サッカー狂映画監督 中村和彦のブログ

電動車椅子サッカーのドキュメンタリー映画「蹴る」が6年半の撮影期間を経て完成。現在、全国で公開中。

トルコサムスンデフリンピック 女子サッカー決勝は激闘 日本女子は大会に参加出来ず

2017年07月30日 | デフリンピック

トルコサムスンデフリンピック女子サッカー決勝、ロシアvsポーランド戦は延長PK戦にまでもつれ込む激闘となった。

サムスンデフリンピック女子サッカー競技には、6か国が参加。ロシア、ポーランド、ブラジル、英国(UK)、トルコ、中国。総当たりのリーグ戦を行い、1位と2位のチームが決勝を争う。
男子は各地区予選もあり勝ち上がった16チームがデフリンピック本大会に参加したが、女子は予選が出来るような状況ではない。渡航資金や競技人口の問題もあり、各国ともチームをなかなか派遣できないのが実情のようだ。
大会には日本、そして4連覇中のアメリカが参加していない。

人数が少なくてすむ(少々変な言い方だが)フットサル競技のほうは参加国は多い。2015年タイで開催された世界選手権には女子チームが14か国参加した。各国ともに11人制サッカーチームを編成し派遣することに苦労しているが、5人制のフットサルならなんとかしているということだろうか。
この大会には日本チームも出場。山本ヨシキ監督のもと痺れる戦いを積み重ね、14か国中6位の成績で大会を終えている。大会への参加費は全額自己負担だった。大会のみならず合宿も全額自己負担である。
女子はサッカー、フットサルの競技人口がそれほど多くはないため、有力選手は双方に出場しないとチームとして成り立たたないという現状があった。そうするとフットサルに集中している時期は、資金面だけの理由ではないだろうが、なかなか11人制サッカーの合宿に参加することはむずかしい。実際に何度か合宿が開催中止に追い込まれた。

日本女子サッカーチームは2015年のサッカー世界選手権(イタリアで開催)は不参加としてデフリンピックへの出場を模索していたようだが、助成金との兼ね合いでもあって断念せざるを得なかったようだ。

4連覇中のアメリカの不参加はまったく事情が異なる。テロ等の安全面の不安から出場を見送ったということのようだ。


ともかく6か国がリーグ戦を戦い、以下のような順位となった。
1位 ポーランド    勝ち点13 得失点差 +18
2位 ロシア       勝ち点12 得失点差 +15   
3位 ブラジル       勝ち点8   得失点差 +8
4位 英国(UK)    勝ち点7   得失点差 +6
5位 トルコ            勝ち点3   得失点差 -7
6位 中国       勝ち点0   得失点差 -43

決勝に先立ち行われた5位決定戦は、トルコ6-0中国。3位決定戦はブラジル2-1英国で、ブラジルが銅メダルを獲得していた。
中国は6試合全敗、得点0、失点49で大会を終えたが、次回大会は出場しないか、あるいは相当な強化を図ってくるか、どちらかではないだろうか。

ということで向かえた決勝戦は、ポーランドとロシアの対戦。
ポーランドは前回3位決定戦で英国に敗れ、悔しい4位に終わっている。この試合には現地で立ち会っていたが、選手たちの尋常ではない悔しがり方を目の当りにして「きっと強くなるだろうな」という印象を持っていた。
一方、ロシアは2009年台北で銅、2013年ソフィアで銀、悲願の金メダルを狙っている。また台北大会では日本が0-10と完膚なきまでに叩きのめされた相手でもある。この試合も現地で、またソフィア大会の決勝も現地で生観戦している。

ロシアのキャプテンは背番号7長身のスヴェトラーナ・二コラエヴナ・ガガーリナ選手。台北デフリンピック日本戦で6ゴールを奪った選手である。
映画『アイ・コンタクト』撮影時は、インタビュー撮影をおこない国際手話で対応しれくれた。その時のポジションはフォワードだったが、4年後の決勝ではセンターバックで先発、アメリカに先制点を許してからはトップ下にあがっていた。
今回の決勝はセンターバックに固定。一方のポーランドも背番号9の選手がセンターバックをやっており、体の強さやセンターバックの手薄さもありコンバートされたのかもしれない。選手層の薄い女子サッカーにおいてはセンターバックをどうするかはなかなか難しい問題だろう。
日本では男子サッカー全般で悩ましいポジションだろうが。ちなみにデフ男子日本代表は竹内、仲井の2人がコンビを組んだが、とてもよくやっていたと思う。

試合は前半19分、ロシアのフリーキックに前述のガガーリナが上がり、抜けてきたクロスボールを1トラップして左足で蹴り込み、ロシアが先制。
しかしそのガガーリナのクリアミスからGKとポーランド選手が1対1となり、GKの反則でポーランドにPKが与えられる。27分、GKの動きを見て落ち着いて決めたポーランドが同点に追いつく。
だがその後、今度はロシアにPKが与えられ、30分再びロシアが2-1と勝ち越した。

ポーランドはチャンスは作り出すが最後の精度を欠くものの、守備では連動し、全員がハードワーク、球際にも激しくいき、ロシアに追加点を許さない。
そして後半8分、ポーランドは自陣ゴールキックからのルーズボールを拾うと、右サイドから飛び出す10番の選手へスルーパス、10盤がループ気味のシュートを決め、2-2の同点に追いつく。
流れるような攻撃だった。

その後は両チーム気持ちのこもった好ゲーム。互いに得点をゆるさず、延長戦へ。
延長後半ともなると、12日間で6試合というハードスケジュールの疲れもあっただろう。足を攣る選手が続出、文字通り死闘となった。
ただこの試合は21時キックオフ、暑さは凌げていた。

そしてとうとう試合はPK戦へ。
動くポーランドのGK、動かないロシアのGK、明暗がくっきりと出たPK戦になった。
じっと我慢し早めには動かなかったロシアのGKが真ん中、甘いコースの2本を止め、ロシアが4-2とPK戦を制し、金メダルに輝いた。

輪になって多くのロシア選手が喜ぶ中、ピッチに突っ伏して涙を流すキャプテンのガガーリナ選手の姿がとても印象的だった。感極まるものがあったのだろう。

アメリカが出場していれば金メダルの行方はわからなかったが、ロシアの金メダルの価値が下がるものではないだろう。
内容的にはむしろ押していた感のあるポーランドは、さらに強くなるだろう。

試合終了直後は悔しさいっぱいだったポーランドの選手たちは、表彰式では素敵な笑顔を見せていた。試合中はこわいほどの表情だったので、その差が顕著だった。
きっと一度引き上げたロッカールームで、「銀メダルを喜ぼう」という話しでもしてきたのだろうか。しかしPK戦を止められた選手は直前まで泣き腫らしていた顔だった。


次回大会は是非女子日本代表も出場し、メダルにもからんでほしい。