昨日はお笑い芸人の又吉さんが芥川賞を受賞されたニュースで持ちきりでした。
私は未読なんですけど、電子図書で発売された時
冒頭部分だけ無料で読めるサービスがあったので読みました。
面白かったですよ。
文章が読みやすいし、情景も容易に浮かんでくるので
続きが読みたくなる作品でした。
又吉さんの選考はすんなり決まったらしいですが
芸人の受賞は初ということで
久々に大きなニュースになりました。
芥川賞がこれだけ騒がれたのは
「限りなく透明に近いブルー」以来かなと
ふと思い出しました。
今回の芥川賞の選考委員でもある村上龍氏が
第75回芥川賞を受賞した作品「限りなく透明に近いブルー」。
この作品は選考会でも大モメだったと報道され
発刊後も読者から賛否両論の感想が聞かれた超話題作でした。
あの頃私は高校生で、ロックファンの定番雑誌「ミュージックライフ」の読者でした。
ミュージックライフの編集後記に、当時の編集長・水上はるこ氏が
「書店で『あのー、限りなく』と言った瞬間、『あー、完売して入荷待ちです』と言われる」
との文を載せていました。
どれだけ話題作だったか想像できるでしょうか。
そんな状況でしたので
私が「限りなく透明に近いブルー」を購入したのも
発売後数ヶ月たってからでした。
当時の表紙は、主人公の恋人・リリーのモデルとなった女性の横顔だったと記憶しています。
カバーの袖部分には、美大生だった村上氏の写真。
今では日本文学界の重鎮となった村上氏の若き姿に
現代の若い方は驚くかもしれません。
私より一足先に読んでいた友人曰く
「あれが芥川賞だなんておかしい!あんな文章、私でも書けるわ!」。
へー、そんな小説なん?と、読む前から少しテンション下がった私でしたが
とりあえず話題作は読んどこう、と読み始めました。
完読してみて思いました。
「いや、この文章は書けないっしょ」。
目からウロコと言うか、ほわわんとした衝撃と言うか
とにかくそれまで読んだことのなかった文体でした。
話の内容より、文体の方が鮮明に記憶に残っています。
まず、話し言葉に「」がない。
これ衝撃でした。
話し言葉には「」をつけるものだという固定観念がありましたから。
小学校の国語の時間に習いました。
練習問題で「次の文章の中で『かぎかっこ』を使う部分を抜き出しなさい」なんてのもやりました。
そうやって、会話は必ず「」を使うものだと思いこんでいました。
しかしこの作品は、会話に「」がないのです。
全部の会話に「」がないわけじゃないですよ。
ちゃんと「」を使っている会話文もあります。
でも、「」を使わずに会話文を書いてることで
逆に会話を浮き出させる効果を生んでいます。
目の前でリアルに会話を聞いているような効果です。
こんな文体の小説はそれまで存在してなかったと思います。
単に私が知らないだけかもしれませんが。
そして流れるような文章。
登場人物たちの常軌を逸した行動を
主人公がまるでガラス越しに観察しているかのように淡々と語ります。
従来の小説なら、主人公は他者の行動に自分の意志や感情を表していましたが
この「僕」は、そんな感情を露わにすることがありません。
せいぜい「気持ち悪くなって吐いた」ぐらいのことです。
それでいて描写は細かく
冒頭での「パイナップルが腐っている」くだりなどは
腐敗臭が漂ってきそうなほど(笑)リアルでした。
リアルと言えば
ハウスの仲間たちが
ローリングストーンズの「Time Is On My Side」を
大音量で流している場面。
もう、想像できすぎてしまうほどリアルに脳内再生され
読みながら「♪ターァイム イゾンマイサァァァイド」と歌いそうになるぐらいでした。
この頃は
「ローリングストーンズは永遠に日本に来ない」
と信じられていた時代でしたのよ。
だから
長谷川和彦監督の映画「太陽を盗んだ男」でも
政府への脅迫が「ストーンズを日本に呼べ」だったんですよね。
あの映画で使われたストーンズ来日公演のポスターがほしかった!ほしかったのよ!
1973年にストーンズの初来日が中止となったのも
メンバーのドラッグ歴が原因だったんですが
あの不健康なミック・ジャガーが
40年後には「健康じいさん」として現役ロッカーになるなんて
当時誰が想像できたでしょうか。
ああ、ストーンズじゃなくて「限りなく透明に近いブルー」の話に戻します。
ロックコンサートの警備員をリンチする描写もエグかったですね。
ミッキーマウスのシャツに黄色い液体がポタポタとかね。
この作品が出た次の年だったか
数学の授業で「これを『限りなくaに近づく』と言います」ってのを習った時
教室中が「ほぉーーーっ」と言う声で埋めつくされました。
数列だったかな。数Ⅱ?数Ⅲ?
そこで初めて「数学用語だったのか」と知りました。
賛否両論の議論を呼んだ「限りなく透明に近いブルー」。
第2作は「海の向こうで戦争が始まる」。
これは高校で同じクラスだった友達が「めちゃ感動した!」と興奮していて
第3作の「コインロッカーベイビーズ」は
大学の後輩が「これすごいわ~」と大絶賛していて
村上龍氏は一発屋ではないことが証明されたわけですが
私は読んでないんです。
リアルタイムで読んでおくべきだったと絶賛後悔中。
「限りなく透明に近いブルー」も
今は手元にありません。
結婚するとき、親戚に
「あんたは自営業に嫁に行くんだから、のんびり本なんて読んでるヒマないよ!本なんてジャマになるよ!」
などと言いくるめられて
「パタリロ」以外のほとんどの本を天牛書店に売ってしまったからです。
あ、人のせいにしちゃいけませんね。
なぜか嫁入り道具に持ってきた「パタリロ」は
その後、息子達のお気に入りとなって重宝しました。
ちなみに、私が一番好きな芥川賞作品は
安部公房の「壁」です。