長尾景虎の戯言

読んだり聞いたりして面白かった物語やお噺等についてや感じたこと等を、その折々の気分で口調を変えて語っています。

西澤保彦著【夢は枯れ野をかけめぐる】

2021-04-29 22:30:38 | 本と雑誌


羽村祐太(はむら ゆうた)48歳求職中、恋人愛人もなく妻帯したこともなく、よって子もなく今や天涯孤独状態、でも意外と、名探偵かもしれない。
円熟のトリックが冴え渡る、西澤ミステリの新境地かなってか?

『迷いゴミ』
50歳を目前にして勤め先を退職し、父親が遺した実家で、一人静かに暮らす羽村祐太。
ある日、高校の同級会に出席した彼は、そこで30年ぶりに再会した加藤理都子(かとう りつこ・今の苗字は膳場〈ぜんば〉)に「人前では説明しにくいアルバイト」をしないかと頼まれる。
持前の勤勉さと休職中という身から、とりあえず、アルバイトを引き受けることにしたのだが、ただそれはゴミの分別だった…。

『戻る黄昏』
羽村祐太はふとしたきっかけで、近所に住む弓削宗則(ゆげ むねのり)と懇意になった。
そもそも祐太が子供のころから、弓削家とは近所ということで、かなり親密な関係だったのだけど…。
ある日のこと弓削の二男である博雄(ひろお)の車を、祐太のガレージにとめてやることになった。
しかし弓削の話によると、博雄のいっていることは何やら怪しいと。
博雄の妻・雪子(ゆきこ)は、弓削の長女・佐智子(さちこ)主催の自然食セミナーの崇拝者で、亭主にも自然食のみ以外、絶対に食べさせない徹底ぶりであった。
そして弓削の長男・明博(あきひろ)は、居場所こそわかってはいるものの、現在音信不通も同然の状態らしい、家族間でも様々な問題を抱えているようだった…。

『その日、最後に見た顔は』
小谷野陶子(こやの とうこ)は、ふとした思い付きで、幼い頃住んでいた裏通りに足を向けたが、そこは禁断の扉を開けてしまったがごとく、彼女にとって禁忌な場所だった。
幼い頃の恐ろしい記憶が蘇ってきたのだ。
だがしかし、懐かしくも恋しい「ユウさん」との再会を果たしたのだった…。

『幸福の外側』
「――いまだから告白するけど、あたし昔、ユウちゃんのことが好き、だったんだ。うん。けっこう本気で」
この言葉は、弓削佐智子が発した言葉…。
急死した弓削宗則氏の葬儀の席での発言だった。
当時、ユウちゃんこと、羽村祐太はまだ中学生、佐智子は大学生だった。
その祐太に葬儀の最中、佐智子は言い負かせられたのだ。
自然食品にこだわる佐智子にとって、衝撃的なことであった…。
宗則氏の遺産配分で、明博・博雄の二人は、死臭漂う実家の継承を拒む。
明博に至っては、遺産相続を放棄してしまう。
ところが佐智子はその総てを了承し、なんと実家を壊し、新たに自然食品専門のレストランにする計画を練っていた。
そして、そこの店長に雪子(博雄の妻)をあて、その補佐として羽村祐太を考えていた。
佐智子は興信所に祐太のことを調査させ、結果、祐太の職歴は抜群で、県下の某大手のデパートの外商部に所属、しかも飛び抜けて優秀な営業成績を残し、四十になる前に課長に、そして昨年、勧奨退職で辞職する直前には、外商部副部長にまで昇りつめていた。
そして、そのデパートは祐太が退職した後は、業績が下落しているという。
その先を読んだ祐太の嗅覚にも、佐智子は大いに力量の凄さを見た。
茫洋として頼りない風貌からは、まったく想像できない実力を持っていた。
ただし、本人は単なる結果論で、自分の実力がなした結果なんぞと、夢にも思っていなかった。ただ希望退職を会社が募り、もう自身で限界を感じていたので、それにのっただけのことである、それに、飲食関係の経験もなかった…。
よって祐太はこの話を一笑にふし、拒むのだった…。
彼としては「接客業なんて、そんなむずかしいこと、わたしは無理です」
これは今後いったいどうなるのか…。

『卒業』
膳場詩織(ぜんば しおり)は、実は加藤理都子こと膳場理都子の娘で、大学生。
羽村祐太と母・理都子の関係を疑ったのだが、自分の祖父母・加藤清治(かとう きよはる)と加藤祥子(しょうこ)のまだら呆けのせいで、総菜を買いまくってしまうが、ゴミの分別など一切出来ず、羽村に母が頼ってしまっている現状を知り、自分も水曜日と限定された収集日に合わせて、ガレージに手伝いにくるようになっていた。
だが次第に羽村の純朴な性格に、というか自分の父親の母親に対する断然封建的な(今では絶対的に許されない!)態度と正反対の男に恋をしてしまっていたのだった。父親に対してはいつも憤懣遣るかたないのだけれども、母親のことを考え、自分に出来得る様々な補助をしてきた。
そんな詩織の感情を無視するかのように、友人の三留(みとめ)ルナ(続けるとミトメルナ)が、ずけずけと入りこんで、なんと、羽村のゴミ分別のガレージまでついてきてしまうのだった…。

『夢は枯れ野をかけめぐる』
最後は表題作で締める。
実はこの前作『卒業』の最後の方に、羽村へ電話で友人の交通事故の知らせが入り、かなり深刻な状況にあるとのふせんがある、その事故に遭遇した相手は、なんと佐智子であった…。
佐智子は自分がもう長くないとの認識を自らして、自分の財産を羽村祐太に引き継がせたいと、彼に結婚をせまる。
しかし、何か微妙に様子がおかしい…。
そこには著者の成熟した、罠が隠されていたのだった…。

誤字脱字が満載でしたので修正致しましたが、まだあるかも?「そこに愛はあるんか~!!」

はいこれでお終いですよん(^^♪
よく雨が降りましたねぇ…。

宮部みゆき著【昨日がなければ明日もない】

2021-04-11 00:15:56 | 本と雑誌


杉村三郎シリーズ第5弾!
今回は杉村三郎vs.“ちょっと困った〟女たち。
自殺未遂をし消息を絶った主婦、訳ありの家庭の訳あり新婦、自己中なシングルマザー。
そこには職業探偵としての杉村に対し、正にプロとしての試練が待ち受けていた…。

『絶対零度』
杉村探偵事務所10人目の依頼人は、50代半ばの婦人筥崎静子(はこざき しずこ)だった。
一昨年結婚した27歳の娘、佐々優美(ささ ゆうび)が自殺未遂をして入院後、面会ができず、1ケ月以上もメールが繋がらないのだという。
どうやら優美の夫の佐々知貴(ともたか)が、強固な壁のごとく立ちはだかっているようである…。

『華燭』
近所に住む小崎佐貴子(こさき さきこ)夫人の中学2年の娘、加奈(かな)の付き添いとして、結婚式に出席することになった杉村は、会場で想定外の事態に遭遇する。
結婚するのは加奈の叔母の娘(つまり従姉)の、宮前静香(みやさき しずか)24歳である。実は小崎佐貴子夫人はある事が原因で、実の両親や実妹とは絶縁中なのだった…。

『昨日がなければ明日もない』
表題作。
29歳の朽田美姫(くちだ みき)から「子供の命がかかっている」という相談を受ける。
彼女は16歳で最初の子、漣(さざなみ)を産み、別の男性、鵜野一哉(うの かずや)との間に6歳の子供、竜聖(りゅうせい)がいて、今は別の“彼〟串本憲章(くしもと けんしょう)と同棲中だった。
漣(自分では“れん〟と呼んで欲しいらしい)の父親が、当時17歳の高校中退・無職無業の少年とはなっているが、実際誰かは判っていないと推測される。
また美姫の本名は三紀である…。

杉村三郎は朽田美姫に対して、経験不足からの青過ぎる非常に甘い考えをして、ラストは痛恨のミスに繋がり、衝撃的な結末になってしまうのだった…。
杉村は、世の中にはどれだけ誠実に、どれだけ理路整然と説明しても、まったく他人(ひと)の意見など聞く耳を持たない人種が、信じられないけども実際に存在する事実に直面するのだった…。

今回は新たなレギュラーキャラクターとして、警視庁刑事部捜査一課継続捜査班・四十代後半の立科吾郎(たてしな ごろう)警部補が登場する、一癖も二癖もありそうなまったく食えない人物…。
今後この男がどう、杉村三郎に関与するかは未知数であるが、面白い人物が加入したと思える。
あなたは、杉村三郎を無能で間抜けでどんくさい、私立探偵と思いますか?
いやいや私は、なかなかの頭脳の持ち主で、一方まだまだ純真な心を残し、だがこれから先は枯れていき経験値で鋭い探偵になるのかも?
杉村三郎として、これまでの事件に遭遇した経験は、ただ甘すぎたくらいの認識に至ったと思える。
さて、立科吾郎警部補の登場で、犯罪は私立探偵ごときが、オンリーで解決は不可能であるのを、杉村はよく知ったのである。
この先の展開は宮部みゆき次第だろうと思うが、時代小説に固着していたこの作家が、現代のミステリを描いているは、やはり面白いとは感じている次第であります(^^♪

初版本限定にはなりますが、”杉村三郎シリーズガイド〟の付録がついています、といってももう遅いかな?