『ほやほやぶどう』と言っても、ぶどうの品種の名前ではない。
家になっているぶどうで、時期はずれの今頃まで採らずにそのままにしておいたぶどうのことである。
当然皮の張りや艶は無くなり、手で触ると『ほやほや』としている。
そこでご主人様が勝手に『ほやほやぶどう』と名づけたのだ。
こんな見たくれの悪いものはスーパーの店頭には並んでいない。
もし並んでいたとしたら、鮮度が悪いと判断され、すぐに廃棄処分にされてしまう。
ところがだ、枝から摘み取られ、『ほやほや』になったぶどうと、枝についたまま生きたまま『ほやほや』になったぶどうとでは味が全然違う。
前者は腐った味。しかし、後者は完全に熟して実に甘く美味しいのだ。
ご主人様と奥様は、この『ほやほやぶどう』を時々頬張っては二人でにんまりとしている。
しかし、にんまりとしているのはこの二人だけではなかった。
実はカラスや野鳥の好物でもあるらしい。
僕がベランダでのんびりとしていると、カラスが頬張って飛んで行くのを何度も目撃している。
この前も奥様が庭の掃除をしていると、一羽のカラスが飛んできてぶどうの木にとまり、『ほやほやぶどう』を食べていた。
「また奥様との戦いが始まる」
と思ったが、奥様は竹ぼうきを振り回すことなく、にこやかに見守っていた。
悪さをしなければカラスは奥様の友達らしい。
カラスが飛び去る時、この前と違って、
「ごちそうさま~」
と言って行ったような気がした。