12月10日(4名)
廣田洋一
積上げし本見直して年の暮★★★
遂に来たきっぱりと来た冬の朝★★★★
鰤照焼き油控えて焼きにけり★★★
小口泰與
我と犬赤シャツ着たり漱石忌★★★
産土は今宵も風や燗熱く★★★★
木守や榛名十峰朝日差す★★★
多田有花
<生駒山系権現川ハイキングコース三句>
冬晴にあべのハルカスを望む★★★
丁寧に掃き清められ冬の滝★★★★
大坂の四条畷の奥の権現滝は、月に一度護摩が焚かれ、信仰の滝となっているようだ。丁寧に掃き清められて、寒さのなかに、すがすがしい緊張感を感じる。(高橋正子)
仲冬や嵐の名残そこここに★★★
桑本栄太郎
菜園の二列ばかりや葱畑★★★★
菜園に二列の葱が作る青々とした景色が生き生きとしている。九条葱の庭菜園なのであろう都思うが、ひと冬に家庭が食すには十分な葱。楽しみである。(高橋正子)
中州なる石のさざれや水涸るる★★★
寄鍋の酔えばいつしか闇汁に★★★
12月9日(4名)
廣田洋一
茜雲細まり行けり冬の暮★★★
くつきりと稜線伸びる冬の暮★★★★
落葉までころがり走る冬の暮★★★
小口泰與
熱燗や今宵の風の一段と★★★★
コンビニを出づや焼芋ぱっくりと★★★
潮騒の聞こゆ如きや鮟鱇鍋★★★
多田有花
<四条畷神社三句>
冬紅葉小楠公の石段に★★★
桜井の別れの像に散紅葉★★★
楠巨木冬青空へ凛と立つ★★★★
桑本栄太郎
黒猫の眼木蔭や漱石忌★★★
水仙のつぼみほのかに花壇かな★★★★
様々な花に混じって花壇に水仙のつぼみが見える。寒さが強くなるにしたがって、水仙は花を開く準備を進めるが、この時期の水仙はまだ「つぼみほのか」なのだ。(高橋正子)
新駅の高架通過や冬田晴れ★★★
12月8日(3名)
小口泰與
裸木の枝さしかわす空っ風★★★
曙に置鉤あぐるちゃんちゃんこ★★★
サイドカー下り来る毛皮婦人かな★★★★
六十代の夫婦の乗ったサイドカーか。毛皮を着た婦人が下りてきた。時代を映すような出達に懐かしさも湧く。(高橋正子)
廣田洋一
年締める一句を記し日記果つ★★★★
逝きし人出会ひたる人日記果つ★★★
時々の感情見せて日記果つ★★★
桑本栄太郎
太平洋の波浪高きや開戦日★★★
特攻の遺影若きや開戦日★★★
吟行の夢の中なり枯野行く★★★★
12月7日(5名)
廣田洋一
パソコンに数字打ち込む膝毛布★★★
太陽に電気毛布も干しにけり★★★★
山頂に銀色毛布星を撮る(原句)
山頂に銀色毛布着(き)星を撮る★★★★(正子添削)
質問です。「銀色毛布」は、NASAが開発したという災害時などにも活躍するアルミ毛布のことでしょうか。
山頂の寒さを毛布でしのぎながら、夜空の星を撮る。ロマンティックなことのように思える。(高橋正子)
小口泰與
赤城嶺の支えし空や空っ風★★★
夕暮の落葉ささめく峠かな★★★
今宵また盃差し交わす新走り★★★★
多田有花
散る紅葉空の青さを背景に★★★
心地よく初木枯の山をゆく★★★★
初めて吹いた木枯は、心地よい寒さだったのだろう。「心地よく」が有花さんらしさが出ていて、よい。(高橋正子)
木枯に前山装いを終える★★★
桑本栄太郎
嶺の端のほのと茜や冬落暉★★★
大雪の夜となり鉢植え取り込むる★★★★
鉢ものの部屋に同居や寒波来る★★★
川名ますみ
七七忌一周忌また冬日和★★★★
テーブルに紅茶と蕾のヒヤシンス★★★
ヒヤシンス薫り始めて喪の明くる★★★★
一年の喪が明け、ヒヤシンスの花の香りとともに、新しく前へと過ごせることは、人生を美しく生きている証拠ではないだろう。(高橋正子)
12月6日(5名)
小口泰與
枯蘆や赤城の空のささ濁り★★★
冬山の常に浅間山(あさま)を仰ぎけり★★★★
冬山のとなった浅間山を常に仰ぐ。泰與さんはそういう風に暮らしている。冬が来れば、冬の浅間山に眼や心が行くのである。(高橋正子)
何かにつけ浅間山と共にある。
先駆けて天地揺るがす虎落笛★★★
多田有花
日ごと空透けてゆくかな散紅葉★★★
枯葉踏み山に入るこそ楽しけれ★★★★
山歩きのベテランの有花さんではあるが、枯葉を踏み、枯葉の音を立てて冬の山に入って行く楽しみは、低山の冬山の楽しみなのだろう。私には、山の木々のなかにいると、ほっこりとするような記憶がある。(高橋正子)
木枯のなきまま続くぬくき日々★★★
古田敬二
冬の雨きそうで来ぬまま日暮れけり★★★
重力のなきようふわふわ雪蛍★★★
逞しき前歯で林檎美味そうに★★★★
廣田洋一
扉明け気が付きたるや冬の雨★★★
また一つ喪中挨拶冬の雨★★★
街灯を包むが如き冬の雨★★★★
冬の雨が静かに静かに降る。街灯を包むように。映画のような光景が思い浮かんだ。(高橋正子)
桑本栄太郎
日を透きて緋色疎らや冬紅葉★★★
ことはりも無く冬木なり庭の木々★★★
生駒嶺の遠嶺となりぬ冬の靄★★★★
冬の靄が立ちこめて、いつも見えている生駒嶺が遠い嶺となって望める。柔らかな冬の遠望。(高橋正子)
12月5日(5名)
古田敬二
一軒に一本土産大根抜く★★★★
菜園の大根が見事に育った。一軒あたり、一本土産とする。一本の大根はもらった小家族には、うれしい量だろう。「一軒に一本」に温かさと面白さがある。(高橋正子)
山眠る歳時記の文字見にくくて★★★
暖冬や野菜大きくなりすぎて★★★
廣田洋一
古本をまとめて処分年の暮★★★
いつまでも暖かき街年の暮★★★★
赤き帯細まり行けり冬夕焼★★★
小口泰與
さもなくば赤城颪を浴びに来よ★★★
さういえば岸辺に雑魚や冬の鷺★★★★
さきがけて赤城颪の来たりけり★★★
桑本栄太郎
綿虫の虚空無尽や青空に★★★★
「青空に」が効いている。最近と綿虫をぜんぜん見ていないが、子供の頃は、よく見た。井上靖の「しろばんば」の小説が思い浮かんだが、綿虫には、なにかしら、日本的なものがあるような気がする。(高橋正子)
風を生み音の厳しく冬の雷★★★
吹き溜る綾の錦や散る紅葉★★★
多田有花
冬の夜に塩バター入りどら焼を★★★
冬紅葉ドローンを飛ばす男あり★★★
はつ冬や黄葉多き増位山★★★★
12月4日(5名)
小口泰與
煌煌と白き衣や冬浅間★★★
寒林へ夕日差しけり鳥の声★★★★
寒林へ差す懐かしいような夕日。そこに鳥の声が聞こえる。鵯など鋭い鳴き声もあるのだろうが、それが却って寒林を奥行あるものにしている。(高橋正子)
木守や浅間の雲の金色(こんじき)に★★★
廣田洋一
朝刊や霜踏む音の澄み渡る★★★★
霜の朝。冷たく寒い朝ながら、霜を踏んで庭先の新聞受けまで歩く時の「音の澄み渡る」清々しさ。新聞のインクの匂いまでしてきそうなリアル感のあるいい生活句だ。(高橋正子)
落葉松の葉に金色の霜柱★★★
金星や休める畑に霜の花★★★★
多田有花
<赤星山登山三句>
短日の陽を惜しみつつ稜線を★★★★
稜線を歩く楽しみは、季節それぞれにあるのだろうが、短日の山の陽も惜しまれるもののひとつ。(高橋正子)
赤テープを呼称確認日短か★★★
ようように着く暮早き下山口★★★
桑本栄太郎
笹鳴といえど小枝の重く揺れ★★★★
チャッチャッという鶯の笹鳴き。もう聞かれるようになった。さぞや小さい鳥で、小枝の揺れも軽いだろうと思いいきや、「重く揺れ」なのだ。鶯の重さが感じ取れるような句だ。(高橋正子)
踏みしだく落葉の跡や坂道に★★★
夫婦とも古希となる日や冬の雷★★★
古田敬二
石蕗の花海から遠くに咲きにけり★★★★
石蕗の花と海の取り合わせに明るいイメージが湧く。石蕗の花に海があれば、どれほどか印象的で明るい花になることだろうか、との思い。(高橋正子)
冬くれば目高の餌の食い悪し★★★
神無月鈴鹿山脈黒々と★★★★
12月3日(5名)
多田有花
<赤星山登山三句>
登りゆく背中へ冬の光さす★★★★
冬山の登山。背中に冬の光を浴びながら、明るい登山が伺える。赤星山は1400メートルを越える石鎚山脈につならなる四国の山。(高橋正子)
冬うらら空広々と頂に★★★
一望す燧灘には冬霞★★★
小口泰與
街灯の光りふるわす冬の雨★★★
山風に呑まれし沼や浮寝鳥★★★★
冬の日の湖の岸辺へ暮れんとす★★★
廣田洋一
天井をはたくは長身煤払い★★★★
煤払いに長身の人はもってこい。その背丈を使って天井をはたくにも余裕がある。なんでもないようだが、ユーモアがある。(高橋正子)
網戸には水を放てり煤払い★★★
煤払い気の病も払ひたし★★★
桑本栄太郎
つぴつぴと山茶花揺るる小枝かな★★★
ほつほつと頬に時折時雨降る★★★
笹鳴と云えど小枝の揺れにけり★★★★
古田敬二
雪虫のふわり出てゆく久女の門★★★
雪蛍何かし終えて一つ飛ぶ★★★★
初冬のどんより曇った日、いろいろ仕事をしてふっと見ると雪蛍がふわっと一つ飛んでいる。アブラムシ科の綿アブラムシとうものだが、初冬らしさを思わせる虫だ。(高橋正子)
浜木綿を一抱えして霜除ける★★★★
12月2日(4名)
多田有花
<赤星山登山三句>
滝音を間近に登る冬の山★★★★
苔青き山路をゆくも初冬かな★★★★
最奥の滝も明るし冬の晴★★★★
明るい瀬戸内の最奥の滝は、冬でも明るい。赤星山は四国の山。話は別だが、愛媛大学の同学年に赤星君と言う人が居ましたが、ここの出身だったと思う。そのころは、なんで赤星なの?と思ってました。(高橋正子)
小口泰與
空風や蒟蒻芋のからっから★★★
日と風を廻る郷や掛大根★★★★
今朝もまた見えぬ浅間や竜の玉★★★
廣田洋一
能登産の鰤せり落とす鮨屋かな★★★
脂身に大葉を添へて鰤照焼き★★★
週末やことこと煮たる鰤大根★★★★
桑本栄太郎
土盛りのブルーシートや草紅葉★★★
冬耕の稲株白く晒しけり★★★★
冬田を打ち返す。稲株を掘り起こすと、風に日にさらされて、稲株は白くなって転がる。あんなにしっかり稲を育てた株が枯れて、白くなる。淋しさも。(高橋正子)
主の天降(あもる)その日祈るや待降節★★★
12月1日(5名)
小口泰與
靄流る黙の浅間や枇杷の花★★★★
枇杷の花が香り高く匂う。浅間山は、靄に包まれ沈黙を守っている。枇杷の花と沈黙の浅間山の遠近の風景がしずかで柔らかい。(高橋あmさ子)
急に増ゆ十二月の車両かな★★★★
犬鷲や匠の里の藁人形★★★
古田敬二
吟行の土産はズボンの草虱★★★★
吟行に出掛けて家に帰り着けば、知らぬ間にズボンのすそには草虱がたくさんついている。野に出て吟行したよい時間が証明される。(高橋正子)
姉の骨ことりとツボへ行く晩秋★★★
引き寄せて香りかぎたや枇杷の花★★★
廣田洋一
湧き上がる歓喜の歌や十二月★★★★
十二月は街のあちこちでべードーベンの第九交響曲の歓喜の歌が歌われ、また流れ、一年が締めくくられる。日本にもすっかり定着した歓喜の歌である。(高橋正子)
中天の光澄みたる冬三日月(原句)
中天の光澄みたり冬三日月★★★★(正子添削)
送別会終わりて仰ぐ冬の月★★★
桑本栄太郎
階段の眼下に緋色や冬紅葉★★★
落葉松の散りし舗道の目地赤く★★★★
両側に踏みしだかるる朽葉道★★★
多田有花
<赤星山登山三句>
登山口に一番乗りの冬はじめ★★★
橋いくつも渡り近づく冬の滝★★★★
冬滝は水量が少なくなったり、凍ることもある。奥へ奥へと橋を渡ってたどり着いた滝はどうどうと水を落としている感じだ。滝に出会うということは、いい個性に出会うようでもある。(高橋正子)
登り来て初冬の滝を見上げおり★★★