川越芋太郎の世界(Bar”夢”)

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キール&ロワイヤルキール(後編)

2009-06-06 08:42:54 | 短編集バー物語
キール&ロワイヤルキール(後編)


セント・ジョージ名物の生バンド演奏が始まった。
男も女も、音楽と会話を楽しみながら、二人の世界を満喫する。


ふと、見回すと、いつのまにか、店内は満席に近い状態であった。
唯一の例外は、カウントー席。
二人の横の席は、なぜか開いている。
おそらく、店側の配慮であろう。

突然、バンド演奏が「Happy Birthday Song」に替わった。
無論、ジャズ風にアレンジされた、懐かしくもあるリズム。
伝わる詩が男の名前を告げる。
そう、店全体がなんと、男の誕生日を祝う空間に変わった。

最後の[Happy Birthday too You]と聴き終えると、大きな拍手が沸き起こり、
バンドリーダーの視線がカウントターへ注がれる。
満足げに、男は、マティーニのグラスを心持目線上に上げ、
バー全体のお客様へ半回転し、着席した。

なんとも、居合わせた男女・日本人外国人を問わず、祝福の拍手と乾杯。

素敵な演出であった。


男は、女を引き寄せて、再度、目礼を店内にする。

バンドマスターが男の好きな「Moon River」を奏で始めた。


さすがですね。
席についた男は、女にささやく。
君は、「安らぎの演出家ですね。」
なぜか、忙しい時も仕事で疲れたときも、少々へこんだときも、
君といると「安らぎ」の時間となる。


金や名声やパワーでも恋でもない。
「安らぎ」
男がこの女に密かに魅かれる理由はここにある。
男には、安らぎがあるからこそ、未来にチャレンジできる。

美人との恋は、うきうきするが安らぎは稀である。
男にとり、勲章でもない、見栄でもない、欲望でもない、
安らぎの対象としての「何か」がここにあった。

女は男に尋ねる。「誕生日おめでとう。これからの目標は?」
男は、「東洋と西洋の融合で行きます。」

「?」

「環境に自分を適合させながら、それでいて、自分の核となる
未来像を目標に進みます。」

女「環境や事物に上手に適合するの東洋風ね。そして、かくあるべきとした
姿を描き、行動するのが西洋風ね。」
「もう、禅問答みたい。日本風かもしれないわね。」

「こうして逢えるのは、さてどちらでしょうか?」男と女は同時に同じ質問を
心の中で呟いた。

(後編完)

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本作品は、すべてフィクションです。登場人物及び店名・バーテンダー
についても同様です。
悪しからず、ご了解願います。

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