「殺人の連鎖」を読みふけっていたのだが…。
『さよならは明日の約束』
屋敷万理子(やしきまりこ)は、出身校の伯扇学園の「昭和五十三年度の卒業アルバム」の自分のモノクロ写真を見て思わず「う、うわ、ださッ」と嬌声が自分の口から洩れた。
三十二年前の黒いブレザーとネクタイの制服姿の彼女は、唇をへの字にひん曲げた仏頂面で、そこに滲み出ているのは明らかに、己れの存在と価値を認めてくれようとしない世間への不満と怨みだ。泥臭いメタルフレームのメガネの奥の半眼も憎々しげで、我ながらちょっと怖い。なによりも特徴的なのは、ひどい猫背で、頭部が極端に寸詰まりなことだ。首がまったく見えないせいか、三つ編みにした髪も妙に不自然な重量感を醸しており、なんとも暑苦しい。
〈ラ・ターブル・ヒデオ〉という、〈伯扇学園〉高等部三年のとき、同じEホームだった細木原芳枝(ほそきばらよしえ)さんの息子さんがオーナーシェフという、ひどく不味い料理を出すビストロを貸し切り、新年会を兼ねての同級会に屋敷万理子は来ていた。
参加人数およそ三十人と、まずまずの出席率。
そう、あの頃の屋敷万理子は顔も性格も、むしろ清々しいほどのブスだったのだった。
そんな万年美醜コンプレックス女が意識改革したのが、大学生の頃とあるきっかけで猫背を矯正し、まっすぐ伸びた背筋で歩くことで、自分に自信を持つようになり魅力的になって、好循環が続き、やがて彼氏も出来るという、おまけに大学卒業後にはミス高和になってしまって、高校卒業アルバムに書いた寄せ書きは、なんと自虐的に「ミス高和になって、男どもを翻弄してやる」だったのだが…。
ミス高和がきっかけで、〈KTV高和〉の当時ディレクターをやっていた、横谷浩孝(よこたにひろたか)と結婚したのだ。だから今は横谷万理子になっている。裕孝は〈KTV高和〉の社長になっている。
ところが卒業アルバムの寄せ書きの写真には、あの「ミス高和になって、男どもを翻弄してやる」が何故か消えていたのだ…。
勿論、この謎を解き明かすのは、ユッキー・アンド・エミールなのだ!
実は同級会の数日後〈ラ・ターブル・ビデオ〉に時計を忘れていたことに気づいた横谷万理子は、電話が通じないので、再び店に訪れてみたら、案の定(料理が不味いから)か店仕舞いしていたので、暗鬱な気分で帰路につこうとしているところに、伯扇学園の生徒だと分かるユッキー・アンド・エミールと遭遇すのである。
そのビルの四階には、万理子の伯扇学園の同級だった梶本達樹君(先日の同級会には出席していなかったが、店の料理が不味いって知っているからだろうと噂されていた)が、書店かなにかの店をやっていることは聞いていたが、そのアンバランスだがとても仲の良いすごく好ましいカップルが四階に向かうようなので、その後に続き“BOOK STEERING”に入っていったのだった…。
それに、前述の「夢の迷い路」に登場する「赤い声の館」なる本が、何故エミールの祖母である比田井道子の家の書庫にあったのか、という謎もマスター梶本さんによって解き明かされる…。
今回は第1作目ということで「夢の迷い路」より、ずっと解り安い内容になっています。
第2作目ということで、人間関係が複雑で人名の読み方が難しい「夢の迷い路」は、著者はんが、さぞおきばりにならはったんどすやろな…。ほなこれで、おいとましますよってに、えろう長い文章やのに最後まで読んでくれはって、どうもおおきに(^^♪(出たな久々の得意の京言葉!)