街のいたるところに突如現れ、市民の悩みを解きほぐす「櫃洗(ひつあらい)市一般苦情係」の職員、通称・腕貫探偵。
このシリーズとしては第六作目か?
一部のマニアには、根強い人気を得ているシリーズである。(かくいう私もそのひとり♪)
丸いフレームの銀縁メガネの顔はまったくの無表情、ワイシャツに黒いネクタイ、そして黒い腕貫(腕カヴァー)を嵌めたその年齢不詳の男は、およそ人間らしい感情が、なにひとつ籠らない声で喋る。
その姿は骸骨さながらに細く、生身の人間とは思えない、まるで幽霊のようだ。
市民サーヴィス課臨時出張所
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櫃洗市一般苦情係
この腕貫探偵が、観掛けとは違い思いもよらぬほどに、論理的にあるゆる巷の謎を解明していくのである…。
『氷結のメロディ』
櫃洗大学の軽音楽同好会〈ヒッツ・セインツ〉のメンバー、田峯(たみね)リカが、加木屋艘助(かきや・そうすけ)が、歌城恭一(うたしろ・きょういち)が、そして湖出杏里(こいで・あんり)の計四名が、まるで申し合わせでもしたかのように。時と場所はちがえども、全員が墜死した。
ひとり残されたのは鳥遊葵(とかなし・あおい)だった。
葵は声を出さなければ、完全に女性に見紛うほどの見事な女装マニアでもあった。
葵は今度死ぬのは自分の番だという暗示に対峙し、強迫観念に苛まれる。
〈ヒッツ・セインツ〉は呪われている!
ある日、そんな葵は同じ櫃洗大学の学生である、住吉ユリエ(かの〈スミヨシ〉グループの孫娘)に声を掛けられ食事に誘われ、店で従姉の阿藤江梨子(あとう・えりこ)とも久々に会うことにもなる…。
そして、ユリエがダーリン💛と呼ぶ「腕貫さんこと腕貫探偵」の存在も知ることに…。
『毒薬の輪廻』
粥川育子(かゆかわ・いくこ)が突然果物ナイフで、新田目美絵(あらため・みえ)に襲い掛かった…。辛うじてナイフをかわして美絵は無事だったが、育子は倒れたはずみにナイフで自分を刺してしまって死亡した。
担当の刑事・氷見(ひみ)と水谷川(みやかわ)は、美絵に対して育子は強い殺意をもって犯行に及んだ、その理由は二十年前に遡り、育子の息子の孝紀(たかのり)を毒殺したのは、美絵だと思い込んでいたからではないか?というのだが…。
そもそもが、二十八年前に私立囲櫃(いひつ)学園中等部に新田目美絵が入学したのが発端で、その担任教諭が他ならぬ粥川育子であったのが運命の悪戯かもしれない…。
『指輪もの騙(かた)り』
氷見と水谷川の刑事ふたりは、先日逮捕した事件に関する調書を作成していた。
その時ふと氷見が、三十年前のお宮入り事件を思い出す。
今更どうしようもない事件なので、そのうち「腕貫さん」にでも昔話として話してみるか?くらいに思い、作業が一段落がついたので、ふたりして休憩に出ることにした。
そしたら、住吉ユリエを真ん中にして、阿藤江梨子と鳥遊葵の三人連れと遭遇し、なんとなく一緒にランチにすることになった。
ユリエの話によると「ダーリンこと腕貫探偵」は出張中だそうだ。
食事中に氷見が思い出した三十年前の事件の話になったが、「腕貫さん」にでも訊いてみてくれっていう軽いノリだったのだが、期せずして徐々に皆で謎解きが始まってしまう。
かの灰色の脳細胞をもつ腕貫探偵が不在の中、果たしてこの五名によって謎は解き明かされてしまうのか…?。
『追憶』
その日、腕貫探偵のもとにやって来たのは、一週間ほど前に亡くなったという女性の霊だった。
彼女はベストセラー作家・越沼霞巳(こしぬま・かすみ)と名乗るが、その作家は五十年前に亡くなっているはずだ。
五十年前に死んだのは誰だったのか?
なぜ女性の魂は今なお、現生を漂っているのか…。
そのとき死んだのは、“わたし”?それとも…。
シリーズ史上、最も不可思議な謎を腕貫探偵が鮮やかに解く!!