伊達だより 再会した2人が第二の故郷伊達に移住して 第二の人生を歩む

田舎暮らしの日々とガーデニング 時々ニャンコと

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ジャコシカ141- 142

2020-06-07 21:11:12 | ジャコシカ・・・小説

しかしすぐに、眼の前で真剣な顔で話す、屈強な40男の顔を見て、笑いごとではない現実の羆

 

の底知れぬ強大な力に畏怖を感じた。

 

 

 「羆はあの牛の首の骨を前足の一撃でへし折るんだ」

 

 その時高志はその男の言葉を、素直に信じた。以来彼は羆はこの世で一番近付きたくない生き物

 

であり、恐れなければならない力の保持者だと思っている。

 

 だから直ぐに護衛なんて笑止千万だと思ったのだが、この際大声を出したり鈴を鳴らしたりする

 

くらいならばできるだろうと思ったのだ。

 

 それにここに来てまだ間はないが、鉄さんからも他の人からも羆出現の話しは聞いていない。

 

 間違ってもお食事にされることはないだろうと、鉄さんの言葉を信じることにした。

 

 姉妹は行者ニンニクに熱を上げているので、高志の不安など一向に気付かない。

 

 「大丈夫、私が守ってあげるから」

 

 あやが玄関口で高志をちらりと窺い見てからかった。

 

 「お願いします」

 

 すかさず応じてから高志は肩のリックをぐいとずり上げて、大股の一歩を踏み出した。

 

 5月の空は柔らかな青に染まり、山は新緑に萌え始めた。

 

 波に揺られながら眺める春の山もいいが、その山を歩くのも悪くはない。

 

 入江を囲む山裾を一つ越える頃は、すっかり汗ばんでいた。

 

 斜面は急だが横切って進むので、さしてきつくはない。その上獣道のような小径は、常に海を見

 

下ろせるので、眺めはすこぶる良い。

 

  

 高志は足下の山菜探しよりも、遠く開けた海に心を奪われていた。

 

 それでも鈴を鳴らすことだけは忘れなかった。大声の方は自分の出る幕はなかった。

 

 

 何せ3人の娘達の口は、終始閉じることはなく、加えて良く笑う。憚ることのないその笑い声が

 

山に木霊し、海に吸われていく。

 

 こんな賑やかな一行に気付かず、突然鉢合わせになる、呑気な羆もいないだろう。

 

 好んで人を襲う羆の話しは、あまり聞いたことがない。

 

 それに彼等は人間が嫌いだ。

 

 多分そうだろう。

 

 彼女達と歩いていると、羆のことなど自然に忘れてしまう。

 

 小一時間も歩いた所で、ゆるやかに開けた陽だまりに出た。

 

 たちまち娘達の喚声が上がり始める。

 

 「あった。これよ、これ」

 

 知恵が高志の手を取らんばかりにして、指し示す所に、鈴蘭のような葉が競うように拡がってい

 

る。

 

 自生する行者ニンニクを、高志は初めて見た。

 

 「ねえ、この葉っぱ鈴蘭にそっくりでしょう。気を付けてね、ここには鈴蘭は無いからいいけれ

 

ど、あっちには毒があるから、里や道端で見付けたからといって、摘んできては危険なんだから」

 

 知恵は高志に念を押した。

 

 「なるほど、必要な知識だ」

 

 高志は頷きながら、彼女の忠告に耳を傾けた。

 

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俳句を一句

2020-06-07 15:44:51 | 俳句 短歌

昨日長生大学でお知合いなったお友達

麗子様から

なつのごあいさつが届いた。

達筆で俳句もステキ

私も触発され

「万緑や」のお題で俳句を創った。

・万緑や五体満足感謝する

何か今一

にも創ってみて・・・とおどすと

・万緑や霞と消えて影もなし

何かお粗末

今朝起きてみると

新聞の端に俳句が・・・

・万緑や風まで染めて香り立つ

さすがぁー物書き

枯渇していなかったのネ

麗子さんのおかげで

久し振りに俳句をひねりました。

 

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