この著者の作品には、必ずといっていいほど美女が登場する。
今回はその美女が主人公。
警視庁国分寺署刑事課警部補・卯月枝衣子(うづきえいこ)がその人、御年29歳。
脚がスラっと長く、スタイルのよい美女である。
が向上心が強いというか、野心が強いというか、なんとしても本庁勤務になりたいと常日頃から熱望していた。
そのため、医者が病死と判定した、誰からみてもそれが相当と思われた平凡な市議死亡の一件を、なんとか殺人事件にできないかともくろむ。
ところがこれがひょうたんから駒のたとえもあるが、なんと本庁の検視官山川六助によって、殺人事件の可能性ありとなった。
一変国分寺署の刑事課は、署開設以来初の殺人事件捜査となり、意気込むのだが…。
本庁の山川刑事が枝衣子に、柚木草平を知っているかと聞き、「あの男には気を付けろ」と話す場面があるが、こんなところに草平ちゃんの名前が唐突に出て来るのが、また一興というところか。
今回はその草平ちゃんの登場はないが、水沢椋という一風変わった男が、ひょんなことから枝衣子の恋人役となってしまう。
水沢は元々「伝報堂」という一流企業に勤めていたエリートだったが、本人にも分からない理由で退職し、都議会議員をやっている父親に小説家になるといって勘当され、市議が死んだ家の真向かいにある今のコジンマリした古アパートに住み、東京芸術学院という怪しげな学校で講師をしている、年齢は三十路過ぎか。
だから元々は良家の息子で、インテリで、落ちた自分を卑下するでもなく野望もない、話せば洒落た返答もし理知的でもある。
枝衣子はそんな所に惚れたのかも知れない…。
他に水沢の隣室に住む小清水柚香という自称フリーのルポライターの女の子が出てくる、フリーライターといっても使いっ走りみたいな仕事しかできていないので、いつかは大きなスクープを物にしたいと願っている。
いつもジャージ姿でいつも黒ぶち眼鏡をかけていて、色気もなにもないが、実際はちゃんとすれば結構可愛いことを、枝衣子は見抜いている。その柚香まで事件に巻き込む。
この枝衣子の美女を見抜く力が、意外にも今回の鍵になる。
さて一方事件のほうは二転三転、結構複雑な様相を呈していくのだった…。
やがて事件が収拾したが、水沢は真相に気付いてしまう…。