11月3日~4日、静岡県エコパアリーナで開催された『パワーチェアーフットボールチャンピオンシップジャパン2019』観戦記第2弾です。
大会には韓国のチームも特別参加、10km部門の公式戦で敗れたチームや、連合チームとのフレンドリーマッチが行われた。今後、こういう機会が増えていき、いずれは代表の強化試合もホーム&アウェイで行われえるようになれば良いと思う。
2日目は6km部門の準決勝2試合が、9時10分にキックオフされた。
ディスカバリーとファインフレンズの一戦は、ディスカバリーが着々と得点を積み重なる。
開始早々には、永田の右コーナーキックを池田がファーで合わせる。6分にも追加点、7分には池田の右サイドのキックインがエリア内の2人の間を割ってゴール。10分にも池田、永田のコンビで4点目。後半に入っても、永田、高垣のゴールで6点。6-0で決勝に進んだ。
ブラックハマーズと兵庫パープルスネークスの対戦は、前半パープルが名田のゴールで先制。
しかし後半、ブラックハマーズが石井のゴールで追いつく。
その後も一進一退の攻防が繰り広げられるが、延長、PK戦の末、決勝に勝ち上がったのはブラックハマーズ。
10時40分からは10km部門の準決勝2試合。
キャプテン塩入を欠くナンチェスターユナイテッドは横浜クラッカーズと相対したが、塩入の不在は如何ともしがたい。
クラッカーズに攻め込まれ、クリアボールを流し込んだ石井のゴールでクラッカーズが先制。
その後も速攻から永岡真理が持ち上がり、三上がゴールを決める。さらには永岡のコーナーキックを中山環が合わせ、前半を終えて3-0。
後半に入ってもクラッカーズは得点を積み重ねる。
永岡のロングシュートで4点目、石井のゴールで5点目。ナンチェも東が直接フリーキックを蹴り込み気を吐くものの、クラッカーズは三上のフリーキックを永岡が角度を変えて6点目を奪い突き放し、クラッカーズが3大会連続の決勝進出を果たした。
ベストな状態のナンチェスター・ユナイテッドとクラッカーズの対戦が観れなかったのは、とても残念だった。しかしナンチェの若手井戸崎にとっては良い体験、試練にもなっただろう。
もう1試合のクラッシャーズとレッドイーグルス兵庫の一戦は稀に見る熱戦となった。
試合は早くに動いた。4分にフリーキックから、日本代表のキャプテンを務めた内海が飯島と森山の間をぶち抜き先制。11分には内海が角度のないところの左サイドのキックインから直接ゴールし、雄叫びを上げる。さらには内海のパスから井上のゴールで3-0と突き放す。
この時点でさすがに決まったなと、正直思った。ところがクラッシャーズはここから反撃に出る。飯島の右コーナーキックを森山がファーで合わせて1点を返し、後半に望みをつないだ。
しかし後半に入っても2点差は縮まらない。逆にレッドイーグルスは怒涛の攻撃を繰り広げるが、クラッシャーズも飯島を中心に凌ぎきる。
そして11分過ぎ、レッドイーグルスは2on1の反則をとられフリーキックを与えてしまう。クラッシャーズは、飯島が蹴り、森山が角度を変えて1点差に詰め寄る。
勢いに乗るクラッシャーズは、1分後、右コーナーキックを得ると、飯島のキックを森山が正面から蹴り込み同点に追いつく。そしてさらにセットプレーから飯島、森山のコンビで4-3と逆転。そのままクラッシャーズが逃げ切った。
3-0からの逆転劇はそうそうあるものではない。レッドイーグルスも慢心したわけではないだろうが、クラッシャーズの勢いに呑まれた形となった。
レッドイーグルスからは豪州でのAPOカップに内海、井上、浅原が参戦。結果としては上月、中村、船倉等と分断される形となり、直接いっしょに練習出来ない等、何らかの形で影響を及ぼした点もあったかもしれない。
12時30分からは6km部門の決勝。愛知のディスカバリーと埼玉のブラックハマーズの対戦。
試合はディスカバリーが、池田、永田コンビで得点を量産、終わってみれば、8-0の圧勝でディスカバリーが優勝。
ディスカバリーは高垣がうまくバランスを取り、平西が後方を締めた好チームだった。
監督の長谷川さんは映画「蹴る」撮影時には自宅までおしかけ、亡くなった息子さんの遺影を撮らせてもらった。以来、大会のたびによく話すようになり、個人的にも印象深い優勝となった。
6km部門のMVPは、ディスカバリーの池田恵助。
大会の最後を締めくくる10km部門の決勝は、横浜クラッカーズと長野のFCクラッシャーズのクラクラ対決。
序盤は、反則にも留意した1対1での競り合いが続く。クラッカーズは11分、13分、15分とセットプレーからチャンスを生み出すが決めきれない。
そして18分には飯島、19分には三上、両チームの中心選手にイエローカードが出る。2枚目をもらったら退場になってしまう。その後は慎重にならざるを得ない。
前半終了間際には、フリーキックのこぼれ球から三上が強烈なシュートを放つが惜しくも枠を捉えられない。
後半大きなチャンスを向かえたのはクラッシャーズ。12分、左サイドのキックイン、飯島からのパスを森山がダイレクトで強烈なシュート。しかしクラッカーズの清水猛留が素早い反応で弾き出す。
APOカップに出場した清水は、その時の経験が活かされているのか大会前とは別人のように落ち着いてプレーが出来ているように見受けられた。まさにビッグプレーだった。
その後、三上のセットプレーから永岡真理、中山環がシュートチャンスを迎えるもののゴールには至らず、スコアレスのまま延長戦へと突入した。
延長前半のキックオフ、三上から右サイドの中山へ。中山が太田と競り合い突破し逆サイドへ折り返す。永岡が落としたボールを三上がダイレクトでシュート。ゴール左隅に決まり、クラッカーズが先制。キックオフから一度も相手にボールを渡すことなく、連動した見事なゴールだった。
4分過ぎには左コーナー付近での永岡のフリーキックを、三上が決めて追加点。クラッカーズがそのまま逃げ切り、2大会ぶり、4度目の優勝を飾った。
MVPは三上優輝。
敗れたクラシャーズは、とにもかくにも飯島を中心としたチーム。近年は彼のイメージを周囲が具現化できることも多くなり、ますます楽しみなチームになってきている。
この大会は、1週間前にオーストラリアで開催されたAPOカップと切っても切り離せない大会となった。日本代表に選ばれオーストラリアに遠征した選手たちのコンディション(特に障害の重いPF1の選手)やパフォーマンスがどう影響を与えるかという点も優勝を左右する重要な要素となった。
優勝した横浜クラッカーズの永岡真理(PF1)は、この短い期間にコンディションを整えてきた。決して簡単ではなかったはずだ。
また三上優輝(PF2)はオーストラリアでMVPを獲得、一回りたくましくなって帰ってきた。もっとも成長したのは清水猛留だ。以前はゴールを守っていてもどことなく頼りなげだったが、オーストラリアで揉まれてきたせいか、とても落ち着いていて安定感のあるプレーを見せていた。
日本代表選手を全国大会の優勝、準優勝チームから選んだやり方は批判的な言辞も多かったが、結果としてクラッカーズは経験を活かした形となった。
だがもしW杯の出場権を取れていなかったら、様々なことがどう転んでいたかわからない。
レフリングに関しては、APOカップで慣れていた選手たちに利があった面は否めないだろう。
また2on1やオブストラクション等の反則でフリーキックの場面も多かった。そういったことも勝敗に影響を与えたかもしれない。
APOカップに出場した日本代表はいったん白紙に戻るようだが、W杯に向けては全国から選手を選抜する、従来の、そして常識的なやり方に戻すべきだ。また監督もAPOカップで結果を出した近藤監督が続投すべきだと私は考える。与えられた手駒のなかで結果を出したし、世界の一端を垣間見ても来ている。いずれにせよ、W杯に向けた道のりを出来るだけ早く構築していかなくてはならないだろう。APOのレフリングの延長にあるのはドリブルで強引に持ち込むサッカーではなく、球離れを早くし、パスを回すサッカー。イングランドもそうだし、ゴリゴリのサッカーをやっていたオーストラリアも大きくプレースタイルを変えてきている。代表、そして10km部門は、世界のトレンドに置いてきぼりをくらわないことが重要だ。W杯に出場し、高みを目指すのであれば。
一方6km部門をどうしていくのかは、電動車椅子の法定速度が6kmである日本においては切実な問題である。競技への間口、普及という意味ではとても重要なカテゴリーだ。
さらに言えば簡易電動車椅子と柔らかいボールで出来るような、高齢者や子供でも出来る新たなカテゴリーも考えられるだろう。
ところで法定速度が6kmである必要があるのだろうか。6kmとは人間が歩く速度だ。
電動車椅子は走っちゃいけないのか。
何だか、まとまらなくなってきた。
このあたりで…。
APOカップに遠征した選手団の渡航費支援のクラウドファンディング、継続して支援を募っています。
https://readyfor.jp/projects/jpfa
(追記)
大会日程が、アンプティサッカーの全国大会と重なっていたのは残念だった。会場の都合でなかなか調整が難しい面もあるだろうが、来年以降、各障がい者サッカー間の主要大会が重ならないようになれば良いとは思う。
ところが聞いたところによると、来年の大会はパラリンピックと重なってしまう可能性があるようだ。その場合は、ブラインドサッカー決勝、車椅子バスケット決勝、車椅子テニス決勝ともろダブりとなってしまう…。
また来年は、鹿児島で開催される障害者国体のオープン競技として、電動車椅子サッカーがプレーされる。日程は10月17日~18日。
こちらも是非注目である。