「倉庫に猫が住んでますね」。
11月が終わろうという時
商品を配送してくれているドライバーさんがおっしゃいました。
「え!猫ですか?」
「はい。商品を搬入してたら、倉庫の2階からこっちを見てましたよ」
倉庫の2階の一角には
昔、物置として使っていた屋根裏があるのですが
あまりに古くなりすぎて危険なので
人が入れないように封鎖してあります。
どうもそこに野良猫がはいって子供を産んだようです。
そういえばその直前、倉庫に猫が入っていくのを見たことがありました。
あわてて追いかけたのですが見あたらず
2階にも探しに行ったのですが
例の屋根裏は人が近づけないようになっているので探せませんでした。
「どこに行ったんだろう?商品にイタズラされると困るなあ」。
その夜
子猫をくわえた親猫が
倉庫の2階から走って降りてきて
外へ去ったのを見たと夫がいいました。
ああ、出て行ってくれたんだ。
ほっとしつつ、猫好きの私としては、ちょっとひっかかるものがありました。
閉店時間になり
倉庫のシャッターを下ろしに行った夫が
「ちょっと、手伝ってくれ。倉庫に子猫が隠れてる」と
慌てて私を呼びに来ました。
ビールびんが20本入ったプラスチックケースのことを
業界用語(笑)で「P箱」といいます。
P箱を逆さにして並べると、しっかりとした台になるので
重い商品を積んでおくのに利用しています。
P箱を並べてベッドに活用される方もよくいらっしゃいますね。
その並べたP箱の下に
子猫が隠れていました。
夫が手を入れて捕まえようとしますが
おびえた子猫は
P箱の下を走って逃げまどいます。
私も舌をチッチッチッと鳴らして近づこうとしましたが
子猫は倉庫の中を縦横無尽に走り回って、捕まえられません。
やっとのことで夫がP箱の下の子猫をつかみました。
ミャーーーーッ!!
それまで声を出さなかった子猫が、悲鳴のような声をあげました。
夫に首すじをつかまれた子猫は
ほんとに小さくて
でも目が大きくてまん丸、ちょっとタレ気味の
とてもかわいい三毛猫です。
「外に放してやれば親が連れに来るだろう」
夫は子猫を倉庫の横に放してやり
「ほれ、もうすぐ母ちゃんが迎えにくるぞ!長生きするんやぞ!」
そう声をかけ、子猫も鳴きながら歩いていったのですが…。
次の朝
またもや倉庫の横にきのうの子猫が佇んでいました。
ミャア~、ミャア~と鳴き続けています。
「親、来ないやん。どうしよう」
「おなかすいてるんだろうな。でもエサをやるわけにはいかないし」
うちは店舗兼住宅なので
動物を飼うのは自粛してきました。
店に毛が舞ったり、動物のニオイがつくのを避けていたのです。
息子たちが幼い頃、犬や猫を飼いたいと言いましたが
店をやっているからダメだと諭してきました。
だから、飼えもしないのに
無責任にエサをやったりしたら
自分でエサを探して生きていくことはできなくなるし
周辺にフンをしたり、うるさく鳴いたり、子供を産んだりと
近所迷惑になってしまいます。
ここは心を鬼にして放っておこう、と
猫好きの私にはかなり苦行だったのですが
無視を決め込みました。
そのうち姿が見えなくなり
ほっとしたのも束の間
倉庫内の車庫に入ったら
「ミャアー」。
え!車庫に入っちゃったか!
探してみると、何十年も置きっぱなしの機械類や工具類の合間に
ちょこんと座っています。
でも、生まれてから一度も人間と接したことのなかった子猫。
こちらが手を伸ばすと、ささっと逃げます。
そしてまた「ミャアーミャアー」と鳴き続け。
「ごめんね、うちでは飼えないから、ごはんあげられないの」
そう言って、倉庫の向かい側にある店舗に戻りましたが
道路を挟んでいても「ミャーッ、ミャーッ」の声が絶え間なく聞こえます。
「猫がいる!」
近所の小学生が寄ってくる。
「あら、にゃんこがいるよ。かわいいねえ」
孫を連れたおばあさんが見に来る。
「奥さん、猫飼ってるんですか?」
仕入れ先の担当さんが聞いてくる。
「猫ですか!うちも3匹飼ってますよ!」
集金して帰ったメーカーさんが、戻ってきて話しかける。
ちょっとした招き猫?
にしても、猫好きさん意外に多いんだなあ。
丸2日何も食べてない。
親もこない。
この子、死んじゃうよ。
でもエサやれないし。
みゃあーっ、みゃあーっ、みゃあーっ。
ううむ、芥川龍之介の「杜子春」の気分だわ。
家で飼えないけど…倉庫なら…まっいっかー…いいよな。うんうん。
花かつおを小皿に入れて子猫の前に置いたのですが
おなかすいてるはずなのに、ニオイをくんくんと嗅いだだけで食べない。
「ひょっとしてこの子、母乳以外のもの食べたことないんじゃ…!」
ドラッグストアへ走り
子猫用の離乳食を買ってきて与えました。
やはりこれも最初は食べてくれなかったのですが
少し口にして、やっと食べ物だと認識した様子。
あっという間に完食しました。
ただ、倉庫で飼うといっても
倉庫は寒い!
床も壁もコンクリートで、通気する構造なので冷気が入り
冬は冷蔵庫より気温が下がります。
段ボールにバスタオルを敷いて置いてやったら
中に入ってちょこんと座りました。
でもこれじゃ夜は寒かろう。
いくら寒いとはいえ
夜中は万が一のことがあるので、電気製品を使ってやることができません。
使い捨てカイロも、もし濡らして発火したりすると危険です。
ホームセンターへ行って
保温材と断熱材を使った猫の布団を買いました。
ヒーターでぬくぬく、としてやることはできませんが
これでも少しは冷えから守ってやれるでしょう。
そしてトイレ。
猫のトイレはプラスチックのトレー型、とばかり思っていましたが
今はドーム型で、砂が飛び散らない構造の物があるんですね。
倉庫は寒いから、これはいいやと購入。
砂もニオイを吸収するつくりになっていて
浦島太郎のように驚いてばかりの私。
布団もトイレも
おっかなびっくりしながら使ってくれた子猫ですが
警戒心の強さは半端ない。
なんせ親兄弟としか接したことがなかったんですから
人間=恐怖
なんでしょうね。
毎日エサをやるので、近づいてはくれるものの
こちらが手を出すと、さっと後ずさり。
かわいい鳴き声もまったく出さなくなりました。
そして約3週間。
たまたま私の誕生日の朝
いつものように
「Pちゃん、おはよう」と声をかけてエサをやりました。
そうそう、名前はPちゃんです。
P箱の下に隠れていたのでPちゃん。
すると突然
「みゃあ~」と鳴きながら
Pちゃんが頭をすり寄せてきて
私の膝に、ちょこんと乗りました。
「ええええ?なになにPちゃん!」
突然のことにびっくり。
Pちゃんは膝の上でくつろいで
のどをゴロゴロゴロ。
やっと心開いてくれた~!
しかも私の誕生日に!
これはサプライズプレゼント。
でもPちゃんは
兄弟とじゃれあった経験が少ないのか
噛みつき加減やひっかき加減がうまく調節できません。
遊んでいるつもりでも
手におもいっきり噛みついたりひっかいたり。
あっという間に私の手は傷だらけ。痛い痛い。
こりゃたまらん、と
100円ショップで指先をカットした手袋を購入。
これで噛みつかれても平気。
手袋を着けてPちゃんの相手。
Pちゃんが膝に乗ってきて
手袋に気づきました。
するとPちゃん
手袋についているボアを噛みだしました。
よく見ると、噛んでるんじゃなくて
ちゅーちゅー吸ってるんです。
吸いながら、前足で交互に
手袋をギュッギュッと押してる。
母猫のおっぱいを思い出したんだ…。
子猫はおっぱいを吸う時
前足で母猫の乳房を押しながら吸うんです。
押して母乳を出させるんですね。
手袋のボアが
母猫のお腹の毛並みに似てたんでしょうか。
Pちゃんはいつまでもボアを吸いながら
前足で押しています。
「Pちゃん、それおっぱいじゃないよ。吸っても何も出ないよ」
声をかけましたが、もちろん通じるはずもなく
目を閉じて、いつまでも吸いながら押しています。
手袋はぐちゃぐちゃ。
Pちゃんだって、おっぱいが出ないとはわかってるんですね。
それでもお母さんを思い出して、いつまでも吸ってる。
「Pちゃんのお母さん、どこ行っちゃったんだろうね」
ある日突然、お母さんがいなくなったPちゃん。
私と一緒。
どれぐらいの時間、吸ってたでしょうか。
ようやくボアから口を離したPちゃん
私の顔を見て
「にゃあ~」。
猫の言葉はわからないので
Pちゃんの鳴いた意味もわかりませんが
怒っていないことは確かでした。
大きくなあれ。
Pちゃん。
11月が終わろうという時
商品を配送してくれているドライバーさんがおっしゃいました。
「え!猫ですか?」
「はい。商品を搬入してたら、倉庫の2階からこっちを見てましたよ」
倉庫の2階の一角には
昔、物置として使っていた屋根裏があるのですが
あまりに古くなりすぎて危険なので
人が入れないように封鎖してあります。
どうもそこに野良猫がはいって子供を産んだようです。
そういえばその直前、倉庫に猫が入っていくのを見たことがありました。
あわてて追いかけたのですが見あたらず
2階にも探しに行ったのですが
例の屋根裏は人が近づけないようになっているので探せませんでした。
「どこに行ったんだろう?商品にイタズラされると困るなあ」。
その夜
子猫をくわえた親猫が
倉庫の2階から走って降りてきて
外へ去ったのを見たと夫がいいました。
ああ、出て行ってくれたんだ。
ほっとしつつ、猫好きの私としては、ちょっとひっかかるものがありました。
閉店時間になり
倉庫のシャッターを下ろしに行った夫が
「ちょっと、手伝ってくれ。倉庫に子猫が隠れてる」と
慌てて私を呼びに来ました。
ビールびんが20本入ったプラスチックケースのことを
業界用語(笑)で「P箱」といいます。
P箱を逆さにして並べると、しっかりとした台になるので
重い商品を積んでおくのに利用しています。
P箱を並べてベッドに活用される方もよくいらっしゃいますね。
その並べたP箱の下に
子猫が隠れていました。
夫が手を入れて捕まえようとしますが
おびえた子猫は
P箱の下を走って逃げまどいます。
私も舌をチッチッチッと鳴らして近づこうとしましたが
子猫は倉庫の中を縦横無尽に走り回って、捕まえられません。
やっとのことで夫がP箱の下の子猫をつかみました。
ミャーーーーッ!!
それまで声を出さなかった子猫が、悲鳴のような声をあげました。
夫に首すじをつかまれた子猫は
ほんとに小さくて
でも目が大きくてまん丸、ちょっとタレ気味の
とてもかわいい三毛猫です。
「外に放してやれば親が連れに来るだろう」
夫は子猫を倉庫の横に放してやり
「ほれ、もうすぐ母ちゃんが迎えにくるぞ!長生きするんやぞ!」
そう声をかけ、子猫も鳴きながら歩いていったのですが…。
次の朝
またもや倉庫の横にきのうの子猫が佇んでいました。
ミャア~、ミャア~と鳴き続けています。
「親、来ないやん。どうしよう」
「おなかすいてるんだろうな。でもエサをやるわけにはいかないし」
うちは店舗兼住宅なので
動物を飼うのは自粛してきました。
店に毛が舞ったり、動物のニオイがつくのを避けていたのです。
息子たちが幼い頃、犬や猫を飼いたいと言いましたが
店をやっているからダメだと諭してきました。
だから、飼えもしないのに
無責任にエサをやったりしたら
自分でエサを探して生きていくことはできなくなるし
周辺にフンをしたり、うるさく鳴いたり、子供を産んだりと
近所迷惑になってしまいます。
ここは心を鬼にして放っておこう、と
猫好きの私にはかなり苦行だったのですが
無視を決め込みました。
そのうち姿が見えなくなり
ほっとしたのも束の間
倉庫内の車庫に入ったら
「ミャアー」。
え!車庫に入っちゃったか!
探してみると、何十年も置きっぱなしの機械類や工具類の合間に
ちょこんと座っています。
でも、生まれてから一度も人間と接したことのなかった子猫。
こちらが手を伸ばすと、ささっと逃げます。
そしてまた「ミャアーミャアー」と鳴き続け。
「ごめんね、うちでは飼えないから、ごはんあげられないの」
そう言って、倉庫の向かい側にある店舗に戻りましたが
道路を挟んでいても「ミャーッ、ミャーッ」の声が絶え間なく聞こえます。
「猫がいる!」
近所の小学生が寄ってくる。
「あら、にゃんこがいるよ。かわいいねえ」
孫を連れたおばあさんが見に来る。
「奥さん、猫飼ってるんですか?」
仕入れ先の担当さんが聞いてくる。
「猫ですか!うちも3匹飼ってますよ!」
集金して帰ったメーカーさんが、戻ってきて話しかける。
ちょっとした招き猫?
にしても、猫好きさん意外に多いんだなあ。
丸2日何も食べてない。
親もこない。
この子、死んじゃうよ。
でもエサやれないし。
みゃあーっ、みゃあーっ、みゃあーっ。
ううむ、芥川龍之介の「杜子春」の気分だわ。
家で飼えないけど…倉庫なら…まっいっかー…いいよな。うんうん。
花かつおを小皿に入れて子猫の前に置いたのですが
おなかすいてるはずなのに、ニオイをくんくんと嗅いだだけで食べない。
「ひょっとしてこの子、母乳以外のもの食べたことないんじゃ…!」
ドラッグストアへ走り
子猫用の離乳食を買ってきて与えました。
やはりこれも最初は食べてくれなかったのですが
少し口にして、やっと食べ物だと認識した様子。
あっという間に完食しました。
ただ、倉庫で飼うといっても
倉庫は寒い!
床も壁もコンクリートで、通気する構造なので冷気が入り
冬は冷蔵庫より気温が下がります。
段ボールにバスタオルを敷いて置いてやったら
中に入ってちょこんと座りました。
でもこれじゃ夜は寒かろう。
いくら寒いとはいえ
夜中は万が一のことがあるので、電気製品を使ってやることができません。
使い捨てカイロも、もし濡らして発火したりすると危険です。
ホームセンターへ行って
保温材と断熱材を使った猫の布団を買いました。
ヒーターでぬくぬく、としてやることはできませんが
これでも少しは冷えから守ってやれるでしょう。
そしてトイレ。
猫のトイレはプラスチックのトレー型、とばかり思っていましたが
今はドーム型で、砂が飛び散らない構造の物があるんですね。
倉庫は寒いから、これはいいやと購入。
砂もニオイを吸収するつくりになっていて
浦島太郎のように驚いてばかりの私。
布団もトイレも
おっかなびっくりしながら使ってくれた子猫ですが
警戒心の強さは半端ない。
なんせ親兄弟としか接したことがなかったんですから
人間=恐怖
なんでしょうね。
毎日エサをやるので、近づいてはくれるものの
こちらが手を出すと、さっと後ずさり。
かわいい鳴き声もまったく出さなくなりました。
そして約3週間。
たまたま私の誕生日の朝
いつものように
「Pちゃん、おはよう」と声をかけてエサをやりました。
そうそう、名前はPちゃんです。
P箱の下に隠れていたのでPちゃん。
すると突然
「みゃあ~」と鳴きながら
Pちゃんが頭をすり寄せてきて
私の膝に、ちょこんと乗りました。
「ええええ?なになにPちゃん!」
突然のことにびっくり。
Pちゃんは膝の上でくつろいで
のどをゴロゴロゴロ。
やっと心開いてくれた~!
しかも私の誕生日に!
これはサプライズプレゼント。
でもPちゃんは
兄弟とじゃれあった経験が少ないのか
噛みつき加減やひっかき加減がうまく調節できません。
遊んでいるつもりでも
手におもいっきり噛みついたりひっかいたり。
あっという間に私の手は傷だらけ。痛い痛い。
こりゃたまらん、と
100円ショップで指先をカットした手袋を購入。
これで噛みつかれても平気。
手袋を着けてPちゃんの相手。
Pちゃんが膝に乗ってきて
手袋に気づきました。
するとPちゃん
手袋についているボアを噛みだしました。
よく見ると、噛んでるんじゃなくて
ちゅーちゅー吸ってるんです。
吸いながら、前足で交互に
手袋をギュッギュッと押してる。
母猫のおっぱいを思い出したんだ…。
子猫はおっぱいを吸う時
前足で母猫の乳房を押しながら吸うんです。
押して母乳を出させるんですね。
手袋のボアが
母猫のお腹の毛並みに似てたんでしょうか。
Pちゃんはいつまでもボアを吸いながら
前足で押しています。
「Pちゃん、それおっぱいじゃないよ。吸っても何も出ないよ」
声をかけましたが、もちろん通じるはずもなく
目を閉じて、いつまでも吸いながら押しています。
手袋はぐちゃぐちゃ。
Pちゃんだって、おっぱいが出ないとはわかってるんですね。
それでもお母さんを思い出して、いつまでも吸ってる。
「Pちゃんのお母さん、どこ行っちゃったんだろうね」
ある日突然、お母さんがいなくなったPちゃん。
私と一緒。
どれぐらいの時間、吸ってたでしょうか。
ようやくボアから口を離したPちゃん
私の顔を見て
「にゃあ~」。
猫の言葉はわからないので
Pちゃんの鳴いた意味もわかりませんが
怒っていないことは確かでした。
大きくなあれ。
Pちゃん。