気づいたら病院のベッドに横たわっていたわたし・三笠南(みかさみなみ)。
目が覚めたけれど、自分の名前も年齢も、家族のこともわからない。
現実の生活環境にも、「シンヤ」と名乗る、夫だという人にも違和感が拭えないまま、毎日が過ぎていく。
「シンヤ」も義姉の「ユミ」も、自分を騙しているような気がしてならないのだ…。
何のために嘘をつかれているの?
過去に絶望がないことだけ祈るなか、胸が痛くなるほどに好きだと思える人と出会う…。
何も思い出せないのに、自分の心だけは真実(ホンモノ)だった!
夫の名は三笠慎也でその姉が祐未(ゆみ)、そして軽い認知症である義母は、はるであった。
大阪の閑静な高級住宅街の中の立派な一軒家に、南を入れて四人暮らしをしていたことになるが…。
自分の実の妹は、小雪という名前で、その名にはまったく違和感はなかった。
今は東京に職を見つけ、東京暮らしをしている。
実は夢で幼い小雪と自分が出てきて、その傍に古い家があった、ここが実家だろう。
祐未と病院で最初に出会ったとき、彼女は実家に帰れと言った。
そのままにしてあるらしい…。
自分の旧姓は韮沢(にらさわ)南だったようだ。
今年の四月に慎也と結婚し、実家を出たのだった。
幼い頃に父親は出ていき、母は女手一つで姉妹を育てた、そのせいで早くに逝ってしまっていた。
ある日、夢の中で出てきた男性にも違和感がなく、自分の胸が締めつけられる思いがした。
その後も彼の夢を何度も見ることになる。
彼の夢を見るたびに思いが募るのだった…。
自分の部屋としていた部屋には落ち着きを感じたが、冠を被ったカエルの王子様の陶器でできた人形が置いてあったような気がするがなくなっていた。
本棚の本を見ているうちに、無意識に英和辞典に手を伸ばしていた。
箱から辞書を出すと、一枚の写真が落ちた。
拾い上げてその写真を見て驚く、なんと夢の彼と自分が写っていたのだ。
恋する前髪の長い美しい彼は実在していた…。
実は最初この本を手に取ったときは、小首を傾げる状態だったのだが、この著者の作品は結構読んでいて馴染んでいるので読むことにした。
しかしながら、読んでるうちに引き込まれ、どんどん読み進み短時間で読破してしまった。
記憶を失うってどれだけ恐怖であるかが如実に伝わるのと、見る世界ってのをリアルに描いている。
普通姑と嫁の関係は確執があるものだが、はると南は境遇として似ている、はるは軽度とはいえ認知症で記憶障害があり、南も記憶喪失であるので、結局仲がよい状態である。
義姉の祐未も、ズバズバと物を言うが、悪意は感じられない。
むしろ夫の慎也には、最初は南も頼りにしていたのだが、段々不信感が募るようになる。
サスペンスとして十分過ぎるほどの小説だと感じている。
普段はくどくどと感想は書かない主義なのだが、いつも粗筋に感想の気持ちを込めて書いているつもりである。
しかし、この作品についてはちょっと書き入れたくなった、ご了承願う(陳謝)。