小泉元総理の5年余りの政治の評価にはまだ時期尚早かもしれませんが、早くもその影響は国民生活のあちこちに現われています。 彼はかつてこう言いました。 「財政再建には痛みを伴う。」「小泉政権では消費税を上げない。」「ぎりぎりまで削れば、やがて増税してもいいという声が出てくる。」 いずれももっともな話です。 しかし、実際に痛みを強く感じているのはもっぱら庶民です。 道路、ダム、新幹線は計画通り造り続け、大企業は最高益を上げています。 一方庶民は直接税の実質増税、社会保障費の5年間定額削減による医療や介護現場の崩壊、生活保護などセーフティネットのほつれ等で散々な目に逢っています。 「自民党をぶっ壊す」と叫んだ小泉氏ですが、自民党は壊れず、官庁や大企業を助け、庶民をくじく自民党の体質も健在でした。
いま国と地方を合わせて1000兆円にも迫る借金の返済や今後急増確実な社会保障費を前にして、消費税増税が既定路線であるかのように語られています。 盛んに旗を振る経済界はもとより、政府与党の大部分と野党の一部も相和して、総選挙後の実現タイミングをうかがっているようです。 これは総選挙の前では決してできません。 やれば必ず負けるからです。 つまり大増税を国民が納得しないのです。 ここがデンマークなどの民主主義先進国と違うところです。 デンマークは高負担高福祉の国ですが、国民が政府に信頼を寄せており、世界で最も幸せな国民と見られています。 税金の集め方、使い方がガラス張りで無駄使いや不正が殆ど無く、増税分はそのまま自分たちに戻ってくるからです。 一方我が国は逆で、国民は政府を信用していません。 税金の集め方や使い方が不公正、不適切であり、公共事業の談合や公務員の天下りなどの無駄使いや不正が無くならないからです。 デンマークのような国に一朝一夕で成れないことは分かっています。 しかし少しでも早くデンマークに近付きたいと考え、以下の提言をする次第です。
ひとつ目は所得の完全把握による徴税の公正化です。 1980年にマル優(300万円以下の貯蓄)や郵便貯金を名寄せする“少額貯蓄等利用者カード”(グリーンカード)ができた時、当時の金丸信自民党副総裁が「人の懐に手を突っ込むようなこと」と反対して延期になり、最終的に廃止されました。 名寄せされると複数の金融機関で違法にマル優貯蓄をしていた富裕層が困るのです。 要するに金丸氏達の反対は所得把握の不公正を温存し、主に自民党の支持層である富裕層の脱税余地を死守するためだったのです。 その後発覚した同氏への多額の闇献金の事実を見ても彼の行動原理が分かります。
グリーンカードに限らず、政府が国民に“総背番号”を振って一元管理する構想はことごとく潰されてきました。 労組や野党及びメディアの一部が反対したこともありました。 2002年に始まった“住民基本台帳”(住基ネット)も旧自治省の範疇にとどめた為、国民にとって殆どメリットの無いものになってしまいました。 反対の主な理由は“政府への不信(個人情報保護)”です。 確かに公務員が持ち出したパソコンやメモリーが紛失する事件が続きました。 その中に個人情報が含まれていれば、プライバシーの侵害が生じることは確かです。 その結果どんな災難が降りかかるかと危惧する気持ちは分かります。 また社会保険庁の職員が有名人の年金記録を盗み見ていたことなど、公務員が国民に信頼されるレベルにないのも事実です。
しかしこれらの多くは現在及び将来のセキュリティ技術を駆使すれば解決できます。 例えば公務員全員のパソコンからメモリー機能を排除し、すべての情報をサーバーから取り出し再びサーバーに返すようにすることです。 更に外部記録媒体への書き込み機能も無くし、私物パソコンの持ち込みも厳禁すれば、電磁記録データの漏出は殆ど無くなります。 また公務員が閲覧した情報のログを残しておき、これを監視すれば“ネットカフェ状態”と言われる不適切な情報閲覧もかなり解消されることでしょう。 ただし日進月歩で発達するセキュリティ技術をいかに駆使しても情報漏洩や不適切情報閲覧を完全に防ぎきることはできません。
ではプライバシー侵害の恐れが残ることをもって“所得の完全把握”を諦めるべきでしょうか。 答えは否でなければなりません。 “十・五・三・一”と言われるサラリーマン・自営業・農業・政治家の所得把握率の不公正を正して徴税に公正感を喚起すること、電子政府を構築して行政効率を飛躍的に高めることのメリットの前に、プライバシー侵害の恐れはもはや克服すべきデメリットでしかありません。 それが世界的な時代の趨勢ではないでしょうか。 全国民は11桁の個別の番号(仮称グリーンカード)を持ち、すべての金のやり取りをこのカードを持ってすれば、全国民の所得把握率は等しく100%に近付き、ガラス張りとなります。 その上で直接税の望ましい累進税率や年金・健保、セーフティネット等の社会保障制度を改定していけば良いのです。
二つ目は上記グリーンカード制度による所得把握の公正化を前提とした上での直接税の累進税率についてです。 我が国の直接税の最高税率は1983年までは75%でした。 これが“一億総中流時代”を経て下がり始め、消費税導入時にさらに下がって現在は50%になっています。 今厳しい“格差社会”を迎えて高所得者の最高税率を再び上げて所得の再配分を行う必要があるのではないでしょうか。 明日を担い、明日の命を育む若い世代が“ワーキングプア”に苦しみ、老後の社会保障に頼れず、結婚して子供を育てる自信も無くしています。 一方高所得者は自身の、あるいは父祖の努力の賜物でもありますが、同時にこの日本の社会システムの恩恵を深く受けての高所得なのです。 より一層の負担を受け入れるべきではないでしょうか。
三つ目は同じくグリーンカード制度による所得把握の公正化を前提とした上での年金、医療・介護保険制度についてです。 年金については現在被雇用者の厚生年金と公務員の共済年金を統合する方向にありますが、自営業者・退職者などの国民年金は取り残されています。 所得の正確な把握が難しいからですが、グリーンカード制度で自営業者・退職者を含めた所得把握が公正化された暁に、初めて全ての国民を一本の年金制度に統合することができます。 現状の国民年金は富裕層にとっては取るに足らない月6万円程度の受給額に過ぎず、一方貧困層にとっては払い続けることが困難な月1万5千円程度の保険料なのです。 これが国民年金加入率低迷の原因でした。 一本化によって富裕層は所得に見合った受給となり、貧困層の保険料はより低く設定できます。 医療・介護保険についても同様です。 現在国保、中小企業、大企業、公務員と別れていますが、所得把握の公正化によって一本化できます。 現在の介護保険料・国保税は所得累進性が低いので相対的に富裕層には安く、貧困層には高くなっていますがこれも是正されるべきです。
四つ目は消費税です。 消費税は衣食住を含むありとあらゆる物とサービスにかかっているため、貧困層ほど対所得税率が上がる逆累進性が問題でした。 また国民が支払った消費税が小規模事業者の手元に残る“益税”の問題もあります。 更に計算の煩雑さを理由に徴税の公正さが保障されるインヴォイス方式を捨て、脱税の余地を残した帳簿方式としたという問題もあります。 益税については自民党の票田である自営業者や農業者の利便にそった感があります。 インヴォイス方式は消費税導入当時すでに欧州では一般的であり、この不採用は上記益税と同様の作為を感じます。 これら消費税にまつわる諸問題は国民の納税意欲を阻害しており、その増税に反発する根拠になっているのです。 1989年にそれまでの“贅沢品”にかけられていた物品税を廃止して新設された消費税ですが、その廃止を提案したいと思います。 その代り贅沢品と贅沢サービスにかける“物品・サービス税”を新設するべきです。 例えば“食”であれば一人5千円以上の外食、“住”であれば5千万円以上の住宅、“車”であれば2000CC以上の車・・・といった具合です。 これであれば特に贅沢をしない限り消費生活に税金はかからないことになります。 国民の過半数を占める低所得層の生活はだいぶ楽になることでしょう。
消費税を廃止すると言えば代わりの財源を問われることになります。 最近自民党の中川秀直氏が特別会計170兆円の中で無駄を徹底的に排除すれば50兆円の財源ができると表明しています。 さっそく与謝野前官房長官が「そんな額にはならない」と打ち消してはいますが、とにかく特別会計も一般会計も徹底的に洗いなおして無駄を排除することが必要です。 自衛隊も災害救助機能だけを残して解体すべきです。 世界に27もの戦力不保持の国がある現在、憲法に戦力不保持を謳った我が国に世界有数の戦力があること自体が異常なのです。 我が国は憲法の理念を世界に広げ、戦争の無い世界システム構築の先頭に立ち、もって世界の中で名誉ある地位を占めるべきではないでしょうか。 政権交代も急務です。 半世紀にわたる自民党の政治が続いた結果、政官財の癒着が顕著です。 三者なれ合いもたれあう結果、談合による無駄、天下りによる無駄、無用の道路・新幹線・ダムなどの無駄は小泉政権でも無くせませんでした。 欧米先進国のように政権交代を繰り返すことによって三者の間に緊張感を保ち、結果として国民の国民による国民のための政治になるのです。 先に掲げた電子政府を実現することにより、行政効率の大幅な改善と公務員数の削減も可能です。 これらすべてを実施しつくした上で、なお税金が足らないのであれば、デンマーク国民がそうであるように、日本国民もガラス張りに変身した政府を信頼して増税を了解することでしょう。