下町の小さなフレンチ・レストラン、ビストロ・パ・マルは、スタッフ四人、カウンター七席、テーブル五つ。
フランスの田舎を転々として、料理修行をしてきた変人シェフ三舟さんの気取らない料理と、身も心も温めてくれるヴァン・ショーは大人気。
そして、実はこのシェフ、客たちの持ち込む不可解な謎を鮮やかに解く名探偵でもあるのです。
シリーズ第三作目。
『コウノトリが運ぶもの』
<パ・マル>のギャルソン高築君が、近くにあるパン屋<ア・ポア・ルージュ>にオリーブオイルをもらいに行った時、最近同じ通りにできた自然食品店の安倍さんを紹介される。
ビストロと聞いて、安倍さんの目が揺らいだ。
「あの…わたし、乳製品アレルギーで…」という。
高築君は「あらかじめそういって予約していただけば、乳製品をまったく使わない料理もお出しできますよ」といったが、安倍さんはそそくさと帰ってしまった。
その安倍さんから<パ・マル>へ予約が入った…。
『青い果実のタルト』
何故かその日<パ・マル>では出したことのない、ブルーベリーのタルトはないのかと二人の客に聞かれる。
スーシェフの志村さんが、ノートパソコンを持ってきて「これのせいみたいですね」
パソコンを開いてインターネットにつなぐと、あるブログを画面に立ち上げた。
そこには間違いなく<パ・マル>の料理の写真が載っていたが、「デザートはブルーベリーのタルトでした!」と書いてあった。
ないはずのブルーベリーのタルトの写真も掲載されていた…。
『共犯のピエ・ド・コション』
<パ・マル>に久しぶりのお客、村上さんがやってきた。
今は館野という姓になっていた。
離婚して、一人息子の冬樹君と暮らしているらしい。
「実は来月その冬樹が誕生日である」というので、<パ・マル>で、誕生祝いをやってもらうことになった。
館野さんは再婚するそうだ、一番の理由は人見知りの冬樹君が何故か、その相手男性になついていることだそうだ…。
『追憶のブータン・ノワール』
犬飼さんは<パ・マル>の常連客である。
とにかく肉食である。
7年間の遠距離恋愛の末、中国の女性と結婚することになったそうだ。
だがその彼女に豚の血を使うブータン・ノワールの話をしたら、拒絶反応されたそうだ。
その彼女になんとか、一口でもいいから、ブータン・ノワールを食べてもらいたいと彼はいう…。
『ムッシュ・パピオンに伝言を』
ランチのラストオーダ寸前、お洒落な粋に蝶ネクタイをした紳士が飛び込んできた。
鴨のローストに、ソテーした無花果や桃のなどのフルーツを添えた一皿が、紳士の前に置かれたとき、勝手口のほうから声がした。
近所のブランジュリーのパン職人である中江さんだった。
バケットを届けにきてくれたのだ。
試作品を作ったので食べて欲しいとのこと…。
珍しいブリオッシュ・サン・ジュニだった。
ふと気づけば、例のカウンターの紳士が、ずっとこちらを見ていた…。
『マカロンはマカロン』
「予約していた羽田野ですが」四十代の女性がそう名乗った。その女性がふっくらしているのと対照的な、棒のように痩せて長身な若い女性がその後ろにいた。
「好きなものを頼んでいいわよ。これも勉強だから」年かさの女性はいっている。
なんと、その羽田野さんが、実は三舟シェフの修行中の知り合いだった…。
『タルタルステーキの罠』
ある日、高築君が妙な電話を受けた。
タルタルステーキは出せるか?それをその日のメニューに載せれるか?といった不可思議な質問だった。
良の返事をすると、また改めて電話するとのこと…。
後日その予約が入ったが…。
『ヴィンテージワインと友情』
男女四人の若い客が、「ワインの持ち込みはできるか?抜栓料はいくらか」を聞き、三週間目の土曜日六人の予約を入れた。
三週間目のその日のランチタイム終了の頃、若い華奢な女性が六本入りのワインバックを持ってきた。
どれもソムリエの金子さんが、目をむくほどの高級ワインだった。
七時過ぎにそのグループはワインを持ってきた女性を除いて、<パ・マル>に集合していたが、なにやら不穏な空気である…。