ROCK & CINEMA DAYS

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「子猫あげます」の貼り紙があった時代

2018-03-14 15:00:00 | 
大島弓子の「グーグーだって猫である」を読み
子猫を譲渡する場面で
子供の頃に飼ってた猫を思い出した。


昭和後期
今のように猫を去勢・避妊手術させて室内飼いするという習慣はなかった。
そもそも猫を病院に連れて行くという考えも浸透してなかった。
だから動物病院も今とは比べ物にならないぐらい少なかった。


飼い猫が子供を産むと
玄関先や電柱・外壁に
「子猫あげます」といった貼り紙がされていた。


そのお宅も玄関先に「かわいい子猫あげます」と
猫の絵が描かれた貼り紙を出していた。
それを見つけた伯母に連れられて
小学生だった私は子猫をもらいに行った。


子猫が3匹連れられてきて1匹を選ぶのだが
3匹とも驚くほどの超美形で
迷ってしまって選べない。
そうしているうちに
母猫が子供を探しにやってきた。
2匹の子猫が母猫の方に寄って行ったが
1匹だけがこちらをむいたまま座っていた。
親の方へ行った子を引き離すのもかわいそうだと思い
その1匹をもらうことにした。
あちらが用意してくれたバスケットケースにご主人が子猫を入れてくれたのだが
入れる時に子猫に頬ずりをして別れを惜しんでいたのが忘れられない。


うちの家族は猫好きだったので
それぞれが自分なりのかわいがり方をしていたが
当時はとにかく何に対しても情報が少ない時代だった。
今ネットで検索すると
良かれと思ってやったことが逆効果なこともたくさんあった。


最初にも書いたけれど
あの頃、猫は自由に家の外へ出るものだったし
避妊させるということもなかった。
だが私の祖母は、猫が発情期を迎えると
「去勢手術をする」と言って、突然病院に連れて行った。
他の家族はびっくり。
この話を友達にすると
「なんてかわいそうなことをするの!」と憤慨された。
今では考えられない話だけど。


また、猫がケンカをしてケガだらけで帰ってきた日から祖母は
「外に出すとケガをするし車が危ないから、もう出さないようにする」
と言って、家じゅうの窓を閉め、猫を脱出させないようにした。
これには家族も猛反対。
「人間だって家に閉じ込められたらいやだろう!」
「猫なのに自由に出られないなんてかわいそう!」
でも実質的に猫の世話をしていたのは祖母なので
最終的には祖母の意見に従うしかなかった。


祖母も少しは妥協したのか
猫にリードをつけて散歩させたり
家の前でブラッシングしたりしていた。
リードをつけた猫なんて他にいないし
おまけに血統書付きでもなく、雑種。
好奇の目で見られることが多く
かなり恥ずかしかった。


今では常識となった飼い猫の
「室内飼い」「避妊」だけど
当時は非常識だと思われていたフシがあった。
そんな時代に、高齢だった祖母がなぜそういうことを思いついたのか謎だが
身内ながら、あの先見性はすごかったと思う。
まあ、今だから言える話。
当時は私も「猫かわいそう」と思ってたから。


猫も祖母に一番懐いていて
他の家族には見せない甘えっぷりを披露していた。
だが数年たつとあちこち具合が悪くなってきて
そのたび病院に連れて行ったのだけど
これも最初に書いたように
ペットを病院に連れて行くというのが一般的ではなかった時代なので
病院が非常に少なく
獣医の当たりはずれも今とは段違いだった。
何度連れて行っても、その場しのぎの状態で
しばくたつと再発、という感じだった。


やがてほとんど動かなくなったある日
猫が姿を消した。
家族総出で探すと
今まで行ったことのない、縁の下の奥にうずくまっていた。
引っ張り出して敷布に寝かせ
今までとは別の病院に頼んで往診に来てもらった。
私はその場にいなかったので後から聞いたのだが
獣医が注射をした瞬間、ショック死したとのことだった。
真夏の日、7歳だった。


秋になり
庭のキンモクセイが香りだした。
このキンモクセイの木は、私が生まれる前から植えられていたが
一度も花が咲いたことはなかったので
私自身、キンモクセイの木だとは知らなかった。


猫は生前、キンモクセイの下がお気に入りで
よく寝転んだり遊んだりしていた。
室内飼いの猫が土に触れられる唯一の場所だった。
そのキンモクセイの花が咲き、独特の香りが家じゅうを包んだ。
「キンモクセイが初めて咲いた!」
家族みんなが驚く中
祖母は「猫が咲かせてくれた」と泣きそうな目でキンモクセイを見つめていた。
この時ばかりは、全員が祖母のいうことに頷いた。


もう数十年が過ぎ
元号も変わり
ペットを取り巻く環境も変わっていったけど
子猫と別れる時に頬ずりしていたおじさん
みんなから反対されても去勢と室内飼いを実行した祖母
いつまでも記憶に残っている。


キンモクセイの花が咲くことは、その後二度となかった。