長尾景虎の戯言

読んだり聞いたりして面白かった物語やお噺等についてや感じたこと等を、その折々の気分で口調を変えて語っています。

樋口有介著【平凡な革命家の食卓】

2018-09-27 11:17:33 | 本と雑誌

この著者の作品には、必ずといっていいほど美女が登場する。
今回はその美女が主人公。
警視庁国分寺署刑事課警部補・卯月枝衣子(うづきえいこ)がその人、御年29歳。
脚がスラっと長く、スタイルのよい美女である。
が向上心が強いというか、野心が強いというか、なんとしても本庁勤務になりたいと常日頃から熱望していた。
そのため、医者が病死と判定した、誰からみてもそれが相当と思われた平凡な市議死亡の一件を、なんとか殺人事件にできないかともくろむ。
ところがこれがひょうたんから駒のたとえもあるが、なんと本庁の検視官山川六助によって、殺人事件の可能性ありとなった。
一変国分寺署の刑事課は、署開設以来初の殺人事件捜査となり、意気込むのだが…。
本庁の山川刑事が枝衣子に、柚木草平を知っているかと聞き、「あの男には気を付けろ」と話す場面があるが、こんなところに草平ちゃんの名前が唐突に出て来るのが、また一興というところか。
今回はその草平ちゃんの登場はないが、水沢椋という一風変わった男が、ひょんなことから枝衣子の恋人役となってしまう。
水沢は元々「伝報堂」という一流企業に勤めていたエリートだったが、本人にも分からない理由で退職し、都議会議員をやっている父親に小説家になるといって勘当され、市議が死んだ家の真向かいにある今のコジンマリした古アパートに住み、東京芸術学院という怪しげな学校で講師をしている、年齢は三十路過ぎか。
だから元々は良家の息子で、インテリで、落ちた自分を卑下するでもなく野望もない、話せば洒落た返答もし理知的でもある。
枝衣子はそんな所に惚れたのかも知れない…。
他に水沢の隣室に住む小清水柚香という自称フリーのルポライターの女の子が出てくる、フリーライターといっても使いっ走りみたいな仕事しかできていないので、いつかは大きなスクープを物にしたいと願っている。
いつもジャージ姿でいつも黒ぶち眼鏡をかけていて、色気もなにもないが、実際はちゃんとすれば結構可愛いことを、枝衣子は見抜いている。その柚香まで事件に巻き込む。
この枝衣子の美女を見抜く力が、意外にも今回の鍵になる。
さて一方事件のほうは二転三転、結構複雑な様相を呈していくのだった…。
やがて事件が収拾したが、水沢は真相に気付いてしまう…。

山本一力著【晩秋の陰画(ネガフィルム)】

2018-09-15 15:29:38 | 本と雑誌

著者初の現代ミステリー。
予期せぬ事態が心の奥底に潜んでいた思いを炙り出す。
時代小説の名手が、不可思議な心のさまを描き切った。
表題含め四篇の短編集。
『晩秋の陰画(ネガフィルム)』
ひと仕事終えたある日の午後、装丁家の高倉俊介の元に、使用した形跡のある黒革張りの日記帳が届いた。
それはバイク事故で他界した、叔父であり仕事の師でもある尚平のものだった。
しかも日記は事故死した当日で終わっていた…。
『秒読み』
飛行機恐怖症の男が、ある日、香港旅行で同宿となった老人に、そのことを指摘され、怪しげな針治療に連れていかれたのだが…。
『冒険者たち』
利野伴忠(としのばんちゅう)は実は、フランスの俳優リノ・バンチュラからつけられた名前である。
子供の頃、父と見た「冒険者たち」という映画に魅了されていた…。
『内なる響き』
前田賢治は音楽評論社のオーナーである。
米田玄賽は「月刊オーディオ」特別編集顧問であり、賢治の片腕とも評してよい男である。
その玄賽が突然行方をくらました…。
著者と現代ミステリーはミスマッチだと思うが、なかなかやるなぁと感心させられた。
『冒険者たち』と『内なる響き』は、取りようによってはミステリーというより、人情話とも受け取れるのだが…。
それに、「それゆえ」とか時折、時代劇口調にもなったりして、一力節は不変ってとこですかね?

近藤史恵著【ときどき旅に出るカフェ】

2018-09-07 19:17:17 | 本と雑誌

「苺のスープ」など世界のスイーツを出すカフェ・ルーズ。
日常のちょっと苦い事件を甘く、優しく解決していく…。
張り詰めているときに優しくされると、人は糸が切れたような気分になってしまうのだ。
平凡で、この先ドラマティックなことも起こりそうにない日常。
自分で購入した1LDKのリビングとソファで得られる幸福感だって憂鬱のベールがかかっている。
そんな瑛子が近所で見つけたのは日当たりが良い一軒家のカフェ。
店主はかつての同僚・円(まどか)だった。
旅先で出会ったおいしいものを店でだしているという。
苺のスープ、ロシア風チーズケーキ、アルムドゥドラー。
メニューにあるのは、どれも初めて見るものばかり。
瑛子に降りかかる日常の小さな事件、そして円の秘密も世界のスイーツがきっかけに少しずつほぐれていく…。
読めば心満たされる”おいしい”10作の連作短編集。
第一話 苺のスープ(北欧でよく食べられるスープにまつわる話) 第二話 ロシア風チーズケーキ(ロシア風といいながら、本当はドイツのベルリンでよく食べられるケーキで、アルムドゥドラーという名は実はドイツ語、そのケーキにまつわる話) 第三話 月はどこに消えた?(中国のお菓子・月餅にまつわる話)
第四話 幾層にもなった心(オーストリア菓子のドボルシュトルタにまつわる話) 第五話 おがくずのスイーツ(セラドゥーラ・おがくずというお菓子にまつわる話) 第六話 鴛鴦茶(ユンヨンチャー・香港でよく飲まれるお茶にまつわる話)
第七話 ホイップクリームの決意(ザッハルテというウイーンのお菓子にまつわる話)
第八話 食いしん坊のコーヒー(カフェ・グルマンというフランスのデザートプレートにまつわる話)
第九話 思い出のバクラヴァ(バクラヴァはトルコのお菓子で、とても甘い。そのバクラヴァにまつわるお話)
そして最終話…。