今朝の朝日新聞の「日曜に想う」欄は「平和の扇動者」と題してチャップリン映画「独裁者」の中の大演説に関するものでした。私もかつてこの映画を見て、この部分をリピート再生しつつ涙ながらに見入った思い出があります。中野好夫氏の名訳を以下に掲載します。
(引用開始)――残念ながら、わたしは皇帝になどなりたくありません。そんなことはわたしの任ではありません。わたしは誰を支配することも、誰を征服することも、したくはありません。できることなら――ユダヤ人も、キリスト教徒も――黒人も――白人も、みんなに力をかして上げたいのです。
わたしたちは、みんなおたがいに助け合いたいと望んでいます。人間とはそういうものなのです。わたしたちは、他人の不幸によってではなく、他人の幸福によって、生きたいのです。憎み合ったり、軽蔑し合ったりしたくはありません。この地球上には、みんなが生きてゆけるだけの結構余裕はあるのです。そしてこの大地は豊沃で、すべての人間を養うことだってできるのです。
わたしたちは、自由に、そして美しく生きてゆくことができるのです。だのに、わたしたちはその途を見失ってしまいました。貪欲が人間の魂を毒し――世界中に憎しみのバリケードを築き――あのガチョウの足取りよろしく(ナチス軍隊の特徴だった歩調のとり方、いわゆるグース・ステップのこと)、わたしたちを不幸と殺戮の中に追い立てて行きました。新しいスピードが開発されましたが、結果はかえってわたしたちみんな、自分の穴に閉じこもるようになってしまいました。生活を豊かにするはずの機械が、逆にわたしたちを貧困の中にほうり出しています。知識はわたしたちを皮肉にし、知恵は非情、冷酷にしました。考えるばかりで、思いやりをなくしてしまったのです。わたしたちにとって必要なのは、機械よりも人間なのです。頭のよさよりも、親切、そして思いやりなのです。そうしたものがなければ、人間はただ暴力、一切はただ破滅あるのみです。
飛行機とラジオはわたしたちの距離をちぢめました。こうした利器が持つ本来の性質は、人々の善意――世界的な兄弟愛――すべての人類が一つになることを、叫んでいるのです。いまこの瞬間にもわたしの声は、世界中の何百万という人々――絶望の中にいる男や女や子供たち――罪もない人々を拷問し、投獄する、ある組織の犠牲者たちの耳に達しているはずです。耳をもったすべての人々に、わたしは呼びかけたいのです。『絶望してはいけません』と。わたしたちを襲っているこの不幸も、それはただ貪欲のなせる業(わざ)――人類の進歩を恐れる非情な人間たちのつくり出しているものにしかすぎません。憎しみはきっと消え、独裁者たちは死に、彼らが人民から奪い取った力は、ふたたび人民の手にかえるでしょう。そして人間に死のあるかぎり、自由は決して滅びません。
兵士のみなさん! みなさんはこれらのけだものたち――あなた方を軽蔑し――奴隷にし――あなた方の生活のすべて――何をすべきか、――考えるべきか、感じるべきか、そんなことにまで一々命令し、規制するこれらのけだものたちに、決して身をゆだねてはなりません。ただあなた方を猛訓練するだけ――飲み食いまでも制限し、家畜のようにこき使い、ただ大砲の餌食にするだけです。もはや人でないこうした人間たちに、決して身をゆだねてはなりません。彼らは機械の頭と機械の心だけを持った機械の人間なのです! あなた方は機械ではない、人間です。人間愛を心にもった人間です! 憎んではいけません! 愛を知らぬ人間――愛されたこともない、自然に背いた人間だけが憎むのです!
兵士のみなさん! 隷属のために戦ってはいけない! 自由のために戦ってください! ルカ伝第十七章にはなんとありますか? 神の国は人の中にあり、とあるのです――それは一人の人間の中でもなければ、あるグループの中でもありません。すべての人間、あなた方の中にあるのです。力を持っているのはあなた方人民――機械を作る力、幸福を創る力をもっているのは、あなた方人民なのです! あなた方人民は、人生を自由にし、美しくし、この人生をすばらしいものにする力をもっているのです。だとすれば――民主主義の名において――それらの力を動員し、みんなで一つに手をつなごうではありませんか。新しい世界――みんなの人間に働く機会を与え、青年には未来を、老年には保障を与えてくれる立派な世界をつくり出すために、みんな立って戦おうではありませんか。
もっともけだものたちも、同じ公約をかかげて権力を握りました。しかし彼らは嘘をついている! 公約を果たすつもりなどありません! 絶対に! 独裁者というのは、自分だけは自由にするが、人民は奴隷にするのです。いまこそ世界の解放のために戦おうではありませんか――国と国との障壁を毀(こぼ)ち――貪欲や憎悪や非寛容を追放するために。理性の世界をつくるために――科学と進歩がわたしたちすべてを幸福に導いてくれるような世界を創り出すために、さあ、みんなで戦いましょう。兵士のみなさん、民主主義の旗の下で、みんなで一つに手をつなぎましょう!
ハナ、ぼくの声がきこえるかい? いまどこにいようと、さあ、上を向くのだ。空を見るのだ、ハナ! 雲が切れる! 太陽があらわれる! 闇が去って、ぼくたちは光の中に出るのだ! 新しい世界――貪欲と憎悪と残忍を忘れたよりよい世界が、いまや来かかっているのだ。空をごらん、ハナ! もともと人間の魂は翼をあたえられていたのだ。だが、ついにいまはじめて空を飛びはじめたのだ。虹の中へ ――希望の光の中へと、いま飛んでいるのだ。空をごらん、ハナ! 上を向いて!(引用終了)
今から77年前のチャップリンの心からの叫びです。――国と国との障壁を毀(こぼ)ち――の部分はこの時すでに彼が「世界連邦」の様な統治システムを考えていたことを示しています。しかし残念ながら今でも世界にこの独裁者的な人物はいます。寧ろ戦後72年経ち、身をもって戦争の惨禍や愚かしさを体験した世代が消えつつあるからこそ独裁者的人物が増えているのでしょう。
そして我が日本も例外ではありません。最近とみに力を付けつつある独裁者集団の理想はひと言でいえば「戦前の日本への回帰」です。彼らは国民主権、基本的人権、憲法9条に代表される平和主義を嫌います。憲法を改悪して天皇を元首と位置づけ、その威を借りて彼らが国民の主になろうとしています。共謀罪新設も、教育勅語やヒトラー「我が闘争」など矢継ぎ早の教育関連閣議決定もその一環なのです。
もしあなたが我が国を「戦前の日本」に戻したくないなら、これらを決して許してはならないのです。その為に声を挙げてください!行動してください!国民の一人ひとりがそれぞれの「大演説」をしようではありませんか!
(引用開始)――残念ながら、わたしは皇帝になどなりたくありません。そんなことはわたしの任ではありません。わたしは誰を支配することも、誰を征服することも、したくはありません。できることなら――ユダヤ人も、キリスト教徒も――黒人も――白人も、みんなに力をかして上げたいのです。
わたしたちは、みんなおたがいに助け合いたいと望んでいます。人間とはそういうものなのです。わたしたちは、他人の不幸によってではなく、他人の幸福によって、生きたいのです。憎み合ったり、軽蔑し合ったりしたくはありません。この地球上には、みんなが生きてゆけるだけの結構余裕はあるのです。そしてこの大地は豊沃で、すべての人間を養うことだってできるのです。
わたしたちは、自由に、そして美しく生きてゆくことができるのです。だのに、わたしたちはその途を見失ってしまいました。貪欲が人間の魂を毒し――世界中に憎しみのバリケードを築き――あのガチョウの足取りよろしく(ナチス軍隊の特徴だった歩調のとり方、いわゆるグース・ステップのこと)、わたしたちを不幸と殺戮の中に追い立てて行きました。新しいスピードが開発されましたが、結果はかえってわたしたちみんな、自分の穴に閉じこもるようになってしまいました。生活を豊かにするはずの機械が、逆にわたしたちを貧困の中にほうり出しています。知識はわたしたちを皮肉にし、知恵は非情、冷酷にしました。考えるばかりで、思いやりをなくしてしまったのです。わたしたちにとって必要なのは、機械よりも人間なのです。頭のよさよりも、親切、そして思いやりなのです。そうしたものがなければ、人間はただ暴力、一切はただ破滅あるのみです。
飛行機とラジオはわたしたちの距離をちぢめました。こうした利器が持つ本来の性質は、人々の善意――世界的な兄弟愛――すべての人類が一つになることを、叫んでいるのです。いまこの瞬間にもわたしの声は、世界中の何百万という人々――絶望の中にいる男や女や子供たち――罪もない人々を拷問し、投獄する、ある組織の犠牲者たちの耳に達しているはずです。耳をもったすべての人々に、わたしは呼びかけたいのです。『絶望してはいけません』と。わたしたちを襲っているこの不幸も、それはただ貪欲のなせる業(わざ)――人類の進歩を恐れる非情な人間たちのつくり出しているものにしかすぎません。憎しみはきっと消え、独裁者たちは死に、彼らが人民から奪い取った力は、ふたたび人民の手にかえるでしょう。そして人間に死のあるかぎり、自由は決して滅びません。
兵士のみなさん! みなさんはこれらのけだものたち――あなた方を軽蔑し――奴隷にし――あなた方の生活のすべて――何をすべきか、――考えるべきか、感じるべきか、そんなことにまで一々命令し、規制するこれらのけだものたちに、決して身をゆだねてはなりません。ただあなた方を猛訓練するだけ――飲み食いまでも制限し、家畜のようにこき使い、ただ大砲の餌食にするだけです。もはや人でないこうした人間たちに、決して身をゆだねてはなりません。彼らは機械の頭と機械の心だけを持った機械の人間なのです! あなた方は機械ではない、人間です。人間愛を心にもった人間です! 憎んではいけません! 愛を知らぬ人間――愛されたこともない、自然に背いた人間だけが憎むのです!
兵士のみなさん! 隷属のために戦ってはいけない! 自由のために戦ってください! ルカ伝第十七章にはなんとありますか? 神の国は人の中にあり、とあるのです――それは一人の人間の中でもなければ、あるグループの中でもありません。すべての人間、あなた方の中にあるのです。力を持っているのはあなた方人民――機械を作る力、幸福を創る力をもっているのは、あなた方人民なのです! あなた方人民は、人生を自由にし、美しくし、この人生をすばらしいものにする力をもっているのです。だとすれば――民主主義の名において――それらの力を動員し、みんなで一つに手をつなごうではありませんか。新しい世界――みんなの人間に働く機会を与え、青年には未来を、老年には保障を与えてくれる立派な世界をつくり出すために、みんな立って戦おうではありませんか。
もっともけだものたちも、同じ公約をかかげて権力を握りました。しかし彼らは嘘をついている! 公約を果たすつもりなどありません! 絶対に! 独裁者というのは、自分だけは自由にするが、人民は奴隷にするのです。いまこそ世界の解放のために戦おうではありませんか――国と国との障壁を毀(こぼ)ち――貪欲や憎悪や非寛容を追放するために。理性の世界をつくるために――科学と進歩がわたしたちすべてを幸福に導いてくれるような世界を創り出すために、さあ、みんなで戦いましょう。兵士のみなさん、民主主義の旗の下で、みんなで一つに手をつなぎましょう!
ハナ、ぼくの声がきこえるかい? いまどこにいようと、さあ、上を向くのだ。空を見るのだ、ハナ! 雲が切れる! 太陽があらわれる! 闇が去って、ぼくたちは光の中に出るのだ! 新しい世界――貪欲と憎悪と残忍を忘れたよりよい世界が、いまや来かかっているのだ。空をごらん、ハナ! もともと人間の魂は翼をあたえられていたのだ。だが、ついにいまはじめて空を飛びはじめたのだ。虹の中へ ――希望の光の中へと、いま飛んでいるのだ。空をごらん、ハナ! 上を向いて!(引用終了)
今から77年前のチャップリンの心からの叫びです。――国と国との障壁を毀(こぼ)ち――の部分はこの時すでに彼が「世界連邦」の様な統治システムを考えていたことを示しています。しかし残念ながら今でも世界にこの独裁者的な人物はいます。寧ろ戦後72年経ち、身をもって戦争の惨禍や愚かしさを体験した世代が消えつつあるからこそ独裁者的人物が増えているのでしょう。
そして我が日本も例外ではありません。最近とみに力を付けつつある独裁者集団の理想はひと言でいえば「戦前の日本への回帰」です。彼らは国民主権、基本的人権、憲法9条に代表される平和主義を嫌います。憲法を改悪して天皇を元首と位置づけ、その威を借りて彼らが国民の主になろうとしています。共謀罪新設も、教育勅語やヒトラー「我が闘争」など矢継ぎ早の教育関連閣議決定もその一環なのです。
もしあなたが我が国を「戦前の日本」に戻したくないなら、これらを決して許してはならないのです。その為に声を挙げてください!行動してください!国民の一人ひとりがそれぞれの「大演説」をしようではありませんか!